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09_いきなり女の子の実家に招待され、両親とご飯を食べる

「結婚の挨拶って、こんな感じなんだな」という体験を、全然彼女でもなんでもないただの知り合いの女の子で体験した。

基本的には、ホームレス。当日いきなり寝る場所がない!ということが頻繁に起こったわけではなかったが、そういう日ももちろんあった。

というのも、ヨーロッパが全体的に帰省シーズンにはいる夏。ホームレスのぼくは困っていた。移民の街、ロンドンはこのシーズンはみんなこぞって自国に帰ってしまうのだ。家が、あくじゃん!ラッキーじゃん!そんなに甘くない。よほど仲の良い友達は、もしかしたら鍵を預けてくれるかもしれないが、そうも上手くは人生できていない。ことごとくみんなに断られていた時期がある。

「ごめん!今、イタリアに帰ってる。来週には戻るからそんとき泊めてやるよー」

「お前、タイミング悪いな。明日からタイに一週間旅行に行くんだよ。ごめんな」

もちろんロンドンに残っている人達もいる。しかし、こちらもこちらでなかなかオッケーしてくれない。

「ちょうど今、家族が遊びにきてるんだ。だからお前を寝かせるスペースがないんだ」

「しばらく会ってない彼女がいま来てるんだよ。お前を泊めたら、オレ怒られちゃうよ」

そうだ。ヨーロッパ全土でこのムードなら、こちらが出るだけではなくロンドンにやってくる人もいるのだ。

ほんと困った。どうしよう。8月のある日、当日になっても寝床が決まっていない日があった。もう前日泊まっていた場所にも、2日泊めてもらったし、もう1泊させてもらうとルール違反になる。いや、今回は例外か?一応、聞いてみよう。

「ごめん。どうしても今日泊まる場所がないんだ。もう一泊させてもらえないかな?」

「たいち、ゴメン。2日しか泊まらないって言ってたから、今日は彼女が泊まりにくる予定になってて。本当にごめん。健闘を祈る!」

終わった…… 夏だし、野外で寝ても大丈夫かな。うーん。でも最後もう少しあがいてみようかな。

ということで、当日ギリギリだし、もうオファーしてくれるひとはいないかもしれないけど、もしかしたら天使のような人が表れるかもしれない、と思い賭けてみることにした。

まずできることは、知人に電話。先程も言ったように、ホリデーまたはさすがに当日オファーはきつい、と断られる。そりゃそうだよな、と納得しつつも、だんだん焦ってきた。

そして、次はもうかなり不特定多数に投げる方法ではあるが、Facebookやツイッターのようなソーシャルメディアの各種グループに公開投稿することにした。

「みなさん、はじめまして。ホームレス社長という肩書きで活動しています。家無しで500人の様々なことにチャレンジしている人に会うことが目的です。実は、今日泊めてくれる人がいなくて途方に暮れています。もしも泊めてくれる、または泊めてくれそうな友人がいる方はぜひともメッセージください」

この日はこのあと、仕事の打ち合わせの予定があった。もうあとは神頼み。時間が経てば経つほど、今夜泊めてくれる天使が表れる可能性が低くなっていってしまう。

ということで、数時間ほどソーシャルメディアから離れ、打ち合わせを済ませ、神にもすがるような思いでFacebookを開くと一件のメッセージが!

「よー、タイチ。Facebookの投稿を見たよ!うちに泊まりにきなよ!」

彼女はオックスフォード大学に通う現役女子大生のビッキー。以前、ひょんなことでとあるイベントで知り合っていた女の子だった。だからこそ、僕は知っていた。彼女がロンドンに住んでいないことを。おいおい、ビッキーこんな焦ってるときに冗談はよしてくれ。その時すでに街は夜になろうとしていた。オックスフォードはバスを使って2時間近くかかる上に、バス代は安くない。でも、藁にもすがる思いで僕は返信した。

「ビッキーありがとう!本当に寝る場所に困ってて。君のオファーはすごく嬉しいんだけど、ビッキーはオックスフォード在住だよね?オックスフォードに来いってオファーなのかい?」

「うん!ほんとタイチはばかなことをやってるね。何か手伝ってあげることないかなと思ったときに、今日Facebookで投稿を見たときに思ったのよ。わたしの家に泊めてあげようって。」

「え、だから今夜オックスフォードに来いってこと?」

「違うよ。知らないの?私は、ロンドン生まれなのよ。たまたま大学がオックスフォードなだけ。私の家っていうのは、私の両親の家ってこと。お父さんにはもう伝えてあるから、ここに電話してみな。面白いやつだな、受け入れてあげるよ!って言ってるから。」

そういうことか。良かった!今夜泊まる場所ができた。いや、待て。女の子、しかもまだ20歳そこそこのぴちぴちの女子大生だぞ。そんなところに、ホームレスの27歳の男が行ったら。ぼく、お父さんに怒られるんじゃないのか?うわー、少し怖い。でも、もう背に腹をかえれない状況だ。とりあえず電話してみることにした。

「あ、はじめまして。ビッキーの友達のタイチです。今夜泊まりにいっていいのですか?」

「うん?誰だお前?」

「(え、ビッキー!伝えてないのか!?)いや、私はビッキーの友達でして。彼女がお父さんにすでに伝えてるということで電話させてもらっているのですが。今、ホームレス社長という企画をやっておりまして。今夜泊まる場所がなくて困っていたところ、ビッキーがお父さんを紹介してくれて」

「あー!お前か。ゴメンゴメン。さっきからセールスの電話がすごくかかってきてたから、ついイライラしてて。ごめんな。うん!大歓迎だよ。20時にうちにきな。ご飯も振る舞ってあげるよ。赤ワインもあるし!」

天使がいた。まだ知り合って日の浅い女子大生のお父さんお母さんの家というとても特殊な状況だが、天使には変わりない。行ってみて、さらにびっくり。とんでもない豪邸だったのだ。今夜、あわば路上で寝ることになるかも!という危機にさらされていた僕が、暖かいご飯と美味しい赤ワインをごちそうになったうえに、こんな豪邸で寝れるのか。庭も、見たことがないような広さだ。これだから人生は面白い。

いうことで、緊張していたが、いっしょにご飯を食べ、ゆっくり時計の針が12時を回るぐらいまで、友達のビッキーの小さな頃の話や、年頃の女の子を持つ親が共通して持っていそうな愚痴などを聞きながらも、オックスフォード大学に通っている自慢の娘を誇らしげに語っていて、とてもほっこりした気分になれた。

ということで、完全に疑似であり、さらにイギリス人といういきなり国際結婚のリハーサルのようなことを体験した夜であった。ビッキーとは、一度しか会っていなかったのに、彼女の彼氏よりも僕は彼女のことを知ったような気分になったのはオフレコということで。ビッキー、ありがとう。

藁にはすがれ!

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株式会社sakasa | sakasa inc.

クリエイティブディレクター | Creative Director

藤本太一 | TAICHI FUJIMOTO

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