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05_お前は社長じゃない、でもただのホームレスでもない。

 「お前、社長やめたら?」と泊めてもらった知人に言われた。ホームレス生活50日目のことだ。

 確かに僕は英国ロンドンで会社を立ち上げて2年、お金を稼いだことはなかった。『社長といってビジネスをやっているくせに、お金を生み出すことに興味やモチベーションを感じれてないことは間違っている』だから「やめたら?」と言われても仕方ないことだ。しかし、どこからわいてくる自信なのかわからないが

 「なに、この時代にまだカネカネって言っているんだ。やることは他にもあんだろが。ビジネスはお金を稼がないといけないなんて誰が決めたんだよ。僕はお金は要らない。そのかわり、幸せを新しい価値にして、世の中をもっともっとポジティブにしていくんだ。見てろ!」

 と言って、お金を稼がなかった。そのときは、なぜこんなことを言いながらも、生きていけてるのかを知る由もなかった。要するに頭の中がお花畑だったのだ。

 僕の中でのビジネスの理論は「お金を稼ぐ為に仕事をする」のではなく、「人が幸せになるために人のつながりを生み出し、仕事を作り、みんながポジティブになる」ということ。なので、売れるモノを作るのではなく、ワクワクする人のつながりが“勝手に”世の中が求めるものをつくる。むしろ大事なのは、その過程であり、売れるか売れないかは結果論でいい、と思っていた。

 起業当初、まずは経験を積まないといけないということで、プロジェクトという『経験』をくれる会社からはお金をもらっていなかった。ただ働きしてくれる都合のよい若いベンチャーなので様々なプロジェクト、そして世界各国の大手企業も含む多数の会社に関わることができた。僕のプロジェクトに参加してくれた人達も三者三様ではあったけど、お金がもらえない仕事ながらも楽しみを見出してくれていたし、思った以上に、企画はちゃんと立ち上がり、カタチになるプロセスを楽しんでいた。

 でもまあ、さっきも話したように『経験』をもらうためにお金はもらってない。だから、当たり前のように僕の財政はしっかりと圧迫されていった。仕事をすればするほど、お金がなくなるというよくわからない、しかし現実に僕の銀行口座ではそんな現象が起きていた。よく考えれば至極当然だ。何度も言うけどお金をもらっていないのだから。

ホームレス生活も中盤を迎えた頃、昔から知っている知人の家に泊まりにいくタイミングがあって、色々とその夜に彼と話しをする機会があった。彼の名前はアントン。僕と同時期に「Good People」というスタートアップを立ち上げた、いわゆる同志だった。彼のスタートアップは、共同創業者がロンドンでは有名なカリスマ経営者であったこともあり、この2年間でとても大きく成長していた。様々な場所から投資を受け、すでに数億円を超える予算を抱える企業になっていた。

 「おう、タイチ。久しぶりだな。最近忙しくて全然会えてなかったけど、お前がホームレス社長とかいうばかな企画始めたから、つい声をかけてしまったよ。いい機会だし、お互いの近況をアップデートし合おう。最近どーなんだ?」

 (いや、最近どーって。分かりやすくホームレスになってるんだからわかるだろう?)

って僕は正直思った。

 「お前の会社は。立ち上げたときと比べるとだいぶいい方向に進んでるように見えたのになー。」

 フェイスブックなどを使って、僕の日々の活動はチェックしていてくれたらしく、色々なことをやってるのがしょっちゅうポストされていたので、アントンはオレがしっかりと仕事をしていると思ったらしい。

 「実際、タイチはいくら稼いでるの?この企画だってホームレス社長とかいいながら、ただ企画としてやってるだけなんだろ?」

 おいおい、また金の話かよ。そりゃそうだよな。ビジネスやってるとお金を稼ぐのはあたりまえなんだもんな。と思いつつも、友人であるアントンには本音をしっかりと伝えた。5年近くイギリスに住んでいるが、英語でこういった説明するのはなかなか難しい。

 「いや、これが全然稼いでないんだよ。なんというかオレ、お金に興味なくて。ただやりたいっていう気持ちが優先しちゃって。そこでお金をくださいって言って、やりたいプロジェクトに関われなくなるとそれはそれで僕的には、コミュニティの人たちに提供できるはずだった機会損失になるし。お金になる成果物をあげることよりも、その成果物をいっしょにつくりあげる人のつながりに美しさを感じるし、その過程が全てだと思ってるんだ」

 実際にそう思っていた。なので、そのまま伝えた。そしたら、アントンの顔色が急に変わった。

 「いや、それは間違ってるぞ。いつまでそんな甘えた事を言ってるんだ。いいもの作りたいんだろ?いいもの作って世界を変えたいんだろ?だからこそお金が必要なんだよ。だったら、お前はどんだけのインパクトを世界に残したんだよ?オレは、少なからずオレの考える事業で4億円近くの資金調達に成功をしたんだ。実はこの後、このお金の使い方を巡って共同経営者とのそりが合わなくなっちゃって、もう自分が立ち上げた会社から退くんだけどね。でも、思い描いていたビジョンでこの数億円の資金調達が成功したことは自信になったね。タイチは、どれだけのインパクトを世界に残したんだ?世界中の人のつながりを生むことでどれだけの効果があったんだ?答えれるか?」

 「………。少なからず、いくつかのプロジェクトのスタートになるきっかけは作っていってるよ。お金という軸で僕は判断できないんだよ」

 「じゃあ、お前はなんで株式会社の社長をやってるんだ。これに関してはNPO法人だっていっしょだぞ。お前の考える事業でインパクトを作っていくためにはお金も必要なんだ。金がないとなにもできないとは思わないが、お金があることでできるようになることもたくさんある。世の中が、今お金で全てのものが取引されているんだし、それだったら使えるところは使って、自分のビジョンを大きくしていくことが大事だろ。お金が要らないことが重要なのか、自分のビジョンを実現化させてくことが重要なのか。よく考えたほうがいい。」

 僕は黙り込んだ。

 「お前はとりあえず社長向きではないな。」

 え。なんだか衝撃的な言葉だった。でも不思議とイライラとはしなかった。自分でも気づいてたことなのかもしれない。アントンはまだまだ続けた。

 「でも今回のホームレス社長のような現代アート的な活動は、巨額の資金調達を達成したオレでもできることではない。これはタイチにしかできないことだ。今までタイチの活動で心が動かされることはまったくなかったけど、このホームレス社長の企画に関しては話を聞きたいって思ったんだよ」

 どういうことだ。よく分からなかった。

「前にもいったけど、自分にしかできないことを、最適な場所でやるべきなんだよ。タイチにとっては、株式会社の社長という肩書きはしっくりはまらないだけ。でも他の手段なんていっぱいあるだろ。自分にあったカタチで、今のタイチの“人のつながりを新しい価値”にしていくという活動を続ければいいのさ」

 決して友人に言われたから捨てれるほど「社長」という肩書きは軽くはない。むしろ守りたい。どうすれば、ポジティブな人のつながりを生み出すことで、新しい方法と幸福が生み出せるのか。みんなが楽しみながら、みんなで世界をよくしていく方法はどうすればよいのか……

 ただ、この僕の最大の難問を「社長という肩書きを捨てる」という選択肢も視野に入れて、幅広く考えるきっかけを得た。ありがとう、アントン。

新しい選択肢を取り入れる

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株式会社sakasa | sakasa inc.

クリエイティブディレクター | Creative Director

藤本太一 | TAICHI FUJIMOTO

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