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06_お金がなくなったら、とても生活が裕福になった話

お金がなくなって、どんなに安い家賃も払えないような経済状況だったのでホームレス生活をせざるを得なくなった。

僕は、家を借りて生活するということが当たり前だと思っていた。だからどれだけお金がないと言えども家賃分ぐらいは常に確保していた。家があることは、当たり前。だから家賃分のお金は、あって当然。その分を勝手に頭の中で差し引いた金額が『自分のお金』という感覚だった。しかし、どんなに頭の中で計算をしても家賃分のお金が残らないという非常事態を迎えることになった。

「まずい!生きれない!どうしよう!」

と言いつつ、悩んでもしょうがない。というか悩んで泣いたところでせいぜいかけてもらえるのは「大変だなー」という哀れみの声だけ。泣いたから、悩んだからって誰かが僕にお金を貸してくれるわけではないし、なにも解決しない。お金がなくなったら、人生ゲームオーバー的な空気は少なからずこの世の中にある。ということは、僕の人生はゲームオーバーなのか?僕のやってきたことは失敗ということでリセットしなければならないのか?い・や・だ。本当に。それなら、ホームレスになっても構わない。むしろなってやる。本気で思った。

そして、お金がなくなって家もなくなった生活のスタートした。家がないから、毎日誰かの家を、または雨風がしのげる場所を探さなければ。家がないから、洗濯とかも頻繁にできるのだろうか。家がないから、温かいものとかはもう食べれないのかな。家がないから、ゆっくり寝たり休んだりすることができないのかな。今まで当たり前のようにしてきたことができなくなるのかな、という一抹の不安は、なかったかと言われればウソにはなる。しかし、実際そうじゃなかった。

『ホームレス社長になる』という決断を下し、実際に家無し生活を始めた瞬間から、たくさんの友人知人(または知らないひとも含めて)が「家無いのか。そしたら、うちに来なよ。泊めてやるし、飯も食わしてやるよ」と声をかけてくれたのだ。その証拠に、最初の30日間で、わかりやすく太ったのだ。しかも肌つやもよくなった。前から知っている友人と久しぶりに会ったときにこう言われたぐらいだ。

「おい、お前ホームレスなんだろ。もう少し服とか小汚い感じになってたりとか、ヒゲはえまくってたりとか、やせ細ってたりとか、なんていうか悲壮感が漂ってると思ってたのに。お前、マジ太ったな。いいホームレス生活してんな!」

そうなのだ。多分、その当時はホームレス界で相当な富裕層だったと思う。

僕はロンドンを中心に始まった社会起業家のコミュニティ「HUB」に所属していた。そこでは、同じような思いを持った世界中の仲間が所属しており、切磋琢磨しながら活動すると同時に、仲間意識が強くよく色々なひとを紹介し合ったりするのだ。その流れで、当時日本語を勉強したくて日本語教師を捜していたエリザベスを、同コミュニティの共通の知人が紹介してくれた。スウェーデン人で、環境系の会社を経営している女性社長だった。

「やあエリザベス!日本語教師が務まるかは分からないけど、日本人ならこいつがいるよ。タイチっていうホームレス社長がハブのメンバーだから紹介するね」

なんとも適当な紹介だったが、インパクトがあったのか、返事はすぐに帰ってきた。

「初めましてタイチ。私、日本が大好きで前に初めて日本を旅行したときに心を奪われたわ。そして、また日本旅行を計画してるんだけど、今度はもっと文化的なことに触れたいからしっかりと日本語を学んでから行きたいの。一度、お茶をしましょう」

いや、どうも彼女のなかでの構図は「日本人>ホームレス社長」のようだ。でも、まーいい。会えるなら。とにかく新しい人と会えるのはどちらにしても楽しみだ。

ということで、馴染みのカフェで待ち合わせ。どんなひとが来るのか、いつものようにワクワクしながら待っていたらエリザベスが登場した。

「タイチ!初めまして。エリザベスよ。環境系の会社を経営しているわ」

「初めまして、タイチです。僕はハッピネスアーキテクトという会社を経営しています。経営っていってもお金は回ってなくて、いまホームレスやってるんですけどね。はは……」

「そうそう。それがすごく気になってね。実はもう日本語教師の件はどうでもいいの。というかちゃんとした先生が見つかったので、タイチに日本語を教えてもらう必要はなくなったの。でも、それよりもなに、ホームレス社長って?興味津々過ぎるのよ。詳しく教えて!」

あれ、すごく興味持ってくれてる。いやー、照れるなー。ホームレスがとある成長企業の女性社長さん相手に会話の主導権を握れるなんて。まあ、そんなことはどうでもいい。

ということで、小一時間、何でホームレス社長になったのか、それまで何をしていたのか、この企画を通じて何を目指しているのか、をしっかりと話した。とても気持ちの良いひとで、とても楽しい時間だった。そして記念撮影をして、その日は終わった。こうやってホームレス社長の企画で新しい友達ができるのは素敵だな、と改めて思っていたところに一通のメールが僕の元に届いた。

「今日はありがとう。そういえば、話を聞くので必死になってたから、言い忘れちゃったんだけど、実は私、来週から3週間ほどスウェーデンに帰省するのよ。そして、家がまるまる空くから、ぜひホームレス社長に使ってほしいのよ。もちろんお金は要らないよ。まだ一度しか会ってないけど、こんなばかな企画するひとに悪い人はいないでしょ?他の知らない人にお金払ってもらって貸すぐらいならあなたにタダで使ってほしいの。どう?」

な、なんだと。これは願ってもないチャンスだ。速攻で「お願いします」というメールを返した。そして、後日彼女の家を訪れて衝撃を受けた。

なんて豪邸なんだ!?凄過ぎる。独り暮らしで、プライベートガーデンもあるし。なんだか高そうなワインセラーもあるし、リビングむちゃくちゃ広い。おれ、こんな家住んだことないぞ。さすが社長さん。あとで知ったが、家賃は余裕で30万近くしているような場所だったみたい。

「さー、ここがこれから3週間のあなたの家よ。全て好きに使ってね。あなたビールが好きだって言ってたよね。だからしっかり補充しといたから。食べ物もコーヒーもお好きにどーぞ」

正直このおもてなしには驚きを隠さずにはいれなかった。もちろん素直にこのオファーを受け取らしてもらった。さすがにいくらなんでも食べていいよ、と言われながらも高そうなワインに手を出すのは躊躇してしたけどね!
こうしてお金がなくなったおかげで、今まで手も届かなかったような豪邸に数週間だが住むことができたのだ。人のつながりが予想以上のものをもたらしてくれる可能性も秘めているんだ、ということを心底感じた。

まあでも、数週間ステイをした結果、ホームレスらしさが少しなくなってしまったので、この家を出たあとから新ルール「同じ家に2泊以上しない」というものを作ったんだけどね。

自分の中の「当たり前」をぶち壊してみる

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株式会社sakasa | sakasa inc.

クリエイティブディレクター | Creative Director

藤本太一 | TAICHI FUJIMOTO

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