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16_ぼくよりもすごいホームレスに弟子入りを試みる

世界にはたくさんのすごいひとたちがいる。なので、世界にはたくさんのすごいホームレスがいる。ホームレス社長の企画を始めた当時は「イギリスでホームレスをするのなんて、日本人ではぼくぐらいでしょ?」と本気で思っていたし、多分そうだ。でも、人間は欲深いものだ。すぐに日本人でただひとりのイギリス在住ホームレスの肩書きじゃ満足できなくなった。夢は広がるばかり。「世界で1番のホームレスに!」が目的になり始めた。

そこから、日々の生活を作りながらも、様々な世界に広がるホームレスの研究を始めた。本当に多種多様だった。スウェーデンで山ごもりをしているホームレス起業家、ヨーロッパを庭にしてシェア経済の理念を追求するべく金無し生活を繰り広げるポーランド人、ヨーロッパを3ヶ月間金無しで旅行をするブラジル人女性。もちろん日本にも様々なホームレスはいることは発見されている。

そんななか、とても面白いひとを発見した。マーク・ボイルというアイルランド出身の男だ。すでにホームレス業界では有名人で、彼の出版した書籍も世界10カ国以上の言語に翻訳され、日本でも人気になっている、と当時ホームレス社長を日本のウェブメディアで連作しているときの編集者のかたが紹介してくれた。

彼は、元々高給取りのサラリーマンでいわゆる普通以上の生活を送っていたという。しかし、突然お金を介したやり取りに違和感を感じるようになり、思い切って仕事を辞めて2008年から英国ブリストルで完全なる自給自足生活を始めたそうだ。今までお金で簡単に早く済ませていた全てのことに長時間かかり不便になったが、しっかりと生き抜いた。あまりの生活の不便さに当時の彼女とは別れてしまったそうだが、インターネット調べによると「この生活が快適過ぎて抜け出せない」と言っている模様。

とてつもない衝動にかられた。会いたい!というか弟子にしてほしい!ホームレスが弟子をとってもいいだろ。直談判だな。

弟子入りしたいって思った理由はいくつかある。何より、彼は惨めにホームレス生活をしていない。むしろその生活を楽しんでいた。実はぼくも同じ感覚を感じていたのだ。今までと違い、毎日当たり前のように寝ているベッドはない、毎日使い慣れたキッチンはない、毎日通い馴れたお決まりの通勤ルートもない。全て当たり前で考えるという労力を削っていた便利さがホームレスになるとないのだ。しかし、それ以上に今までになかった刺激や喜びに溢れていた。1番大きかったのは、お金から発生する恐怖から完全に脱却できたからなのだろうか。(マーク・ボイル氏は、たくさんのお金を稼ぐことによるむなしさや疲れを感じたのだろうけど)

そして他の理由としては、マークはこのホームレス生活(自給自足生活)をすることを自身のブランドにして、書籍の出版などにつなげて自分の価値をあげていることだ。これこそまさにぼくも目指すところである。是非ともすぐ横で一定期間いっしょに生活をすることで盗めるものを盗みたい、と思った。

なので、直談判をした。

「はじめまして。突然のメッセージをお許し下さい。現在、ホームレス社長という150日の家無し生活を通して、500人のチェンジメーカーに会う企画を実行中です。知人からあなたのことを紹介していただきました。少しの期間で構いませんので、ぜひぼくをブリストルでのあなたの生活に参加させていただけませんか?数日間でも構いません。自分自身の実験として、あなたの生活を横で見てみたいのです。お忙しいと思いますが、ご返事いただけると幸いです。」

メッセージを送って3時間後、すぐに返信はきた。

「メッセージありがとう。うん、君のやってる企画はとても素敵だね!でももう少し早くメッセージくれると良かったかもな。実は、数週間前からオレは実家のあるアイルランドに帰って、チームのメンバーと新企画の立ち上げ準備と、オレがいま主賓している自由経済のコミュニティを運営するべきインフラ整備をしているんだ。でも、もしもアイルランドに来るなら連絡しな!泊めてやるよ!」

あ、もう自給自足生活をしてないのか。そりゃそうだよな。本があれだけ売れて、自給自足生活してたのも数年前だしな。ちょっと最初はショックだった。彼がホームレス生活を辞めていたことが。しかし、よく考えてみると納得がいく。自分自身の経験がすごく魅力的で、もっともっと多くのひとがライトに体験できるコミュニティをつくるべくマーク本人がプロジェクトを立ち上げて、そのインフラづくりをしているのか、と考えるとすごく素敵なことだと思った。実際、僕自身もホームレス社長を通じて「ひとに頼って生きる」ことの可能性を発見して、それを今後のソーシャルキャピタルによるソーシャル実験へのきっかけづくりをしたかった。

なので、尚更ぼくはマーク本人に会いたくなった。どうにかしてアイルランドに行けないか、という方向にシフトチェンジをした。

「マーク!返信ありがとう。あなたの生活にジョインできなかったことは少し残念だけど、いまあなたの歩んできた自給自足生活から自由経済の発展に向けてのシフトチェンジはすごく興味がある。ぜひともアイルランドに行くよ。そのときは会ってくれ!」

そこから返信はなかったが、アイルランドにいく作戦を考え始めた。

結果だけ。結局行けなかった。そして会えなかった。最後の最後、お金がどうしても必要となり、この夢は叶わなかった。でもそこに至るストーリーだけ共有させてほしい。

メッセージを送ったあと、すぐにアイルランドに住んでいる友人にメールをした。

タイチ「やー。久しぶり?元気にしているかい?実は、まだ確定はしてないんだけど近々アイルランドにいこうと思うんだ。もし行ったら、案内としてもらえないかな?加えて、数日間泊めてもらえるとすごく嬉しいな。」

友人「おお!ぜひぜひ!オレの国、アイルランド。しっかり案内してやるよ!世界最強に旨いギネス(ビールの一種)を飲ませてやるよ!もちろんうちに泊まっていいぞ。」

たいち「ありがとう!でも実はまったくお金がなくてさ。交通手段がないのさ。払えるかどうかはまた別途作戦立てないといけないけど、とりあえず1番安く行く方法は何かな?」

友人「そうだよな。お前、ホームレスだもんな。うーん、そうだな。誰かがアイルランド付近まで車で来るとひととかいたら、それに乗せてもらいなよ!その後フェリーに乗るんだけど、フェリーが着いた先からならオレが車出してあげるよ!」

たいち「分かった!ありがとう!」

ということで、まずはダブリン行きのフェリー乗り場までいくひとを探した。カーシェアリングサービス「BlaBla Car」を使えば、すぐ見つかった。しかし、残念ながらフェリー代をどうこうする手段が見つからなかった。残念無念。ぼくのマーク・ボイルに会う作戦がもろくも崩れ去っていった。

でも、こうやってマーク・ボイルさんとメッセージのやり取りができ、実際に金無しでアイルランドにいく方法を頭をしぼって考える機会を与えてもらった。実際、ほとんどの要素は詰めることができた。フェリーの運転手と友達にでもなれれば違ったかもしれないが、できなかった。

ぼくは、今後ぼくの弟子になりたいひとがいれば、大歓迎だ。ぜひともどしどし連絡をしてほしい。世界最強のヒモになる方法を教えてあげよう。

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株式会社sakasa | sakasa inc.

クリエイティブディレクター | Creative Director

藤本太一 | TAICHI FUJIMOTO

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