Morte di Romeo(ロミオの死)

※この記事はミュージカル ロミオ&ジュリエットのイタリア演出版「Romeo e Giulietta ama e cambia il mondo」のDVD全編和訳とその感想、公演の情報やセット・衣裳などについてまとめたマガジンの一部です。シーンごとに記事を分け、投稿が古い記事から順番になっています。
※イタリア語の歌詞、台詞は掲載しておりません。記事前半はシーンの日本語和訳、後半はシーンの感想、考察で構成しています。


La tomba di Giulietta 

〔パリデ〕
出て行け!

〔ロメオ〕
嫌だ!僕は出て行かない!

〔パリデ〕
出て行け!

♪Morte di Romeo(ロミオの死)

〔ロメオ〕
彼女に何をした
僕の愛する人に
君に何をした
僕の心臓に
最後に誰が勝ったんだ
僕たちを引き裂いて

彼女に何を言った
裏切り者たち
その瞳から色を 奪うために
何をした 何故
誰が君の輝きを壊したんだ
この心を締め付ける

終わりだ
僕は行く
君と共に死のう
キスを一度して
そして泣こう でも君は
今はただこのまま
もう一度
唇を重ねて
君のところへ行くよ
そこでは永遠が
僕らを待っている

終わりだ
僕は行く
お前たちはこの空を引き裂いたんだ
この目に君を焼き付けよう
僕はもう戻らないから
息の扉を永遠に閉じてしまおう
君といよう
この世界は どうなるのだろう
僕らのいなくなった後で

■シーンの感想と考察■

■Mantova~Verona / La tomba di Giulietta■
ジュリエッタの訃報を聞いてマントヴァからヴェローナへと駆け戻るロメオのシーン。映像はロメオの視線になっているのか、揺れるカメラが夜のヴェローナの路地を進んでいくものになっています。
今までこういう映像は使っていなかったと思うので突然だなとは感じるのですが(ロメオの進行方向と映像の進む向きも違うので…)、他でも使われていれば、素敵な映像だし好きだなあと思います。例えば♪Il re del mondo(世界の王)でモンテッキの皆が街を歩きながら歌っているように背景を奥へ流すとか、そんな使い方がこのシーンより前でもあると違和感が減るのかなあと思います。
ただDVDだと背景の映像があまり映っていないので確認できていないだけかもしれません。やっぱり生で観たい…!カメラワークは演出意図が伝わりやすいし細かい表情まで見られて素晴らしいのですがやはり好きな作品は全体像をこの目で見てみたいですね。

ここで女性ダンサーたちが骸骨の仮面をつけて登場します。ロメオに薬瓶を見せる彼女たちはジュリエッタと同じ白いワンピース姿に長い黒髪で。「死んだジュリエッタがロメオに毒薬を差し出して(死の世界に)呼んでいる」というロメオに見えている幻覚であり、マントヴァからの道すがら毒薬を買い求めたことを表現しているのでしょうか。
沢山の幻影がそれぞれ毒薬を差し出す中から最後の1人のものを受け取るのは、ロメオにはもう死しか見えていないという追い詰められた精神状態の表現と、種類ある毒薬の中から一番強いもの、確実に死ねるものを選んでいるようにも見えます。そしてこの仮面のデザイン、リアルすぎず安っぽくもなく絶妙なラインで素敵です。美しくさえ見えてくるのが「死」に魅入られ、魅入ってしまうロメオは♪Io tremo(僕は怖い)で死とロザリーナをダブルミーニングで美しい女と歌っていたことを思い出させます。

そういえば、このシーンのダンスでロメオが毒薬を手に入れるので「薬売り」の曲は歌わないのですね!自然な流れすぎて最近まで気付きませんでした。薬売りの曲も旋律が美しくて好きですが…。イタリア版は「死」の役がいないので、ここで新しく薬屋を1人出すよりも、ジュリエッタの姿をした死を群舞で描く方がロメオの見ている幻覚や悪夢のようでいいと思います。

霊廟にはジュリエッタと今日結婚するはずだったパリデが既にいて、花嫁の亡骸の横で涙に暮れています。パリデは何も悪いところがないのでシンプルに可哀想なのですが…。
ジュリエッタの自殺の原因をテバルドの死だとパリデが思っているとすればロメオは彼にとってジュリエッタを死に追いやった人殺し。憎くて仕方ないでしょうが襲いかからず「出て行け」と言い放つところがまた紳士!でもロメオが去らないので、丸腰にも関わらずロメオに向かっていき、咄嗟に構えられた剣の上に倒れこんで死んでしまいます。
なんて哀れ。罪なき優しい紳士であったパリデが憎しみに駆られて飛び出した途端に、その憎しみのうちに死んでしまうとは。
原作ではパリスとロミオが決闘を行うのですが、他バージョンではこのシーンにパリスがいなかったり(つまり生き残りエンド)、原作通り決闘させたり(ハンガリー)します。これはパリスのキャラクターをどう描くかにもよりますね。原作踏襲部分が多い演出で王子様風のパリデのイタリア版ではこのアレンジが合っていると感じます。
メルクーツィオの仇を取る形だったテバルドの殺害とは明らかに違う、罪のないパリデを殺してしまったロメオは彼の手を胸の上に組ませてジュリエッタの元へ向かいます。ここで大きく嘆いたりしないのは、もう自らも死ぬつもりでいるからでしょう。

■♪Morte di Romeo(ロミオの死)■
とても美しいメロディの印象的な曲です。「またいつか会える」と再会を誓って別れたはずのジュリエッタがこんなにも早く自害してしまったと思っているロメオは日本版にあるような「なぜ死んでしまったの」というジュリエットへの問いではなく「誰が彼女を死に追いやったんだ」と彼女の死は誰かから追い詰められたためだと考えてその相手を責めています。自分たちを引き裂いて、誰が良い思いをするのか、と。
「終わりだ
僕は行く
お前たちはこの空を引き裂いたんだ
この目に君を焼き付けよう
僕はもう戻らないから
息の扉を永遠に閉じてしまおう
君といよう
この世界は どうなるのだろう
僕らのいなくなった後で」
曲最後のこの部分の歌詞が大変美しくて好きなのですが、まず「この空を」の部分でカメラが引いてステージから、ヴェローナの夜空の下にあるこの劇場全体を映します。ここでもう一度、この場所がまさにヴェローナその場所であったことを思い出すのですが、観客がいるのはロミオとジュリエットが愛を囁きあった夜、霊廟で息を引き取った夜と同じ夜空の下で、同じ街で同じ風、空気を肌に感じながらこのシーンを見ていることを再度認識させられます。とても良いカメラワーク。
そして「僕はもう戻らないから(この目に君を焼き付けよう)」というフレーズも印象的な言い回しなのですが、これはおそらく♪Il veleno(服毒)でジュリエッタが「私は戻ってくるわ(彼の元へ)」と歌っているのと対になっていると思われます。「僕はもう戻らないから」というのは言葉の表現としても本当に印象的で、さらにロメオの、この世界への深い絶望、もう彼を引き止めるものがないことを突きつけられるようで胸に刺さります。
「息の扉」という言葉も詩的なイメージがあり、彼の心も閉ざされてしまったように感じます。
そして最後に「この世界は」と自分たちがいなくなった後でも地獄であり続けるのか何も変わらないのか、何かが変わるのだろうかという言葉を残して毒薬を煽ります。
作品のテーマソングが「世界を愛し世界を変えよ」であり、この愛によって何かが変わるかもしれないと希望を持っていた彼の心の悲しみが一層強く感じられます。僕らが愛し合い、そして死んだその後で、世界は変わるのだろうか、それとも変わらないのだろうか。

♪Colpa nostra(罪びと)の記事で書いていますが、「ロミオとジュリエット」という作品が400年もの間色褪せないこと。そして現在では作品の舞台を近現代、街もヴェローナに限らない現在の様々な都市を想定した演出の方が、台本そのままの演出よりも主流の作品であること。それが意味するところは、今でもロミオとジュリエットは「遠い昔の話ではない今の私たちの物語」なのです。400年間、何人の、何百人何千人のロミオとジュリエットが苦しんだかを思います。
世界を変えるのは私たちなのです。だからこそ、この作品のサブタイトルは「世界を愛し世界を変えよ」と命令形が使われているのだと思います。




※注意事項(当note内共通)

・イタリア版ロミオ&ジュリエットのカンパニー、関係者の方々とは一切関係ありません。当noteの内容は1ファンによる訳であり、感想、スケッチですので公式の見解ではありません。

・私のイタリア語は超入門レベルです。1年半かけてなんとか訳しましたが、拙いものだと思います。間違いもあるかと思いますのでその点ご注意ください。

・当noteに掲載されたイタリア版のミュージカルナンバーの日本語訳のテキストや衣裳イラスト、平面図、3D画像などは筆者による訳でありイラスト作品ですので無断転載はご遠慮ください。

・それぞれの記事は公開後も随時内容を追加、修正などしていきます。ご了承ください。(テキストもイラストも時々修正・加筆されてる可能性があるので思い出したらまた見に来てくださると嬉しいです)

・記事中ではカンパニースタッフ、キャストの皆様のお名前を、イタリア語表記・カタカナ表記に関わらず敬称を略させていただいています。ご了承ください。

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