Il giorno del sì (涙の谷)

※この記事はミュージカル ロミオ&ジュリエットのイタリア演出版「Romeo e Giulietta ama e cambia il mondo」のDVD全編和訳とその感想、公演の情報やセット・衣裳などについてまとめたマガジンの一部です。シーンごとに記事を分け、投稿が古い記事から順番になっています。
※イタリア語の歌詞、台詞は掲載しておりません。記事前半はシーンの日本語和訳、後半はシーンの感想、考察で構成しています。


Quattordici anni 

〔乳母〕(CDのみ)
私が思うに、私以上に優しい顔の者などいませんよ!

〔ジュリエッタ〕(CDのみ)
これ以上にパーフェクトか、完璧だったら価値がないわ!

〔乳母〕
ジュリエッタ! 待ってちょうだいな!
ジュリエッタ! あなたのお母様ですよ!

〔ジュリエッタ〕
はい お母様

〔カプレッティ夫人〕
ばあや、少し外してくれるかしら。
内密の話があるのよ。
いえ!いいえ残ってちょうだい、ばあや。
考えてみれば、お前も聞いてくれた方が良いわ。娘がいくつになったか正確に分かるかしら。

〔乳母〕
私の歯を14本賭けても良いですよ!
まだ14歳にはなりません。
収穫祭までは、あとどのくらいありますか?

〔カプレッティ夫人〕
15日と少しだわ。

〔乳母〕
8月の最初の日が来たら、
その夜にお嬢様は14歳になられます!
よく覚えてますとも。
大地震のあった日からもう11年ですもの。
お嬢様はその日に乳離れなさった!
ええ、私は乳首にニガヨモギを塗って、
日向ぼっこをしておりました。
私の頭もまだ、はっきりしていますね。
今申しました通り、
お嬢様は乳首のニガヨモギを舐められて、
それで苦かったんでしょうね。
見れば怒って乳房を叩いてらして!

〔カプレッティ夫人〕
もう十分!お願いだから黙ってちょうだい!

〔乳母〕
はい奥様。
ジュリエッタ、あなたは私がお乳をあげた、
1番可愛い赤ちゃんですよ。
お嬢様のお嫁入りの日が見られたら、他には何もいりませんよ

〔カプレッティ夫人〕
それよ!そのお嫁入りの話がしたかったの。
答えて、私のジュリエッタ、
お前自身の結婚について、前向きに考えられるかしら

〔ジュリエッタ〕
あまり名誉なことで、まだ夢にも。

〔乳母〕
名誉ですって?
ちょっといらっしゃい。
もし私があなたの乳母でなかったら、お乳で賢くなったと言うのですけどね

♪Il giorno del sì (涙の谷)

〔カプレッティ夫人〕
あなたのパパは少しだって
熱い想い もう持っていないわ
若かった私を求め
結婚したのね

私は女神のようだった
そして私の父は力づくで
理想のために私を売ったわ
高い身分を得るために
そして私を絶望させた
そして私は他の男を愛した
あの人に偽った あの人を欺いた
その私の道をお前も歩むことになる

ジュリエッタ 結婚しなければならないわ
ジュリエッタ あの人の妻になるのよ
ジュリエッタ 女は皆知っている
慈悲など存在しないこと
ジュリエッタ それは「はい」と答える日
ジュリエッタ お前を望む者は既にここへ
ジュリエッタ この通り
その男はもうやってきた
子供の時代は終わったの
お前はもう 扉の前にいるのよ

教えてジュリエッタ、
パリデとの結婚について、お前はどう思う?

〔ジュリエッタ〕
お会いしてみなくては。
でも、私の目から放たれる矢はあの方へ、
お母様たちのお許しになるよりも、
強く飛んでは行かないでしょう。

〔カプレッティ夫人〕
ああ 娘のあの瞳
あの揺るぎない両の瞳
睫毛の間の2つの炎
闇色を湛えた2つの丸い空よ
私の瞳と同じ
私の通った罪へ続く
男たち 望めるのなら
お前たちを消し去ってしまいたい

ジュリエッタ こんなふうに
お前をその「はい」に手渡すことになるの
ジュリエッタ 女は皆知っている
慈悲など存在しないこと

■シーンの感想と考察■

「Il giorno del sì」『「はい」と答える日』と訳しましたがこの曲の内容、このタイトル、作中通して何度も繰り返される大きなテーマなのです。日本語にすると意味ごとに言葉が分かれていて統一が難しいのですが「sì」は「yes」「no」は英語と同じ「no」の意味で、この曲の他では2幕テバルドの♪Non ho colpa(本当の俺じゃない)で『「sì」と答えることを強制されたんだ』とあり、メルクーツィオの歌う♪La follia(狂気)で「狂気はse(if)、ma(but)、no、sìのABC」だと歌われ正気でいては心の内など明かせないことが示されます。更に♪Il duello(決闘)では『「sì」と言う自由「no」と言う自由』とあります(sì、noの意味が日本語で統一しきれないため和訳は「自分の意見を言える自由を」となっています)。
そしてロメオ追放後、♪Vedrai(明日には式を)でジュリエッタは『何故「sì」と言わなければならないの』と訴え、「父親の言う通りにしろ」という大人たちに「no」をはっきりと突き付けるのです。このジュリエッタの「no」は彼女だけでなく、ヴェローナの子供達がずっと(代々)苦しんできた「sì」と答えるしかない抑圧への反抗であり、精神の自立でもあると感じます。ジュリエットの成長のテーマはシェイクスピアの研究でもよく話題に上がりますが、ここでは彼女の成長の過程に沢山のジュリエットたち、抑圧された人々を重ねているのではないでしょうか。

ジュリエッタの母親、カプレッティ夫人が愛のない結婚に傷つき他の男を愛したことがあるというのは他の国のバージョンにもありますね(シェイクスピアにはないです)。日本版なんてジュリエットがその男との子供とまで言っちゃってるし…。
イタリア版は他の男のことを愛した、ということしか分からないので「愛した」の程度は知りませんが…。この曲の内容が2幕のカプレッティ卿が歌う♪Avere te(娘よ)にも影響してきます。イタリアにジュリエッタが不義の子という設定までは無いので卿がそれに気付いたくだりは無いですが、「どこに 誰に 罪を問う 傷ついたその人に」という歌詞からは卿が妻の浮気とその原因となった苦しみを知っていると捉えられます。

歌の前のやり取りはほぼ原作通り、ここでも猫ちゃんがウロチョロしてて夫人のドレスの裾に背後からじゃれついたりしてて大変可愛いです。いつもこんな感じでカプレッティ家の中で色んな人で遊んでるのかな…と思うと微笑ましいです(歌と全く関係のない妄想です)。




※注意事項(当note内共通)

・イタリア版ロミオ&ジュリエットのカンパニー、関係者の方々とは一切関係ありません。当noteの内容は1ファンによる訳であり、感想、スケッチですので公式の見解ではありません。

・私のイタリア語は超入門レベルです。1年半かけてなんとか訳しましたが、拙いものだと思います。間違いもあるかと思いますのでその点ご注意ください。

・当noteに掲載されたイタリア版のミュージカルナンバーの日本語訳のテキストや衣裳イラスト、平面図、3D画像などは筆者による訳でありイラスト作品ですので無断転載はご遠慮ください。

・それぞれの記事は公開後も随時内容を追加、修正などしていきます。ご了承ください。(テキストもイラストも時々修正・加筆されてる可能性があるので思い出したらまた見に来てくださると嬉しいです)

・記事中ではカンパニースタッフ、キャストの皆様のお名前を、イタリア語表記・カタカナ表記に関わらず敬称を略させていただいています。ご了承ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?