エピローグ〜Colpa nostra(罪びと)

※この記事はミュージカル ロミオ&ジュリエットのイタリア演出版「Romeo e Giulietta ama e cambia il mondo」のDVD全編和訳とその感想、公演の情報やセット・衣裳などについてまとめたマガジンの一部です。シーンごとに記事を分け、投稿が古い記事から順番になっています。
※イタリア語の歌詞、台詞は掲載しておりません。記事前半はシーンの日本語和訳、後半はシーンの感想、考察で構成しています。


Epilogo(エピローグ)

〔大公〕
その朝は、悲しい平和の前触れであった。
太陽も憂い、顔を見せようとしない。
許すべき者もあり、罰すべき者もいる。
これ程に痛ましい物語はないだろう。
ジュリエッタとロメオの物語の他に。

♪Colpa nostra(罪びと)

〔モンテッキ夫人〕
命は二度と戻らない
裸のボートとなって
その波間をゆく
子供らと その死と共に
神は見ているわ
今 私たちを

〔カプレッティ夫人〕
まだ幼い子供ら2人
もう遠く離れてしまった
この地上から遠く
憎しみと争いが産んだ悲劇よ
彼らは空をゆく
永遠を見つけて

〔両夫妻〕
愚かな親たちは
息子らと娘らとを失って
ジュリエッタとロメオのための葬列をゆく

〔全員〕
我らの有り様を見よ
最終判決が下る
最後の葬列をゆく
ジュリエッタとロメオのために

我らの罪
天は我らに 情けをかけてくださるだろうか
我らの罪
天は我らに 情けをかけてくださるだろうか
我らの罪
天は我らに 情けをかけてくださるだろうか

〔全員〕《乳母》
我らの罪(世界を愛し世界を変えよ)
天は我らに 情けをかけてくださるだろうか

〔全員〕《ベンヴォーリオ》
我らの罪(世界を愛し世界を変えよ)
天は我らに 情けをかけてくださるだろうか

〔全員〕《神父》
我らの罪(世界を愛し世界を変えよ)
天は我らに 情けをかけてくださるだろうか

我らの罪
天は我らを憐れみ給うか

〔両夫人〕《全員》
我らの罪(世界を愛し世界を変えよ)

〔全員〕
天は我らを憐れみ給うか

愛せ

■シーンの感想と考察■

大公殿下の台詞は原作の最後に語られるものと同じです。ストーリーテラーのような役割を持って話の節目ごとに出てきていた彼、どちらの家の者でもなく「ヴェローナ」を見ていた人。この時客席に登場するのですが、舞台側がカプレッティ家の霊廟だとすると、客席奥から舞台の方へ歩いてきて、そしてまた来た道を戻って行くのが、ヴェローナの街へ帰って行くようで良いなあと思います。舞台に背を向けて客席の側ーー野外劇場ですからそこにはヴェローナの街があるのです。
この大公の台詞、初めて訳した時「原作の印象的な部分がカットされているな」と少し残念に思ったのですが、全体を訳し終えてその意味がわかりました。
ここは後で日本版のラストシーンと比べながら書いていきたいと思います。

さて♪Colpa nostra(罪びと)ですが、タイトルの意味は「我らの罪」となります。大公の台詞の後に一旦、冒頭でも出てきた「本のページ」が沢山空へ舞ってゆく映像が映され、それから曲に入ります。ここまでで一旦物語は描き終わり、この曲はその後の後書き、後日談、本に刻む物語そのものを離れて私たちに語りかけてくるシーンなのでしょうか。曲中での衣裳の変化はその意味を書くのも野暮なくらいに分かりやすく色、重荷、鎖を脱ぎ捨てた人々の姿が描かれます。2階屋にはメルクーツィオ(舞台下手側正面)、パリデ(舞台下手側少し奥)、テバルド(舞台上手側正面)の、この憎しみの中で命を落とした3人が現れます。
私としては、ヴェローナの人々が家の色を脱いで白になったことそのものよりも、この3人が家の色を着たままであることとの対比の方が強く見え、それを見せることの方が狙いなのではないかと思えてしまうほどです。(最後に白の衣裳という表現は使い古されて見慣れていることもあり…)憎しみに飲まれて死んでいった彼らの時は、彼らの魂はそこに縛られたまま、憎しみから解き放たれた人々から置いていかれてしまっているようで、両家の和解を目の前にしながらも、その憎しみが奪っていったものの取り返しのつかないやるせなさがこみ上げます。

歌詞の中身に入ってゆきたいと思います。
「神様は親たちに罰を与えた」と日本版の歌詞にありますが、イタリア版では違います。ここはかなり大きなーー作品ラストの解釈の根本的な違いがあります。

日本版では「ロミオとジュリエットの死」が、これまでの自分たちの行いに対する「罰」であるとされ、「2人の願いは 2つの家が許しあうこと」と。これからは2人の望みの通りに愛し合う世界を作りましょう、という結論になります。
対してイタリア版ではこれまでの行い、自分たちの作ってきた社会によって2人(とメルクーツィオ、テバルド、パリデ。息子ら、娘らと複数で示されているのでロメオとジュリエッタに限らないと思われる)を死に追いやってしまったことが「罪」であり、これからその裁きを受ける。しかしこんな大罪を犯した私たちに、神(天)は情けをかけてくださるだろうか(もう一度やり直すチャンスを与えてくれるだろうか)。と問うています。そのために「愛せ」と。

何が罪で何が罰で、今自分たちはどの地点にいるのかという設定が大きく違うのですが、この「罰」の部分に関してが、大公の台詞と関係してきます。
シェイクスピアの原作ではイタリア版の大公が言う「太陽も顔を隠し〜これほど痛ましい物語はない」の部分の前に、霊廟で両家の者たちに向かって「これがお前たちの憎悪に下された天罰だ。(中略)そして私も、お前たちの不和に目を瞑った罰として身内を二人までも失った。みな一人残らず罰を受けたのだ。」という台詞があり、2人の死を罰と捉えています。つまり日本版の罪と罰の解釈は原作通りということになります。
イタリア版が「変更」しているのはどんな意味があるのか、という部分も考えたいです。

日本版の「2人の願いは2つの家が〜」の箇所で、死んだ2人の「願い」を遺言で聞いたわけでもないのに勝手に決めて良い話風にするのもなかなか、こめかみにシワが寄るのですが、これは作品をハッピーエンドで完結させるためや、物語を分かりやすく説明的にした結果のような気もします。しかし、「ロミオとジュリエット 命を懸けてまで教えてくれた」とあるのも、私にはどうにも後味が悪い。ロミオとジュリエットは、あなたたちに教えるために死んだのではない。自分たちの良いように解釈してどこまでも身勝手な。と生き残ったキャラクターたち(特に原因となった大人たち)に感じてしまいます。
2人は絶望して深い悲しみの中死んでいった。イタリア版ならロメオは絶望して、ジュリエッタは怒りの言葉を世界に吐き捨てて死んでいったのです。日本版でも、もともと生きて街を出るつもりで、それも叶わず深い悲しみのうちに死んだのです。2人の死から残された者たちが勝手に学ぶのは当然学んでいただきたいけれど、それを2人の意思に理由付けするのは傲慢だと感じます。あなたたちのための尊い犠牲なんかではないのにと。

イタリア版では裁きはまだこれからで、この物語は終わっていない。そしてこれを「最後の葬列」にするために、私たちはどうするべきか。神は見ている。私たちがどうするのか、神はずっと見ているのだという終わり方です。観客を当事者としているのですから「裁きが下って罰を受けてこれからは改心します」というエンドではなく、裁きはこれからで神は私たちを見ているぞ、この悲劇をここで終わらせるために愛しなさい。と終わるのはもっともだと感じられます。サブタイトルが「世界を愛し世界を変えよ」と呼びかける形になっているのも、このラストと繋がって作品を舞台上だけで完結させず観客がこの先を担う形になっているのが分かります。
それは愛を貫いた「2人の願いだから」などと改心の動機を2人に押し付けて語るのではなく、「私たち自身が」この物語を大地に刻み、そして「愛で世界を変える」ためであり、今までと、これからの沢山のロミオとジュリエットたち、悪習や差別によって抑圧・否定され苦しむ子らのために。
私たちが今日ここに居合わせたのは運命で、これは私たちの物語なのですから。
























DVDだとカーテンコールが映っていないのが残念ですよね!!!
テバルド、メルクーツィオ、ベンヴォーリオが3人で出てくるのが可愛いので見てほしい…(イタリアRai2で放送されたバージョンではカーテンコールで演出家、プロデューサーの挨拶もありカーテンコールが収録されているので見かけたらぜひチェックしてみてください。ちなみにRai2版はDVDと同じ回の公演だと思われるのですがカメラのカットが微妙に違うところがあったり、音がDVDより少し高く感じられるところがあったりします。どっちが加工されてるのかは定かではないです。この映像ではやっていないのですが、本公演中はカーテンコールでは♪Il re del mondo(世界の王)や♪Ama e cambia il mondo(エメ)を皆で歌い踊りダンサーたちのアクロバットが披露されたりしている模様…。)

また、フランス版のカーテンコールで歌われている♪La gioventù(青春)という曲はイタリア版ではカーテンコール含め使われていないようなのですが、なんとLIVE CD版CDにボーナストラックで入っています!本番で使ってないのにイタリア版歌詞作ってキャストに歌わせてCDに入れてくれるなんて太っ腹…!開幕前のイメージバージョンとはいえスタジオ版もあるしCDの充実度がすごいです。DVDも各セクションのスタッフから工場からキャストまでインタビュー盛り盛りで稽古映像も沢山入ってて仕込み映像もオーディション映像もあってというものすごい豪華なメイキング付きだし…。プロデューサーに足向けて寝れません。
このボーナストラックも訳してみたので次の記事でどうぞ♡




※注意事項(当note内共通)

・イタリア版ロミオ&ジュリエットのカンパニー、関係者の方々とは一切関係ありません。当noteの内容は1ファンによる訳であり、感想、スケッチですので公式の見解ではありません。

・私のイタリア語は超入門レベルです。1年半かけてなんとか訳しましたが、拙いものだと思います。間違いもあるかと思いますのでその点ご注意ください。

・当noteに掲載されたイタリア版のミュージカルナンバーの日本語訳のテキストや衣裳イラスト、平面図、3D画像などは筆者による訳でありイラスト作品ですので無断転載はご遠慮ください。

・それぞれの記事は公開後も随時内容を追加、修正などしていきます。ご了承ください。(テキストもイラストも時々修正・加筆されてる可能性があるので思い出したらまた見に来てくださると嬉しいです)

・記事中ではカンパニースタッフ、キャストの皆様のお名前を、イタリア語表記・カタカナ表記に関わらず敬称を略させていただいています。ご了承ください。

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