見出し画像

04_要らないものを要るひとにあげることでタダ旅行券ゲット

 モノを手に入れるためには、お金が必要だと思っていた。服が必要ならば、1万円握って服屋さんへ。食べ物が必要ならば1000円を持って定食屋さんへ。パソコンが必要なら10万円持って電気屋さんへ。旅行に行きたいなら相当額を持って旅行会社へ。これがあたりまえだと思っていた。

ホームレス社長を始めるにあたって、じぶんの所持品をバッグパックひとつにまとめる必要があったので、不必要なものを大量にリサイクルショップに持っていったり、ひとにあげたり。それでも余ったものは忍びないが、ゴミの日に処分をした。

 しかし、それでもホームレス生活開始当初、腰を痛めるのではないか、というぐらいの大量の荷物を抱えながらロンドン市内を歩き回っていた。そんな日々も限界を迎え、何が要らないか『自分会議』を始めた。パソコンを捨てるとさすがに仕事ができないので、ホームレス“社長”ではなくなる。寝袋も、ベッドがない、ソファーがない家だと寝るには厳しい。ダウンジャケットは、厳しい寒さを誇るロンドンの冬は到底越すことはできない。カメラは日々の生活をブログに書くのに書かせない。クツは一足しかない。服も最小限しか持っていないのでこれ以上はさすがに減らせない。うーん。あれ・・・・・・。

 なんと僕はホームレスのくせに、MacBook ProとiPhoneとiPadを持ち、熱狂的なAppleファンぶりを見せていた。iPadは、まだ家があって自宅作業をしているときによくマルチスクリーン代わりに使っていた。そして、仕事をする上でとても便利だったのでホームレス生活のお供にしたのだった。
 しかし、今のぼくの生活に“便利”は必要なのか?何より人間が生きてく上で、便利とは必要なのか?

「よし、要らない!」

 即決定。僕はiPadを手放すことにした。そして、このiPadの行方を考ることに。当たり前のように考えると、金なしの僕が取るべき行動は「ヤフオクなどのオークションにあげて、現金を得る」または「友達に売る」などの現金を得る手段だったと思う。なんせ、まったくお金のないホームレスなのだから。しかし、こで僕はこうこ思った。

あくまでぼくはホームレス社長だ。ただのホームレスではない。お金がないからやっているのではない。あくま で企画として“多くの人と会う”ためにホームレス社長をやっているんだ。だからお金は要らない!

 ひとりでは普段満足にご飯も食べれないような財政状況だったのに。現金を得たら、企画倒れだ。いらん、おれは金はいらん!

 しかし、ただただ愛し抜いたiPadを捨てるのはもったいない。なので、頭を絞り、このiPadを使ってなにか面白いことが仕掛けられないだろうか、と考えた。もともとこういう物質は、お金を払って買うものだ。お金で生きることではなく、人と生きることに挑戦をしているホームレス社長だし、ホームレス社長っぽいことは何か。

「お金がiPadになった。そのiPadがぼくに新しいひととの出会いにつながればとても面白いかも」

 ということで、iPadを誰かにゆずる代わりに、新しい出会いをつくる物々交換をしようと決めた。 まずはフェイスブックとツイッターに、

『もうiPadを要りません。お金も要りません。ただ何かと新しい出会いがあるものと交換させてください』

と、ポストした。そしたら投稿後数十分で返信が!しかも送り主はドイツの知人ダニエルから。

「久しぶり。キミの書き込み見たよ。実は、オレはiPad要らないんだけど、オレの知人がいまカフェを経営してて。新しいレジシステムの導入を考えてて、そのためにiPadが必要なんだって。多分、彼なら欲しがるんじゃないのかな?交換条件でドイツに来なよ。ひと紹介するよ!」

 言ってみるもんだ。前々からドイツって行ってみたかったし、特にベルリンに暮らす人達ってぶっ飛んでて面白いというウワサだけは聞いてたので、ずっと憧れていた街だった。

「お、マジで?うん、是非是非紹介して。」

そして、知人のダニエルがすぐにフェイスブック上でカフェを経営しているドイツ人につないでくれた。

「はじめまして、ホームレス社長のタイチです。iPadをもらってくれるひとを探してたら、ダニエルが紹介してくれました。一度、スカイプでお話しませんか?」

 数分後、返事が返ってきた。

「はじめまして!うん、ぜひ!どーしてもいまiPadが必要で。うん、ほしい!いくら?」

「いや、お金は要らないんです。でも新しい人に会いたいので。その代わりにベルリン行きの航空券買ってもらってもいいですか?」

「・・・・・・あ、そう(笑)それ面白いな。そのゲーム乗った!いいよ!買うよ。決定!」

交渉成立。ということで、Facebookに投稿してから一瞬でドイツ行きが決定した。

「じゃー、チケット買うからパスポートとか個人情報を教えて」

あれ、まだiPad送ってませんけど?まー、断る理由もないし。

「分かった!なら買っておくね。ところで、実はオレiPad今週末に必要なんだ。すぐに送れる?これが住所ね。」

うそ、もう今日送るの!?今までは、お金が交渉の信用の担保になっていたけど、今回のよう人のつながりによる交渉は基本的には信用の担保は、信頼しかない。それならまずはこっちから信頼してあげないと。

 ということでまだドイツ行きのチケットが届いてない状況で、iPadをしっかりと梱包して送った。しっかりと希望日までに届けることができて、後日ぼくのiPadを持って撮った写真を送ってきた。嬉しそうな顔で。

 しかし、問題はここからだ。彼らも新しいレジシステムの導入等の業務で忙しかったのだろう。いっこうにぼくのチケット購入の知らせがない。希望日は伝えてあった。旅行の予定も立て始めてるし、大丈夫かな。本当に行けるのかな。少し不安になったのは確かだった。

「タイチ、本当にすまなかった。色々な変化でお前への対応が遅れてしまって申し訳ない。早速チケットを取ろうと思う」

彼からの電話は突然だった。旅行に行くまで一週間はきっていた。チケットの値段はスカイプをしながら一緒に見ていたので、分かっていたがどう考えてもiPadの中古品1個売っても達するような金額ではもう既になかった。そうは思って、一応一番安いプランを選んだ。

「待て。これはあんまり良くない。時間的にもドイツに滞在できる時間が短くなるし、この航空会社の飛行機はゆれて危ない。これにすればいいんじゃないのかな?(ファーストクラスではないが、エコノミーのなかではそこそこの値段のものを提示)」

「え!?ほんとうにいいの?高くない?」

「いいんだ。お前はiPadを送ってくれた。そして、俺たちはこうやってお前を待たせてしまった。そして、何よりもドイツが初めてならば、おもいっきり楽しんでほしいんだ。オレの国を好きになってくれ」

こうして僕のiPadは、『航空券』という姿の見えるものと、『新しい経験と新しい出会い』という姿の見えないものに変えて。

お互いに欲しいものを交換する

***********

株式会社sakasa | sakasa inc.

クリエイティブディレクター | Creative Director

藤本太一 | TAICHI FUJIMOTO

Twitter : https://twitter.com/F_TAICHI

Instagram : https://www.instagram.com/f_taichi/

***********

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?