見出し画像

不正で「ものづくり日本の信頼が揺らぐ」と書くメディアの方々へ

 7月5日、トヨタ自動車の子会社、株式会社トヨタ カスタマイジング&ディベロップメント(TCD)が緊急記者会見を開いた。

 TCDは、2018年にトヨタテクノクラフト、ジェータックス、トヨタモデリスタインターナショナルの3社が統合した会社で、傘下のブランドにTRDやモデリスタがある。チューニングパーツの販売やモータースポーツ事業を手掛ける会社だ。

 23年5月に公正取引委員会から調査要請が入り、同年7月から実地調査を開始。その結果、公正取引委員会から「不当な返品」と「金型等保管費用の未払い」の2件の指摘があり、24年7月5日午前の公取からの勧告を受けて、同日午後記者会見に至った。

 以下、違反の内容を同社のリリースから抜き出す。つもりでいたが、文章としてあまりにも読みにくいので、大幅にリライトをかけてわかりやすくする。オリジナルが読みたい方はリンク先(こちら)を参照のこと。

 違反内容は大きく分けて2つ。

1:不当な返品
下請法が規定する返品方法以外での返品を行った。

出所:TCD

 商取引の原則論に則れば、部品受領時には発注元(TCD)が品質検査を実施するが、この検品業務は納入業社に委託することもできる。ただし、下請法ではこの委託は文書で品質検査の委託をした場合に限る。

 TCDのビジネスは、製造委託業社から納品された自社ブランド部品、例えばチューニングパーツをディーラーや小売店に販売し、それらの店舗でユーザーの車両への取り付け作業などを行う、という流れのものがある。この場合、製品に不良があればディーラーや小売店で発覚することになる。TCDはこうした不良品が出た際には、不具合を納入業社と現物で確認して、納入業社が不具合を認めた部品のみ返品していた。

 仮に検品の業務委託が成立していれば、これは違法ではない。だが、TRDは納入業社に対して文書での検品委託をしていなかった。

 TCD自身の説明によれば「当社では、取引先様と取り交わした部品取引基本契約書をもって、取引先様に品質検査を委託しているものと誤った認識をしておりました」とある。

 文書で委託する手続きを怠っていたことに気づいていなかった。というよりおそらくは、「納入される全てが良品で当たり前だし、不良品は返品できて当然」という認識でいたものと思われる。正直筆者もごく普通に、製造者自身が不良品だと認めたものを返品できないケースがあるとは想像もしていなかった。

 しかしながら、下請法の規定では、文書での品質検査の委託をしていない以上、受領後に不良品が発覚した場合、「自社での検品義務を怠ったまま受領確認済み」ということになり、受領済みの時点で自動的に以後不良の話は不問、ということになるらしい。よってこの返品は、下請法第4条第1項第4号(返品の禁止)の規定に違反する、と判断される。

 本違反行為の対象となるTCDの取引先は65社。すでに対象取引先に返品を撤回し、合計約5,400万円を支払い済み、とのことだ。

2:金型等保管費用の未払い
下請法では「発注元に所有権がある金型」等の長期保管について、発注元がその保管費用を負担することとなっている。これを怠った。

出所:TCD

 TCDは、「取引先に貸与している金型等の保管費用は、部品の単価に含まれている」と誤った認識をしていた。これについて取引先と明確な協議もしていなかった。結果、当該の金型を使う製品の発注を長期間行わないまま取引先に無償で保管をさせてしまった。これが、下請法第4条第2項第3号(不当な経済上の利益の提供要請の禁止)の規定に違反すると判断された。

 本件対象の取引先は49社(対象金型等は664個)で、一部金型等は既に廃棄の対応を実施。取引先との補償協議も既に開始している。保管費用相当額については、公正取引委員会の確認を得た後、速やかに対象取引先に支払いをする予定、とのこと。

 さて、当案件、法の定める規定に違反しているかいないかで言えば「違反している」。法に違反している以上、悪いか悪くないかで言えば、「悪い」ということになる。善悪の話をするなら以上で、違反した悪い会社がありました。というニュースだ。

 なので、そこだけが知りたい人には以上のお話でおしまい。ただ、こういうことが何故起きたのか、そしてその先、再発防止をどうするのか。

 という話をこれから始めたい。「違反した会社が実は悪くない」、という話をしたいわけではなくて、これから先の話、それは例えば罰則を厳しくすれば以後こういう問題がなくなるのかどうかを考えよう、というものだ。

「プロならすべてを完璧に行うべき」という前提

 今回の会見はリモートでの視聴ができないものだったので、空梅雨の炎天下に会見が開かれた日本自動車工業会の会議室まで出かけて行った。そこで彼らの態度を見て、説明を聞き、かつ質疑応答を経て筆者が得た心証としては、TCDはこの「違反行為」を行っていた最中に「我々は悪いことをしている」という自覚はまるでなく、むしろ公取から調査依頼を受けて愕然としたのであろうことが伝わってきた。

 たぶん、自意識としては「善良なる発注者」であり、これまで、報道などで下請法に抵触する案件などを目にした時も「世の中には悪い会社があるんだなぁ」と思って見ていたのだと思う。そのくらいTCDには触法行為の自覚はなかったように見えた。

 それは「TCDが下請けについて、それほど無知・無自覚だった」という、より深刻・重大な問題を示唆するのだろうか。

ここから先は

6,733字

オリジナル記事たっぷり読み放題プラン

¥1,100 / 月
初月無料
このメンバーシップの詳細

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?