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「DXの定義とレイヤー」

DXの定義

経産省によると、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」とあります。

これはその通りで全く異論はないのですが、別の言葉に置き換えてみようと思います。

「企業をソフトウェア化(コンピュータとネットワークによる論理空間に構築)することによって、顧客や社会とつないで真のニーズを知り、それに答える製品やサービスを提供するビジネスモデルやエコシステムに変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

この企業のソフトウェア化、つまり、物理制約を外した状態にして論理空間上に企業活動における要素をデータとプロセスに抽象化して構築することがDXにおける基本の基であると言えます。
尚、この基本の基がすでにできている米国や米国を真似た日本以外の国と、できていない残念な日本とでは、DXのスタート地点が異なることを理解したうえでDXに取り組んでいく必要があります。これについてはITガラパゴスの日本で述べた通りです。

IoT/BIGDATA/AIの役割

DXの文脈のなかでよく出てくるIoT/BIGDATA/AIなどは、本来はソフトウェア化した企業においてパワーを発揮するものです。
コンピュータとネットワークによって作られた論理空間上にソフトウェア化した企業と、実際の現地現物人物を結びつけるの技術の総称がモノのインターネット:IoTです。そして企業活動に伴って収集された、今までの伝票データをはるかに超える大量データがBIGDATA、そしてそのBIGDATAを解析して最適化に向けた課題や解決策を見つけるのがデータサイエンティストの役割であり、AIはBIGDATAで学習し、自動化や効率化を図る役割を担います。

しかし、ソフトウェア化していない企業で導入しても無意味というわけではありません。部分的であっても、効果を発揮する領域で活用することによって、DXの効果を実感し、流れを止めないという意味はあるでしょう。ただし、企業をソフトウェア化するタイミングでつなげることだけは想定してデザインしておきたいものです。

DXのレイヤー

DXを進める上でスコープとして意識すべき以下5つのレイヤーがあります。

  1. 一人ひとりの個人
    すべての基本となる一人ひとりの働き方、企業・団体との関係性のレイヤー

  2. 業務オペレーション
    特定の何かをアウトプットするための様々な業務オペレーション(コンピュータ・専用機器・人間の作業による)のレイヤー

  3. 組織と組織間連携
    企業内の組織、業務委託先、購買先、販売先、仲介先など、お客様がその企業が提供する価値(製品・サービス)を受け取っていただくための価値創造ネットワークのレイヤー

  4. 事業(ビジネスモデル)
    お客様の問題解決に寄与する価値(製品・サービス)を創造し提供する仕組みのレイヤー

  5. 社会
    企業が属する業界のみならず、学会なども含めた社会全体におけるあり方のレイヤー

一人ひとりの個人のレイヤー

すべての基本となる一人ひとりの働き方、企業・団体との関係性に関する、一人ひとりの個人のレイヤーでは、デジタル変容する社会における、働き方や個人と企業・団体との関係性のありかたが問われます。
先進国では少子高齢化が進み、特に日本では、いかにして介護と子育てと仕事を両立させるかというのが、このレイヤーでは基本的なイシューだと言えるでしょう。そのために働く場所や時間を限定しない自由度の高い働き方を提供する企業も出てきましたし、フルリモート勤務前提での雇用形態を選べる企業も出てきました。地方の企業などでは人財確保が難しいため、フルリモート雇用によって、都市部の優秀な人財を確保するという狙いです。
当然、個人も知識・ノウハウ・スキルを磨き、自立した働き方ができるようになる必要があります。
最終的には、競争優位な知識・ノウハウ・スキルを持った個人でチームを組んで高い価値を創出できるようにした企業が競争優位な状態を獲得することになります。目指す姿は個人個人がお互いに尊重するとともに尊重されるにふさわしい存在であり続けんとし、個人と企業の関係も対等な関係として価値提供とそれに対する対価(対価は金銭だけではなく、成長の場、出会いの場も含みます。)を提供するという状態です。Web3.0の時代にはまさにそれがグローバルに拡大していくことになるでしょう。
したがって、企業の中においても、個人と個人の関係は、上司部下の関係も仕事においては対等であり、購買先であれ販売先であれ、パートナー企業に属する個人との関係も対等にならなければ、競争優位な価値を創造し、お客様に届けることはできなくなるので、人としても成熟が求められることになります。
例えば、購買元企業の担当者が購買先企業の担当者に対して横柄な態度をとる、子会社の社員に対して親会社の社員が横柄な態度をとるような人は、バリューネットワークにふさわしくないということになって、存在感を示すことはなくなるでしょう。

業務オペレーションのレイヤー

特定の何かをアウトプットするための様々な業務オペレーションのレイヤーでは、そこで実行されるプロセスが、コンピュータによるもの、特定の機器によるもの、人間の作業によるものに関わらず、顧客への提供価値の創造・向上に寄与しない業務になっているかどうか、つまり陳腐化しているかどうかの見極めが非常に重要です。
まず第一に、顧客への提供価値の創造・向上に寄与しない業務は即刻やめて余力を生み出し、労働時間の短縮/顧客提供価値創造・向上業務へのスイッチ/自己成長のための投資に使えるようにしましょう。
よく、DXということで、すぐさまRPAを入れようとする人がいますが、顧客提供価値創造・向上に寄与していない即刻やめるべき業務を自動化するなどもってのほかです。
次のステップとしてRPAなどを用いて自動化・スピードアップを図り、さらに余力を創出していき、労働時間の短縮/顧客提供価値創造・向上業務へのスイッチ/自己成長のための投資を拡大していくことで、個人と企業の対等な関係への第一歩にしたいものです。
最終的には、コンピュータとネットワークによって作られた論理空間上に業務オペレーションで実行されている業務プロセスとデータを、オンラインリアルタイムで各種トランザクションを処理するソフトウェアとして構築することで、業務パフォーマンスのモニタリングが可能な、組織横断かつ具体論で全体最適を追求していく体制を具現化していきます。
ただ、ITガラパゴスの日本で述べたように日本企業の多く、特にコンピュータ化の歴史の長い企業や情報化が進んでいない企業は、紙ベースか紙ベース時代の業務オペレーションがそのままコンピュータ化されているため、取引先含めたバリューチェーンでお互いにバッチ処理連携で縛りあっている状態のまま30年以上進化が止まってしまっています。
当然、論理空間上にソフトウェアをデザインする能力はもちろん、出来合いのERPをBPRを伴って導入するスキルがあるコンサルタントやエンジニアも極めて希少な状態にあります。

組織と組織間連携のレイヤー

企業内の組織、業務委託先、購買先、販売先、仲介先など、お客様がその企業が提供する価値(製品・サービス)を受け取っていただくための価値創造のためのネットワーク、所謂エコシステムについてのレイヤーでは、各々の発揮する価値の総和と、その価値提供に対する競争優位性が問われます。
各々の組織の価値発揮能力の優位性と参入障壁の高さ、価値創造ネットワーク全体としての優位性と参入障壁の高さの双方が問われるという意味です。
そして、自企業がその価値創造ネットワークにおいて必要不可欠であることが重要です。
そのためには、すべての組織において、競争優位な技術やノウハウなどを見極めたうえで、いかにして守り磨いていくかを考え、そのために体制を整える必要があります。逆に競争優位でないものは、徹底的に磨いて競争優位を獲得するか、競争優位な企業にアウトソースしていかないと、大切な人的リソースを無駄遣いすることになり、組織も人も不幸になります。
そして他企業に簡単にスイッチされない組織であり続けるということが重要なことです。
それと同時に、お互いに優位性があり、高い参入障壁をもち、不可欠な存在であり続けられるよう、切磋琢磨できる信頼関係がなければ、すぐにほころびが出で来るでしょう。
少なくとも利害関係がフェアであるようなスキーム構築が最低条件です。

事業(ビジネスモデル)のレイヤー

お客様の問題解決に寄与する価値(製品・サービス)を創造し提供するという事業そのもののレイヤーでは、いかに代替不能で参入障壁の高い事業を行うかということが問われます。そして代替不能(困難)で参入障壁が高い事業は収益性も高く、周辺価値を取り込みながら成長していく原動力を提供してくれるでしょう。
しかし、人、業務、組織の各レイヤーがプラットフォームとして充実していないと、その成長は限定的なものとなり、いずれ輝きを失うことになります。

社会のレイヤー

企業・団体が属する業界のみならず、学会なども含めた社会全体におけるあり方のレイヤーでは、社会課題に対する解決寄与度合いが大きいほど、企業自体の存在価値が大きくなり、外部のステークホルダーからの期待感も膨らみます。従業員も社会における価値発揮に寄与していることに誇りを持って仕事をしていくことになるでしょう。

各レイヤー間の関係

一人ひとりの個人のレイヤー抜きで業務オペレーションのレイヤーだけで各種の取り組みを進めていくことはできたとしても、実際に求めた結果を得ることはできません。同様に業務オペレーションのレイヤー抜きに、組織と組織間連携のレイヤーの取り組みは絵に描いた餅にしかなりません。
つまり、人⇒業務⇒組織⇒事業⇒社会というレイヤー間の関係において、社会を上位レイヤーとするならば、下位のレイヤーは上位のレイヤーの前提条件になるということです。
DXは、各レイヤーの取り組みを同時に進めることはできますし、同時に進めないといつまでのゴールにたどり着くことはできませんが、下位のレイヤーのステージアップ抜きでは、上位レイヤーのステージアップもできないのです。
では下位のレイヤーが常に上位のレイヤーのステージの前提条件を満たしている状態になればいいかというと、上位のレイヤーのステージがあってこそ、下位のレイヤーに条件が求められてそのステージが維持されるという側面があるので、各レイヤーのモニタリングを行いながら、レイヤー間で連携をとりながらDXを進めていく必要があるということになります。

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