見出し画像

【事実発掘!FACT JAPAN 47 NO.43】奈良県

AD心くんよりバトンを受け、ゴール間近のFACT47に初の参加となりますプロデューサーの細川誠司です。「細川の“ほ”は仏の“ほ”」と自称し、日々慈しみの心をもって暮らしている僕からは、あの有名な聖徳太子の出身地、奈良!を紹介できればと思います。

奈良が来た道

奈良という地名の由来には諸説ありますが、“平らにする”ことを意味する「ならす(均す/平す)」に由来した、「平(なら)された土地」=奈良という柳田國男の説が有力のようです。
初代天皇とされる神武天皇は、熊野で出会った八咫烏に導かれて現在の奈良県に入り、険しい山々を超えて、桜の名所としてしられる吉野に辿り着きます。神武天皇はさらに現在の奈良県橿原市(かしはらし)まで北上して、大和三山の一つ畝傍山の麓に橿原宮を創建し、第一代天皇に即位したとされており(紀元前660年頃)、『日本書紀』を紐解いても橿原が“日本建国の地”ということになっています。
僕の勝手な想像ですが、神武天皇が山々を越えて辿り着き、ついに目にした“平(なら)された”地を、奈良と呼んだのではないでしょうか。

平(なら)された奈良

“平(なら)された”土地、奈良は、イメージの点でも“平(なら)されて”いると僕は感じています。奈良といえば、“大仏と鹿”。ここまで極端でないにせよ、僕を含めた一般的な観光客にとっての奈良のイメージはおよそ奈良公園周辺に集約されています。
実際の観光客の行動を見ても、それは明らかです。観光地イメージが強く、修学旅行の聖地奈良ですが、実は観光地としての課題が山積しています。コロナ前、日本がインバウンド需要に沸いていた頃の観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、外国人観光客が滞在先でどれだけのお金を使うかを示す「旅行消費単価」が、奈良県は平均4527円で、なんと全国最下位!(8442円でブービーの山梨県にもかなり水を開けられています。)観光消費額をアップさせるには宿泊客数をいかに増やすかが重要ですが、この調査の「平均泊数」を見ると奈良は0・8泊とこちらも全国ワースト!90%の観光客が日帰り、平均滞在時間は5時間に満たないというのです。
そう、日本を代表する観光地だと思っていた奈良は、実のところ一人負けの状態だったのです。京都、大阪と大量消費できる2つの都市に囲まれ、空港も新幹線の駅もない。アクセスが相対的に悪く、関西を観光する場合のハブになりにくいことも事実ですが、実際のところ(驚くことに!)奈良県内のホテル客室数は全国最下位!大阪、京都から奈良公園まではアクセスしても、そのさらに奥まで足を踏み入れる観光客は少なく、その結果、奈良のイメージは北部のごく限られた地域の印象によって形成されてしまっているのです。

奈良公園の鹿々

平(なら)されていない奈良へ

奈良は“平(なら)された”土地だと書きましたが、実際の奈良の地勢はまったくそのようにはなっていません。「人が住むことが出来る」土地にあたる「可住地」面積は全国で最も狭く、奈良を画一的に印象づける寺社仏閣等国宝は、北部の平野を中心に配置されており、僕たち観光客は、地理的に“平(なら)されていない”奈良、つまり奈良の南部に横たわる山々の自然を知らないのです。

野迫川村の雲海【吉野郡野迫川村】
奈良の国宝分布地図

奈良県出身で奈良在住の河瀬直美監督が1997年にカンヌ映画祭でカメラドールを獲った『萌の朱雀』では、奈良の青々とした山々を描きました。登場人物たちが古い日本家屋の仄暗い畳の部屋から眺める静かな自然の風景がとても印象的で、それは修学旅行で訪れた観光地とは異なる、奈良の姿でした。
日本の経済力が弱まっていく中、日本が生き残るための資産は「観光」であり「コンテンツ」だと思います。コンテンツを観光に結びつけた手法のひとつに、コンテンツ・ツーリズム「聖地巡礼」があります。この方法によって、観光地として脚光を浴びた町はたくさんあります。河瀬監督も2016年から『萌の朱雀』の舞台となった西吉野(現五條市)の平雄地区で「萌桜祭り」を開催しています。初回開催日となった2016年には映画に登場する尾野真千子さんが演じた「みちる」にちなんで、彼女が学校に行くときに歩いた山道を「みちるロード」と名付けて復活させ話題にしました。

『萌の朱雀』(1997)より

ただ残念ながらこの“聖地巡礼”という魔法はいつかとけてしまいます。
しかし今回、実は奈良でこの期限付きコンテンツ・ツーリズムの運命を変える取り組みが行われていることを発見しました。
それが「なら国際映画祭」です。

「なら国際映画祭」

エグゼクティブディレクターとして推進するのは奈良県出身/在住の河瀬直美監督です。2010年に始まったこの若い映画祭の特徴は「NARAtive」というプロジェクトにあります。この名前は「NARA (奈良)」と英語の「Narrative (物語性 )」がかけ合わされたもので、「奈良らしさを映画におさめ語り継いでいく」という意図が込められています。

「NARAtive」:https://narative.jp/

「なら国際映画祭」は今後活躍が期待される若手の映画監督を招き、奈良を舞台に映画を制作するもので、その制作を日本で活躍する映画スタッフ、出演者、ロケ地の地域の人々がサポートします。この「NARAtive」の監督は、「なら国際映画祭」のインターナショナルコンペティション部門で受賞した監督の中から選ばれ、翌年に撮影を行ない、作品は受賞から2年後の「なら国際映画祭」でプレミア上映されるという仕組みです。まさに映画制作の永久機関であり、奈良の魅力を恒久的に発信し続ける画期的な取り組みだと思います。
これまで「NARAtive」によって制作された作品は7作品ありますが、その内、5作品のロケーションは橿原市(“日本建国の地”)以南になっています。国内外の優れた監督やクリエイターが、 “平されていない” 奈良の魅力を発掘し、現代的な価値を奈良に付加してくれているのです!

2010の「NARAtive」作品、『光男の栗』より
「NARAtive」のロケーション分布地図

立場は違えど、均しく奈良を愛する奈良県の官民が一体となり、コンテンツ・ツーリズムを確立していければ、これまでの“平された”「奈良」のイメージが大きく変わるのではないでしょうか?
「NARAtive」の撮影中の現場に観光を誘致したり、映画撮影に合わせて宿泊施設を建築して新たな観光地にするなど、物語をトレースする聖地巡礼ではなく、それこそ「NARAtive」という名の通り、観光客と一緒に物語を紡ぐコンテンツ・ツーリズムの可能性もゼロではないと思います。 “日本建国”に次ぐ新たな物語が、“平されていない”奈良から、この令和に始まるのです。ワクワクしますね。
自分も映像制作に携わる人間として、FACTのみんなとその土地の魅力を発見し日本全国の“narrative”を発信する仕事に携わっていきたいと思います!
 
というわけで、次回はFACT JAPAN47の始祖、堀田より最終ターンに入っていきます!最後まで応援お願いします!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?