L'odio(憎しみ)

※この記事はミュージカル ロミオ&ジュリエットのイタリア演出版「Romeo e Giulietta ama e cambia il mondo」のDVD全編和訳とその感想、公演の情報やセット・衣裳などについてまとめたマガジンの一部です。シーンごとに記事を分け、投稿が古い記事から順番になっています。
※イタリア語の歌詞、台詞は掲載しておりません。記事前半はシーンの日本語和訳、後半はシーンの感想、考察で構成しています。


♪L'odio(憎しみ)

〔カプレッティ夫人〕
神よ
我が父よ
この地上を見下ろしてください
あなたも共に泣いてください
ここに 私たちの中に
化け物が棲んでいるのです(※1)
化け物もまた あなたを求めている

化け物は憎しみ
それは憎しみ
奴が私たちの 脈から血を吸い取る
それは憎しみ
それは憎しみ
奴は私たちに その種を植え付ける
それは憎しみ
それは憎しみ
血肉に深く 歯を沈める化け物(※1)
それは憎しみ
それは憎しみ
出処なく 留まるところも知らぬ化け物(※1)
それは憎しみ
それが憎い

〔モンテッキ夫人〕
私は
私はお前たちのため
憐れんでみた 快楽も試した
神よ しかし何故
私までも渇いているのです
奴の種に

それは憎しみ
それは憎しみ
父から子へ 受け継がれ腐りゆく
それは憎しみ
それは憎しみ
強欲な多淫の化け物(※1)

〔カプレッティ夫人〕
それは憎しみ
それは憎しみ
腹の中でのたうち回る
それは憎しみ
それは憎しみ
その血だけが唯一の取り柄

〔モンテッキ夫人〕
忌々しいお前たち 憐れみも持たず
ハゲタカに投げやる腐肉の塊よ
愛などここでは とうに死んでいる
狂気がお前たちを目隠ししているわ

〔カプレッティ夫人〕
哀れなお前たち 慎みも失くして
だが淫売の なんと強欲なこと
哀れな私たち とっくに中毒者よ
その手の中の空っぽなお人形

〔二人〕
どうしてできる こんな風に生きること
ここで死ぬの 何のため 誰のため

〔カプレッティ夫人〕
地獄では英雄たちも生まれない

〔二人〕
私たちの声を聞いて
気をつけるがいい


※1  実際に「化け物」という単語が使われるのはカプレッティ夫人の「私たちの中に〜」の箇所のみ。それ以降は憎しみのことを指して「〜な奴」「そいつは〜」といった表現を憎しみという化け物のことであるのが伝わりやすいように訳した。


■シーンの感想と考察■

カプレッティ、モンテッキ両家の夫人がヴェローナに蔓延する憎しみを歌う曲。
イタリア版には「嘆くのは女」というフレーズは無いものの、憎しみそのものが男に例えられて歌われていることが分かります(L'odio 憎しみ は男性名詞)。「種を植え付ける」「肉に歯を沈める」といった表現は憎しみを抱えた男たちに支配されてきた女たちの図が読み取れます。そして女たちもまた、その怪物に染められていく。それが代々受け継がれている。この地獄から抜け出す希望も生まれないほどに酷い有様であるという歌詞ですね。
日本版の歌詞よりもかなり抽象的、詩的な表現になっているかと思います。日本の方が説明的で分かりやすいですね。フランスのオリジナル版はどうだか分かりませんが…。
これは他の曲、作品全体にも言えると思います。イタリアだと「ロミオとジュリエット」の内容は皆知ってる前提なのか説明は省いて示唆に富んだ詩的表現、比喩的表現が多いと感じます。シェイクスピアの詩の世界の雰囲気を再現しようとしているのでは、とも思えます。

振り付けも大変印象深いです。両側から3階層でワイヤーに繋がれ身を乗り出す男女のダンサーたち。相手方の家に対して憎しみをぶつけながら、自分の家から逃れようと手を伸ばしてもがくようにも見えてきて、繋がれたワイヤーは家という鎖を示していると取れます。鎖に繋がれ抑圧されて、身動きが取れない中で罵り合い傷を重ねていくヴェローナの憎しみの姿がダイナミックに表現されています。
この作品の振り付け、ステージングは格好良くありながら意味がはっきりと伝わりやすく時に何よりもシーンを語っているのが大きな魅力だと思います。振り付けと衣裳、ヘアメイクといったビジュアルでの表現力が大変に優れているため、イタリア語で語られる台詞や歌の意味が分からなかった時でもその演出がしっかりと伝わってきて感動させられました。そのおかげでここまで深くハマったので、言語での情報はとても大切ですが、海外作品を観るとなると言葉が分からなくても伝わるビジュアルでの表現がいかに大きな役割を担うかを強く感じます。




※注意事項(当note内共通)

・イタリア版ロミオ&ジュリエットのカンパニー、関係者の方々とは一切関係ありません。当noteの内容は1ファンによる訳であり、感想、スケッチですので公式の見解ではありません。

・私のイタリア語は超入門レベルです。1年半かけてなんとか訳しましたが、拙いものだと思います。間違いもあるかと思いますのでその点ご注意ください。

・当noteに掲載されたイタリア版のミュージカルナンバーの日本語訳のテキストや衣裳イラスト、平面図、3D画像などは筆者による訳でありイラスト作品ですので無断転載はご遠慮ください。

・それぞれの記事は公開後も随時内容を追加、修正などしていきます。ご了承ください。(テキストもイラストも時々修正・加筆されてる可能性があるので思い出したらまた見に来てくださると嬉しいです)

・記事中ではカンパニースタッフ、キャストの皆様のお名前を、イタリア語表記・カタカナ表記に関わらず敬称を略させていただいています。ご了承ください。

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