くちびるがしょっぱい③ 明るさと憧れ

寝れなくて夜更かしをしました。
そして久しぶりに、バラエティ番組を見たのです。普段はほとんど、テレビを見ません。

日本のスターたちが勢揃いする番組です。
特番なのですが、この番組が小さい頃から好きで、ついつい見入ってしまいます。
活気溢れ、楽しくて、時間を忘れさせてくれるからでしょうか。とにかく出てる人たちみんなが、明るいからでしょうか。

夕方の十八時から、二本立てで、深夜の三時までぶっ続けで見てしまいました。
深夜枠には、尊敬する有吉弘行さんが出演しているので、やはりついつい見てしまいます。
売れかけの若手芸人から、いま話題の芸人まで。たくさんの芸人さんがひな壇に集い、それを有吉さんが面白おかしくまとめていて、この方はすごいな、と感じさせられます。
なんて、こんなことを書くことすら、畏怖の念を感じてしまいますが、心から本当に、尊敬するばかりです。

何がすごいかって、本当に一瞬、深夜の生放送であるが故に疲れが垣間見える瞬間はあるのですが、でも、とにかく誰よりも明るいこと。
もう五十を手前に、そして結婚もされてお子様もいて、そしてベテランなのに、深夜に仕事をして、そして、とにかく元気に笑っているのが、すごいです。
なんなら、若手たちよりも、誰よりも笑っていて、若手を鼓舞し続けて、若手のすることなすことに笑い続けて、声を出して、盛り上げて、面白くする。
若手たちの中には二十代や三十前半の方も多い中で、それに負けないどころか圧倒的な「元気」で引っ張る姿は、やっぱり、尊敬です。

そして同時に、ふと、「今の若手、元気なくない?」。そんなことを、思いました。

実は、十数年ほど前にお笑いの養成所に通っておりました。つまり芸人を志していた時期があるのです。結果的には、まったく売れない(というより真面目にやらなかった、なんて見栄ですね)で、すぐに辞めてしまいました。

当時の僕は、まだ中学を卒業したばかり。
引きこもって父とお弁当を食べては、映画を観るなりゲームをするばかりの日々。
それは中学でドロップアウトした頃から続いてた習慣です。
でも、十三歳の時に、オードリーさんと出会います。堂々と胸を張って、「トゥース!」と叫ぶ姿に、なんだか漠然と、憧れたのです。
それからは、映画やゲーム以外に、ネタを書くようになりました。それまでもお笑いには触れていたのですが、とにかく見れるものは片っ端から見て、研究していたのです。
そして、紆余曲折あり、お笑いの養成所に入ることとなります。
しかしまあ、所詮引きこもりなので。
こんなこと、自分で言うのはなんですが、センスやら、才能やらは、それなりの評価はいただいてました。
でも、もうそれはそれは、そもそもが暗い。
暗い。暗いんです。

過去の動画を見ることがあります。
黒歴史が収められた数少ない僕の映像。
どれもが暗い。
声が小さい、表情が死んでる、動きがない、活気がない、覇気がない、やる気がない。

養成所では、「もっと明るくなれ!」「声を出せ!」「張り切れ!」散々言われました。
でも、当時は正直、売れる気なんてさらさらなかったです。むしろこんな日本で売れてやるか、評価されてやるか(ならなんでお笑いを始めたんだ)そのくらいの気持ちでした。
こんな国に認められてたまるか。
テレビなんか出てやるか。
自分は、自分が「面白い」と思うことだけをやりてぇんだ。
ただのタレントになんてなってやるか。
ドラマなんか出てやるか。
舞台なんか立ってやるか。

そうして次第に、自分の世界を狭めて、狭めれば狭めるだけ、どんどんできることは減って。自信も失って。自分がわからなくなって。つまらなくなって。
まだまだ若かった(世間的には今の僕もまだ若いと言ってもらえますが)自分の可能性をどんどん狭めて、負の連鎖は繰り返され、元々拗ねてばかりの若造は、勝手にもっと拗ねて、ひとりで拗ねて拗ねて、トラウマを作り、お笑いという世界から離れてしまいました。
それから十数年。少し働いたり、またお笑いに少しだけ復帰したり、すぐに辞めたり、少し働いたり、また復帰したり、すぐに辞めたり、色々経て、思い出す。
思い出すと、僕がオードリーさんに憧れた、あの頃。あの頃にテレビで見ていた若手たち。
あの頃の若手たちは、なんだか、輝いていました。
これは、昭和のおじさんが「あの頃はよかった」と発言をするのと、少し類似する部分はあるのかもしれません。平成のおじさん(予備軍)が、平成はよかった、と言っているようなものですね。

ただ、本当によかったと思います。
何が?
明るかったんです。
「トゥース!」と叫ぶ人。とにかくひな壇から、わっと立ち上がって野次を飛ばしまくる人たち。ウケを取ろうと、目立とうと、めちゃくちゃ無茶苦茶にやる人たち。
面白くは、ない。当時はそう感じてました。
叫んでいるだけ。暴れているだけ。考えも捻りもなしに。ただやってるだけ。
でも、おそらく、いや、たしかに。
当時の僕は、憧れていたんです。
そんな、無鉄砲な、明るさに。

その頃、若手と言われた方たちは。
とにかく明るく張り切っていた方たちは、今もテレビの中で、明るく張り切ってる姿をお見かけします。
有吉さんも、オードリーさんも、それこそ、「とにかく明るい」ことをそのまま芸名にして売れた方も。

今の若手は、正直、暗いなぁと感じます。
いまテレビに出ている芸人たちは、ほとんど僕の同期や後輩ばかりです。一緒に舞台にあがっていた人も数多くいます。でも、「その頃からなんも変わってないな」。「いやむしろ、なんだか、つまらなくなってないか?」なんてことも思います。
「自分はこれだけじゃないから」「これは自分のやりたいこととは違うから」「大人の言うことには従わなきゃ」「でも本当の自分の面白いと思うことは、違うんだ」。
そんなジレンマの中で、はっきりせずに、張り切らずに、暗くて、右も左もわかりませんと、迷子のように、黙っている。
そんな表情。まるで過去の自分とおんなじような、その表情が、深夜の番組で、ずっと映されていた、ように、感じました。

なかなか冴えない日々。
それはずっと、冴えません。
僕には、トラウマがあります。
僕には、憧れがあります。
僕はいま、小説を書いてます。
でもまた、舞台にもあがりたいと考えていたりもするのです。
でも、冴えなくて、寝れなくて、元気が出なくて、うまくいかない。
あの頃、叱咤激励してくれていた、じじい。おじさんたち。
いまは、感謝してます。あの頃は、すみません。割と明るくなりました。でもまだまだこんな暗いことを書くときもあるけれど、暗いときもあるけれど、暗くても、前向きには、なれてます。
そしてやっぱり、わかります。
僕はいまも、輝きに、憧れているのだと。憧れ続けて、これからも、憧れ続けていくのだろう、と。
無鉄砲な生き方に。それでも笑う、明るさに。

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