Io tremo(僕は怖い)

※この記事はミュージカル ロミオ&ジュリエットのイタリア演出版「Romeo e Giulietta ama e cambia il mondo」のDVD全編和訳とその感想、公演の情報やセット・衣裳などについてまとめたマガジンの一部です。シーンごとに記事を分け、投稿が古い記事から順番になっています。
※イタリア語の歌詞、台詞は掲載しておりません。記事前半はシーンの日本語和訳、後半はシーンの感想、考察で構成しています。


Dov’è Romeo ?

〔モンテッキ夫人〕
ベンヴォーリオ!
誰がこんな古い争いに再び火を付けたの?
甥っ子よ 話してちょうだい
あなたは初めからここにいたの?

〔ベンヴォーリオ〕
初め、私が来た時にはもう、互いの使用人たちがやりあっていました。私は、皆を引き分けようとして、しかし、その瞬間、突然テバルドが現れて、挑戦的に、煽り、仕掛けてきたのです。それで、殴り合い、突き合いになり、そこへ大公殿下が来られて(私たちを引き分けられたのです)

〔モンテッキ夫人〕
ロメオ…ロメオはどこに?
今日あの子を見たかしら?

〔ベンヴォーリオ〕
ええ、ええ。今朝、物思いに耽りながら、森の中を歩いているのを見ました。近寄ろうとしたけれど、逃げられてしまいました

〔モンテッキ夫人〕
繊細なあの子は、陽の光から隠れるように家の中で、自室に籠り窓を閉めてしまうの。外の昼の光を締め出して、人工の夜を作っているのよ。こんな暗い気持ちでいたら、身体にも悪いわ。良い忠告を受け、その原因を取り除かなければね

〔ベンヴォーリオ〕
ご覧を!こちらへやって来ます!
よろしければ、隠れてください。
彼の悲しみが何なのか聞き出してみます。
さあ、行ってください!

♪Io tremo(僕は怖い)

〔ロメオ〕
僕の友よ 兄弟よ
僕らは強く結ばれているだろう
君の中に死を感じたことはないか
彼女の吐息を 僕らの間で

僕には明日なんて来ないんだ
あの人なしでは自分を見失う
僕でなくなったみたいだ 戯れはしない
僕の苦しみを君に話そう

僕は怯えている そして畏れている
彼女の心の中で包囲され
君はいたずらに僕を擦り減らす
彼女と僕をつなぐ
言葉なんか ありはしない

僕は怯えている
僕は怯えている
僕は怯えている
僕は怯えている そして畏れている

矢では あの人の鎧を貫けない
彼女の純潔は太陽を覆い隠している

友たちよ 兄弟たちよ
君たちを永遠に満たすものは無いだろう
花は今君を酔わせている
その花を冬は枯らすんだ
僕を信じてくれないか
青春は
どこか欠けた空
僕らの前で荒れ狂う
海に慈悲などありはしない

僕は怯えている そして畏れている
黄金も彼女の五感に敵わない
あの人の富など もう値打ちも無い

僕は怯えている
僕は怯えている
僕は怯えている
そして畏れている

誰も僕に教えられない
彼女を想わずにいる術など
あの人の瞳を隠す美など存在しない

僕は怯えている
僕は怯えている
僕は怯えている

La tristezza di Romeo 

〔ベンヴォーリオ〕
おはよう 従兄弟
どんな憂いがロメオの時間を引き延ばしてるんだ?

〔ロメオ〕
時間を急かすものが手に入らない

〔ベンヴォーリオ〕
恋をしてるのか?

〔ロメオ〕
いいや!あの人の愛の恵みが受けられない
真面目な話なんだ 従兄弟
愛しているんだ 女の人だよ

〔ベンヴォーリオ〕(CDのみ)
誰だよ

〔ロメオ〕
ロザリーナ

〔ベンヴォーリオ〕
ロザリーナ!だいたい当たってた

〔ロメオ〕
君は手練れの射手だからな

〔ベンヴォーリオ〕
良い的なら直ぐに当たるんじゃないのか?
麗しの従兄弟殿?

〔ロメオ〕
ロザリーナは巨万の美を持ってる
そしてあの人は死ぬ時に、その美しさ、豊かさと共に死ぬんだ

〔ベンヴォーリオ〕
それじゃ、純潔の誓いを立ててるのか?

〔ロメオ〕
立てた!立てたんだ!

〔ベンヴォーリオ〕
俺のアドバイスに従うんだ。彼女のことを考えるのはもうやめろ。他の美に目を向けるんだ!

〔ロメオ〕
無理だ。
君にだって、彼女の忘れ方を教えるなんて出来ない

〔ベンヴォーリオ〕
できるさ。でなきゃ俺は良心に苛まれて死ぬぞ!

■シーンの感想と考察■

「Io tremo(僕は怖い)」イタリア版の1番の特徴はやはり曲順だと思います。
多くの国では「世界の王」の後、1幕中盤に入るか…?というところで歌われる曲ですが、イタリア版ではロメオの初登場と共に歌われる位置に変更されています。私は初めて見たのがイタリア版だったのと、シェイクスピアの原作は読んでいたので「ロミオが物思いに耽りながら登場するシーン」だな、と思っていて原作通りなので違和感は全く無かったのですが、他のバージョンだとこの役割は♪Quando(いつか)の曲が担っているのですね。

そしてこれも他の国と違う(と思う)のですが、(少なくとも日本版にはない要素)ロメオがジュリエッタと出会う前にロザリーナ(ロザライン)に叶わぬ恋をしている、という設定が生かされています。
ロメオが「彼女」「あの人」と言っている「Lei」は「死」と「ロザリーナ」のダブルミーニングになっていると考えられます。イタリア語には女性名詞、男性名詞というものがあり、全てのものに男女の性別があります。フランス語もそうですね。「死」は女性名詞なので、三人称で呼ぶ時には「彼女」となります。イタリア版にはいませんがフランスなどの「死(morte)」が女性の役なのも、そこに理由があるのです。日本語だとそのイメージは無いので日本では男性も演じていますね。
他に「狂気(follia)」も女性名詞で、メルクーツィオが「俺の恋人」として女性に例えて歌っています。

歌っている時はロザリーナの名前は出てきませんが、「死」という逃れられないものへの恐怖を抱きながら、それに心を囚われているロメオと、美しく高潔な(純潔の誓いを立てているので相手にしてくれない)ロザリーナへの気持ちが、どちらとも取れるようになっています。
そしてこの「どんな美も永遠ではない」という嘆きは、シェイクスピアのソネットを連想させますね。どんなに美しいものも時が経てば老いて美しさは損なわれ、そして死へと向かっていく。「彼女」を「死」として聞いた時と「ロザリーナ」として聞いた時では曲の感じ方も違ってきて大変奥深いですね。




※注意事項(当note内共通)

・イタリア版ロミオ&ジュリエットのカンパニー、関係者の方々とは一切関係ありません。当noteの内容は1ファンによる訳であり、感想、スケッチですので公式の見解ではありません。

・私のイタリア語は超入門レベルです。1年半かけてなんとか訳しましたが、拙いものだと思います。間違いもあるかと思いますのでその点ご注意ください。

・当noteに掲載されたイタリア版のミュージカルナンバーの日本語訳のテキストや衣裳イラスト、平面図、3D画像などは筆者による訳でありイラスト作品ですので無断転載はご遠慮ください。

・それぞれの記事は公開後も随時内容を追加、修正などしていきます。ご了承ください。(テキストもイラストも時々修正・加筆されてる可能性があるので思い出したらまた見に来てくださると嬉しいです)

・記事中ではカンパニースタッフ、キャストの皆様のお名前を、イタリア語表記・カタカナ表記に関わらず敬称を略させていただいています。ご了承ください。

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