見出し画像

命を救ってくれたヘルメット

「エッ⁉︎」

何が起こったのか分からなかった。
気がついたら体が前方に投げ出され、頭頂部をアスファルトに打ちつけていた。

用事を済ませ、家に帰る途中だった。もう既に夜。クロスバイクに乗っていた。
ライトは点けていたが、電池がなくなりかけていて、ほとんど役に立っていない。
充電がうまくできていなかったようだ。
かろうじて車にこちらの存在を示してはいるが、道路を照らしてくれない。

途中、ショールームに展示されていた見慣れない車がふと気になり、近づいてガラス越しにその車を見て立ち去った。
その際、車道から歩道に乗り上げ、そのまま歩道を走っていた。
車道との段差は15cmほどあったかと思う。

見えていなかった。

体が前に投げ出された。
いきなりだったため、訳が分からなかった。
ヘルメットがアスファルトにぶつかる感触と、体に感じる衝撃で、初めて自分が転倒したことを悟った。
かけていたメガネはレンズが外れ、鼻パッドがあらぬ方向に曲がっていた。

「やっちまった!」

前は見ていた。しかし段差は全く見えていなかった。
前輪が歩道から落ちたことさえ気づかず、いきなり前のめりに投げ出された。
左折道路に差し掛かったため、歩道が途切れていたのだ。
ライトが役に立っていなかったのは致命的だ。
それにしても…。

バイクを道端に寄せ、怪我の状況を確認、しばらく体の様子を見た。
左肘と左ひざが痛い。擦りむいたようだ。
手のひらも痛い。こちらも擦り傷か。グローブのお陰で軽傷で済んでいる。
首が痛い。おそらく頭頂部をぶつけた時に、首に荷重がかかったからだろう。
捻挫のような痛さだ。
気がつくと唇も切れていた。

そしてバイクの状況を確認。前輪にブレーキシューが当たっている。
ブレーキが曲がったか?
ホイールを入れ直してみる。直った。大丈夫。
他は問題なさそうだ。
肘、ひざはおそらく擦り傷があると思われるが、服は切れていない。

心配は首だ。
私は頸椎の椎間板ヘルニアをわずらっていた。
だから首については人一倍神経質に過ごしてきた。
幸い、今のところ手足の痺れはない。とりあえず一安心。
少し休みながら、体の状態を確認していた。

それにしても、何より幸運だったのは、ヘルメットを被っていた事だ。
頭蓋骨骨折、いや、もしかしたら脳挫傷…。
そんな転び方だった。
家に帰ってヘルメットを確認すると、写真のように見事に割れていた。
被っていなかったら、と思うとゾッとする。
文字通り、私の命を救ってくれた。

このヘルメット、実はクロスバイクを購入した時に一緒に買ったヘルメット。
本当なら買い替えなければいけないほど年数が経っていた。
買い換えよう、と思いながらも、愛着半分、横着半分でそのまま使っていた。

このヘルメットが身代わりとなって、最後の最後で私を助けてくれたのだった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?