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11_聞きながら伝える天才との出会い

  僕は、あまり目標となる人を定めて人生を歩むタイプではない。理由はいくつかあるが、憧れの人を作ると自分自身の限界を作ってしまうし、自分の中での創造力が乏しくなるような気がするからだ。なるべく自分らしく、自分でしかできないこと、自分でしか思い付かないことをひたすら追求していくことに尽力している。しかし、ホームレス社長を通じて、1人本気で尊敬する人ができた。それは、若干26歳のタヒチ出身フランス人で、世界の社会起業家コミュニティを束ねるクリスチャンという男だ。

 ロンドンの大学院の都市計画専攻にいた僕だったが、当時建設業としてまちづくりをしていくことに限界を感じ、既存のモノは壊さず新しいものは作らず、人のコミュニティを強化することで「より良い都市」をつくる手法が1番だ!と悟り、人り人りがポジティブになれる仕組みを作ろうと、夢実現のためのクラウドファンディング(2011年当時、イギリスでは多数のクラウドファンディングが乱立を始めた時期)の立ち上げを決意した。当時、そのような目線で活動する都市計画家(都市デザイナー)はいなかったし、クラウドファンディングサービスは、当時「アイデア(まだ何もカタチになっていない状態)」に投資をするような応援型のクラウドファンディングは存在しなかった

 「これはいける!」

と思い、ひたすら成功させることを目標に突っ走った。

 「こんなアイデアで突き進むのは僕だけ。ウェブ系上がりじゃないし、都市計画の一環としてクラウドファンディングをやるなんて世界で僕だけ」
と激しく(そして痛々しく)思い込み、活動していた。ひたすら自分の思いやコンセプトを人に語ってきた。いわゆるスポークスマンだ。特にイギリスのような個人主義の国だと、人の話は聞いてくれない。大学院時代でも悟ったが、足並みそろえてがんばりましょう!というような風潮は一切ない。いわゆる目立ったもん勝ち。実力さえあれば認めてもらえる。そう思って、僕はひたすら語った。

 英語力が不足していたという事実はあるものの、まだまだ会社経営初心者の僕は人に思いを伝えるのに苦労していた。色々な場面でのプレゼンの機会を獲得し、多方面でしゃべりまくった。そうすると、色々な場面で色々な角度から「違うんじゃないのかなー?」とか、「このサービスはこうするべきだよ」というお叱りの言葉もいくつも頂いた。

 しかし、前述したように、僕は他の人たちをある意味下に見ていたのかもしれない。

 「ふん。何を言っている!今後の世界は、僕の考えるようになるのだ。そんなちっちゃなことを気にしてどうする。フィードバックとしてはもらうにしても、サービス改善には活かせないな」

という何様だ!というような態度を取りまくっていた。

 悲しいことに正直な話、おかげで幾人か友達も失った。起業するというのは大変なこと。僕には遊んでる時間などない。ただただ走り続けるしかないのだ。いっしょに酒を飲む時間などあるなら、サービス向上に努めるぞ!といいきり、友達の誘いもがんがん断り続けた。いつの日か、連絡は来なくなった。僕からもたまには連絡をした。しかし、その内容は「◯◯を始めました。チェックしてね」という友達に向かって100%業務的なメール。返信はほとんどなかった。でも、ひたすら自分を信じた。僕が考える世界ができるとみんな楽しく生きれる世界が作れるんだ。だから、今は人に合わせてる場合ではない。やれることをやるしかないんだってね。

 そして2012年2月、クラウドファウンディングのサ―ビスを公開した。
本当にわかりやすく、誰にも受け入れてもらえなかった。誰も見向きもしないのだ。何故だか分からなかった。僕は、みんながもっともっとポジティブになれるため、というコンセプトのもと立ち上げたサービスだ。僕の周りは、全然ポジティブじゃない人ばかり。そんな人が使いたいサービスを作ったはずだった。でも、誰も受け入れてくれなかった。

 正直な話、お金をたくさん使ってサイト開発もした。友達と過ごせる時間も削って、開発に明け暮れた。おかげでお金もなくなり、友達も数人失った。挙げ句の果てには、サービスもうまく行かなかった。

 納得がいかなかった。なので、ひたすら街に出て、色々な人に会って、自分のサービスを話して回った。みんな口を揃えて、アイデアはいいよ!と言ってくれる。でも誰も使ってくれない。何故だ。

 そんななか、出会ったのがクリスチャンだった。当時すでに一大ムーブメントになりかけていた会社の創始者として、あるイベントに来ていた。歳も近かったし、話を聞いてみようと思ってその会場に入った。じっくり話を聞いて、びっくり。掲げているコンセプトはほとんど一緒なのだ。そこで思った。やっていることは間違っていないのだな。ただただ手法が間違ってただけなのか?

 とにかくトーク終了後、彼のもとに走った。彼は色々と話を聞いてくれた。そして、彼は一言だけ僕にこう言ったんだ。

 「君のやりたいことはクラウドファンディングではないんじゃないのかな?」

とすごくシンプルな言葉だったが、青天の霹靂だった。数多くの場で、僕は自分のアイデアを語ってきた。そこの誰もが、「アイデアが間違ってる」なんて言わなかった。しかし、クリスチャンは違う。しっかりと僕の話を聞いた上で、僕に本気のアドバイスをしてくれた。

 彼の一言で僕は全てを変える決意をした。クラウドファンディングの開発は辞めることにした。そして、もっともっと自分のできることを見つめ直してみよう、と心の底から思ったんだ。

 ホームレス社長の企画を通じて、たくさんの人と知り合ってきた中で、クリスチャンのことを悪く語る人はいない。そして、何よりほとんどみんな彼のことを知っているのだ。

 僕は、初めて猿真似のように彼を追いかけた。自分のできることを見極め、ちゃんと話を聞くということに徹してみた。

 そうすると、新事業のアイデアも出てきたし、ホームレス社長のときも色々なことがスムーズに進むようになった。そして、なにか問題にぶち当たった時「クリスチャンならどうするんだろう?」と考えるようになった。
ホームレス生活140日過ぎた時、本当に偶然だがパリに行くきっかけができた。そこで、まっさきに彼に連絡をして、会うことにした。

 「よう、タイチ。お前、面白いこと始めたな!ホームレス社長!これから一緒に色々とやっていこうよ!」

褒めてくれた。そして、今後のコラボにも誘ってくれた。嬉しかった。そして、

 「今のオレがあるのは、クリスチャンのおかげだよ。日本に戻ったらクリスチャンの会社の日本支部を立ち上げさせてもらうよ!」

 クリスチャンは僕に一言も頼んでもないのに、僕が彼のために何かしたいと心から思ったんだ。凄い人にはこんな風にたくさんのサポーターが自然とついてくるもんなんだ。

目標となる人を自分の中に持つ

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株式会社sakasa | sakasa inc.

クリエイティブディレクター | Creative Director

藤本太一 | TAICHI FUJIMOTO

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