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牛と街灯4 ゲストリコメンダー

牛と街灯4 

2023年8月18〜20日に大阪市豊中市庄内のギャラリー&リトルプレス専門店「犬と街灯」で行われた「牛と街灯4」でゲストリコメンダーとして私家版歌集3冊を紹介させていただきました!

【牛と街灯】とは
歌人の牛隆佑さんによる私家版歌集収集企画。通年「犬と街灯さん」の一角を使用し、私家版歌集の販売を行っています。(私も短歌ZINEを置かせてもらっています)また不定期でイベントフェアも開催し、トークイベントやゲストリコメンダーによる歌集の紹介・パネル展示を行っています。
詳しくは牛さんのブログで↓

今回第4回目のゲストとして、牛と街灯で取り扱っている私家版歌集の中から3冊紹介しました!
歌集の中から1首取り上げ、その歌や歌集全体に関する文章を寄せています。

①「ねこのね、」  御糸さち

美容院めっちゃあるよね人間の頭の数は決まってるのに(「ねこのね、」p 18)

 「日本にある美容院の数はコンビニよりも多い」らしく、その差大体4倍だという。多ッ! 髪はどんどん伸びるし滞在時間が長いので確かに数は必要だが、客のことを「頭の数」と言ってしまうと、平和な街に不穏な空気が急に立ち込める。髪の毛ではなく代替のきかない頭部を美容院に差し出してしまうような。

 「ねこのね、」は家族や子どもとの生活がベースの歌が多い印象。しかし微笑ましい歌にニコニコしながら次のページをめくると、エッとなるような思考の短歌がたまにあって、勝手に思い浮かべていた平穏で無害そうな人物像が急に歪む。微笑ましくない、ただ一人の人間が突如現れる。そこがとても怖くて面白い。


②「そして骨になる」塚田千束

晴れしのちひときわかたく冷えゆけば美しさとは鋭さのこと(「そして骨になる」p5)

 「そして骨になる」に載っている短歌に描かれる季節は春夏秋冬、どの季節も静かで音のない景色が見える。歌集を読みながらそのおだやかさにたゆたっていると、突如キラーフレーズというか言い切りがかっこいい歌が現れておお!と1首にバッサリ切られた気分になる。

 さりげないタイトル、オーロラのようなやさしい色合いのドッツセレクト箔のあしらいも歌集の雰囲気と合っているなあと最初思ったのだけど、光が当たるとタイトルが雷のようにパキッと光ることに気づいてからはよりこの歌集にふさわしい装丁に感じている。おだやかにみえて閃光のように鋭い短歌を味わいたい人におすすめの歌集。


③「クランクアップ」なべとびすこ

祝日に出勤するたびちょっとだけ会社の好感度が薄くなる(「クランクアップ」p 82)

 たまにあるなぜか祝日出勤の会社。「※休日は当社社内カレンダーに準ずる」と書いてある系の会社ですね。
 きっとそこまで嫌な会社じゃないんだろうけど、なんか腑に落ちないまま出社する。少したどたどしいリズムは、行きたくないと駄々をこねているインナーチャイルドが短歌の中にいるように感じる。(ちなみに著者は祝日のたびにこの短歌をSNSに投稿している気がするのでおそらく実景なんだと思う。)

 「クランクアップ」の短歌はいつも少しだけアンラッキーな世界で暮らしていて、当たる光も決して眩くはないのだろうけど、居心地の良い不運というものもあるんだということを教えてくれる気がする。


会期中はこのようなかんじで展示していただいたようです。

フェア中は行けなかったのですが、その少し前に大阪に行く機会があり、犬と街灯さんにも寄ったのですがとても素敵な雰囲気でじっくり歌集が選べて良かったです!人の短歌に関する文章を書くのはなかなかないことだったので難しくも楽しかったです。ありがとうございました。


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