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03_お金は、悪くないらしい。

 正直な話、僕はお金が嫌いだった。理由はいくつかある。

 まずは、社会的な意義として。

 「やっぱり世の中、金だよ。金がないとなにもない」といっている人たちの論理が全く理解できなかった。むしろ僕には、お金が世の中に起こるたくさんの問題を引き起こしていると思っていた。醜い争いや、騙し合い、そして神経をすり減らしていくような過酷な労働、とかね。「このお金があるから、問題が起こるんだ。お金がないほうが、もっとハッピーにみんな生きれるのかも」と本気で思っていた。

 そういえば、こんなこともあった。イギリスに大学院にまだ通っていた頃、日本に一時帰国している間に日本の大学時代に仲の良かった友達と飲みにいった時に彼が僕にこう言ったんだ。

 「社会人は辛い。お前はいいよな、気楽で。まだ学生だろ?しかもイギリスで。でもな、タイチ。お金が全てだよ」

 イラッとした(笑)。イギリス行きの資金を捻出するために死にもの狂いでバイトしたし、渡英後もお金がなかったので、好きなようなお金は使うことなんてほとんどなかった。だから、自然と愚痴しかないような飲み会は、言い訳をして参加しないようになっていた。でも、なんだか友達を失ったような気もしたし、ただただ「お金」というものがいろいろなことをネガティブにしているような気がした。

 なので、僕が一貫して行ってきたことではあるけど、ホームレス社長の「とにかくひとに頼って生きる」という挑戦は、「お金が全てではないのだよ」というメッセージを込めた、すこしアンチテーゼ的な要素も強かった。

 そして、他の理由は自分自身の起業失敗の体験から。

 僕は日本にいたときから「なぜ、こんなにもみんなストレスを抱え、不幸せな人生をあたりまえのように生きているのか」と疑問を持っていた。なぜ、大学にいくのか。なぜ、就職するのか。なぜ、結婚するのか。あたりまえとしてしかれているレールに乗ることで、多くの人が不幸せになっているような気がしていた。なので、この違和感をなんとかして解決したい!もっとポジティブで楽しく生きれる世界を創造したい!という思いから2011年10月に英国ロンドンで起業した。

 コンセプトは「ひとりでも多くの人をポジティブにすること」。そこで取り組んだことは「夢を実現するためのクラウドファンディング」づくり。周りに「お金がないからやりたいことができないんだ!」という人がたくさんいた。「そうか!お金か。人の夢が実現するために使うお金はすごくポジティブだな!よし、やろう!」と思い、そこから一心不乱に、走り出したんだ。クラウドファンディングのためのウェブサイト作りに没頭し、2012年2月、ようやく形になって世に公開することになった。が、待ち受けていたのは“失敗”の二文字。「いや問題はお金じゃないのよ。お金もらっても、始めるきっかけにはならないよね。それよりも共感してくれる仲間がほしいなー」と。

 (なんじゃい、そりゃ!わがままか!おれの時間を返せ!)

 でも、そこでもお金の無力さみたいなものを痛感させられた。「お金は、みんなをポジティブにすることはできないのか」と。それと同時に、「やっぱりお金は悪いやつや。だっいきらい!それよりも“人のつながり”のほうがもっともっと重要だね」となってしまった。
 これが“人のつながり”についてより没頭するようになった経緯、そして同時に“お金嫌い”になった理由だ。(お金を持った経験もないくせになにを言うんだ!という批判はなしで)

 なので、ホームレス社長としての活動はとても楽しかった。お金を極力使わず、毎日のように色々な人と出会い、毎日様々な人と暮らした。そこにお金はいっさい介入せず。

ほら、言っただろ。お金なんてなくても生きていけるんだよ。むしろおれ、いますごくハッピーだし、こっちのほうが人間はポジティブになれるんだ!

 しかし、この考えを打ち砕かれる瞬間があった。それは、起業家仲間でもあり、友人のメキシコ人フォアンからのヒトコトだった。

 「お前、楽しそうだな。でもなんでお前が生きれてるのか分かってるのか?」

 「うん、人の優しさのおかげだよ。やっぱり人のつながりで生きていくことって可能なんだなー。そして何より楽しい。お金なんて要らないよ!」

 「いや、お前。根本を勘違いしてるよ。お金は必要だよ」

 「なんで?」

 「確かにオレはお前の友達だ。だからこうやって無料で泊めてやっている。むしろお前と話すのは楽しいしな。でもだ。もしもオレもお金持ってなくてこのフラットを借りてなかったら、どーする?そして、お前の友達みんながお金を持たずにフラットがなくなったら、どーする?」

 そしてフォアンは続けた。

 「さらにご飯はどーする?ここでも同じだ。お前と食べたいっていう人はいるだろう。だから、ディナーもごちそうする。そこでタイチも色々な話をするから彼らも満足するだろう。でも、その相手がその日のディナーをつくる食材を買えるお金があることが大前提だ。でないと餓死するぞ」

 「オレも、シェア経済とかギフト経済はすごく魅力的だし、素敵なことだと思っている。でも、みんなお金のことを考えなさ過ぎだ。みんながシェアし始めると、モノはなくなっていく。そしてシェアしたい人が増えて、シェアするものがなくなったら、それこそシェアは終了だ。皮肉だろ。結局、だからお金が必要なんだよ」

 僕は何も言えなかった

 しかし、さすがオックスフォード大学でMBA出身で、大手保険会社で長年努め、今はファイナンス関係で起業している、お金のことを知り尽くした男・フォアンは僕に真実を教えてくれたんだ。

 「お金は悪くない。しかし、お金をべらぼうに持っている人の性格、そして彼らのお金の使い道が悪いだけだ」

 本当に彼からの教えは、大きかった。どれだけ僕の頭のなかはお花畑だったのだろう、と少し恥ずかしくなった。正直な話、僕の考え方は全部変わったわけじゃない。お金を稼ぐためだけに仕事をするのはやっぱり違うと思っている。でも今は、「お金を稼ぐ意義」をようやく理解した気がするんだ。

 やっぱり世の中、お金なのね。

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藤本太一 | TAICHI FUJIMOTO

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