Mio Dio pietà (神よ 慈悲を)

※この記事はミュージカル ロミオ&ジュリエットのイタリア演出版「Romeo e Giulietta ama e cambia il mondo」のDVD全編和訳とその感想、公演の情報やセット・衣裳などについてまとめたマガジンの一部です。シーンごとに記事を分け、投稿が古い記事から順番になっています。
※イタリア語の歌詞、台詞は掲載しておりません。記事前半はシーンの日本語和訳、後半はシーンの感想、考察で構成しています。


Piangi insieme a me 

〔ジュリエッタ〕
扉を閉めてください!
そして共に泣いてください!

〔神父〕
おおジュリエッタ!お前の涙の訳は知っている。
木曜を先延ばしには出来ず、お前はパリデと結婚しなくてはいけないと。

〔ジュリエッタ〕
お知恵をお貸しください!
手立てを教えてくださらないのなら、道は1つ。心を決めましょう。この剣で一息に決着をつけます!

〔神父〕
落ち着け!落ち着きなさい、娘よ。落ち着いて。
お前が怖れず勇気を持てるのなら、策はある。
家へ帰り、明るく振る舞いなさい。
パリデとの結婚を受け入れるのだ。
明日の夜、床に就いたら、
支度をして、この薬を飲みなさい。
眠りがお前の命に入り込むだろう。
瓶の中身は仮初めの死。
薬の効果は42時間続く。
そして穏やかな眠りから覚めるように、
お前は目覚めるだろう。
その前に、ロメオにはここへ来るよう手紙で伝える。
その夜のうちに、彼がお前をマントヴァへ連れ出すのだ。

〔ジュリエッタ〕
愛よ、私に勇気を与えて
勇気よ、私に力を貸して

♪Mio Dio pietà (神よ 慈悲を)

〔ジュリエッタ〕
私たちの内で 海が轟く時にはもう
あなたは望みなど持っていないのですね
あなたの内で その御心が凍りつく時にはもう
あなたのお顔は見えないのですね
全てが落ちゆく時にはもう
あなたはお分かりにならない あなたが誰なのか

〔ジュリエッタ、ロメオ〕
私の神よ 私の神 私の神よ どうか慈悲を

〔ロメオ〕
いつだって僕たちは 最後にはあなたのもとへ帰る
絶望の淵の船乗りたち
僕らの災いの波間 彷徨っている
罪があなたを浸蝕してゆく時にはもう
あなたは慈悲を示さず 理由も教えてくれない
幼子たちが眠らない夜のように

〔ジュリエッタ、ロメオ〕
そして調和が壊される
それぞれの人生のあとで 私たちは
泣きながら跪き 崩折れるのだろう
私の神よ 私の神 私の神よ どうか慈悲を

慈悲を 私たちの共通項のために(※1)
私たちは あなたの目で泣きます
私たちを見捨てないで

〔ロメオ〕
あなたが王のように生きる時
全てはあなたのための望み(※2)
でもそこに希望は無いんだ…何故 何故

〔ジュリエッタ、ロメオ〕
魂が閉じ込められ
他の道も閉ざされた時
何故に五感は 私たちの内に留まるのだろう
そして死は 決して勝てない
魂が苦しみの中にある時は
あなただけが 私たちのゆく道

慈悲を 私たちの共通項のために
ここで跪きましょう
あなたは お許しくださるでしょうから

〔ロメオ〕
僕らの内で 海が轟く時にはもう、

〔ジュリエッタ〕
あなたは望みなど持っていないのですね

〔コーラス〕
私の神よ…

※1 「共通項」と訳した箇所、「似ているもの、こと」の意。「隣人」の意味もある。フランス版の歌詞では「私たちの親、兄弟たちのために」となっていることから「隣人」を当てるのが適当かとも考えたが、続く「あなたの目で泣きます」というフレーズや、ロメオとジュリエッタが他人のために祈るというよりも自分たちと神という構図が強い印象を芝居から受けたので共通項と訳した。(上記によって「隣人」の可能性は大いにあり)
※2 「望み」「希望」と訳した箇所はどちらも「夢」という単語が使われ、♪La regina Mab(マブの女王)、♪Il veleno(服毒)などでも使われ作中繰り返される単語である。が、ここで「夢」を使うと希望、願望といったニュアンスよりも幻、嘘といった意味に取られる可能性があったため「望み」「希望」とそれぞれ訳した。

■シーンの感想と考察■

まず※1の「私たちの共通項のために」部分の訳詞ですが、ご注意ください。
隣人の可能性が捨てきれないのですが、流れで見た時にこっちの方が自分では良いかなと思い、この訳とさせていただきました。

この曲、日本版にはない曲です。そしてイタリア版には「君なしの人生」がない…。あの曲も綺麗な旋律で大好きなのですが残念。
内容は、フランス版の歌詞をざっくり見た限りだとベースは一緒のようです。ただサビがフランスでは「祈ります」となっているところ「神よ慈悲を」となっていて、祈っているシーンとして行為は同じなのですが、イタリア版の方がやはり「神との関係」が強く感じられます。これは他の曲でもそうで、全体に(キリスト教の)神の存在が色濃いのがイタリア版の特徴の一つでもあると思います。
また、その神への当たりが強めなのも特徴かなと感じています。執拗なまでに神に挑戦的なメルクーツィオや、2幕♪Duo della disperazione(神はまだ〜)やこの曲での神に対する疑問符、嘆き、訴え。そしてこの後に出てくる♪Non so più(何故)での信仰の揺らぎなど、信仰の面でも他の国より色濃く出ているキリスト教色ですが、ネガティブな方にも強く表現されている印象があります。
それだけイタリアの人々にとって身近なものであり、社会に浸透しているからこそ疑問を持つ人や反発する人も多いということなのでしょうか。

「海が轟く」という部分は「海が鳴く」という直訳ですがこれはおそらく海鳴りのことだと考えられます。海鳴りとは海の沖で気象条件が悪い時などに海岸付近で海から聞こえてくる轟音のことで、海が荒れる前触れともされています。「海」を人生や世界の象徴として繰り返し表現している作品ですから、これは「サイレンが鳴った時、印に気付いた時にはもう遅い」という意味だと捉えられます。
この部分、インターネット上の歌詞掲載サイトなどで見ると「male(罪)」とされていることが多いのですが、CDのブックレットには冒頭もラストもこのフレーズは「mare(海)」です。発音も多分rだと思います多分…。途中に「male(罪)」が使われたフレーズもあった上で2度ともこのフレーズは「海」なのです。
ですので「海」で合っていると思うのですがネット上では「罪」と書かれていることが多いですよ、そしてCDの歌詞は「海」ですよという情報を記しておきます。
ご判断はみなさまにお任せいたします。

また、このシーンでロメオは既にマントヴァにいる演出で、背景にマントヴァの風景が出ていますね。マントヴァはヴェローナから車で約50分、徒歩で8時間半という距離にある、いたって普通のイタリアの小都市です。
3方を人工湖に囲まれた美しい場所ですのでぜひ調べてみてください。

書き遅れましたが曲前の台詞のやり取りはほぼ原作通りです。




※注意事項(当note内共通)

・イタリア版ロミオ&ジュリエットのカンパニー、関係者の方々とは一切関係ありません。当noteの内容は1ファンによる訳であり、感想、スケッチですので公式の見解ではありません。

・私のイタリア語は超入門レベルです。1年半かけてなんとか訳しましたが、拙いものだと思います。間違いもあるかと思いますのでその点ご注意ください。

・当noteに掲載されたイタリア版のミュージカルナンバーの日本語訳のテキストや衣裳イラスト、平面図、3D画像などは筆者による訳でありイラスト作品ですので無断転載はご遠慮ください。

・それぞれの記事は公開後も随時内容を追加、修正などしていきます。ご了承ください。(テキストもイラストも時々修正・加筆されてる可能性があるので思い出したらまた見に来てくださると嬉しいです)

・記事中ではカンパニースタッフ、キャストの皆様のお名前を、イタリア語表記・カタカナ表記に関わらず敬称を略させていただいています。ご了承ください。

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