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0347:政治権力の姿

 たまたま観た『クローズアップ現代 菅首相退任の衝撃』に観入ってしまった。妻のほか、高一男子にも「二年後には選挙権あるんだから観とけー」といって一緒に視聴。

 菅総理の総裁選出馬断念の報は、正直驚いた。元々は、コロナ禍の為政の重さに耐えられないだろうに再選の意欲を示していたことに、私は敬意を表していた(報道的には「権力に固執」的表現をしていたが、そんなわけあるかい。これは責任感だと受けとめていた)。報道が解散するとかしないとか二転三転した果てに、出馬断念。これは本人ではなく周囲の状況が出馬を許さなかったんだなあ、と思っていた。

 今回の番組はその消息を伝えるものだった。最も注目したのは、めまぐるしく変わる報道の中でも「解散して総裁選を延期する」という情報が、菅総理自身の意見ではなく、シミュレーションの一部があたかも総理の意思のように報道されて、それが党内の様々な軋轢を生んで最終的に菅総理の再選出馬断念を強いることとなった、その経緯だ。こうした情報は、事後、つまり総理の決断以降にしか出てこない。政治は苦しい世界だ、と思った。

 県庁の内地留学制度で大学院で二年間学んだ際、専門(法学)よりも面白かった科目かふたつある。ひとつは文化人類学。小説『やくみん! お役所民族誌』第2回に登場した、法学専攻なのに趣味で専攻外の文化人類学ゼミを履修している早瀬泰彦は、まさに当時の私の立ち位置だ。

 もうひとつは、政治学だ。院に入るまで政治学は未知の世界だったけれど、マンツーマン(つまり学生は私一人)で毎週有斐閣『政治学』を数章単位で報告するヘヴィなゼミから、むっちゃ知的刺激を受けた。「政治学という学問は、権力を問題にするんですよ」との教官の言葉が忘れられない。

 権力とは、簡単に言えば「他人に言うことを聞かせる力」だ。例えば公務組織の場合、人事課と財政課のふたつが出世コースの二大ルートになる。つまりは組織の管理部門だ。どの所属をどのような人員で固めるか。その業務にどれだけの予算を配分するか。それは当該所属の資源(リソース)であり、十分な資源があれば仕事はしやすく、資源が不足すれば不足の範囲で出来るようにやるしかない。だから、所属長は人事課と財政課に頭を下げるしかない。「本当はこれが理想だ」と思っても、人事・財政を屈服させる力は、所属長にはない。

 総理大臣の権力の源泉は、行政機構に対しては人事権と財政権だ。そして、立法府与党に対しても同じ事がいえる。与党に対する権力の根幹は解散権だ。党内で総裁への反発が増えた時、言うことを聞かないなら解散して国民の信を問う、という権力が、総理大臣という一人の人間に与えられている。選挙に際して公認するかどうかは総裁の権力であり、総理大臣と与党総裁が一致する以上、それは党内への極めて強い権力となる。

 その総理の権力が、封じられたのだ。菅総理は、コロナ禍にあって政治空白を生む解散は絶対にない、と言い続けていたらしい。なのに「解散するらしい」という報道が出て、党内外の激しい反発に遭い、結果として総裁選出馬自体に有力者の支援を得られなくなった。そのような流れが、今夜の番組から見て取れた。番組のインタビューでは、報道機関に情報を流した人物に心当たりがあるらしい発言もあったが、そこまでは放送されなかった。

 私は自治体職員として長年勤務してきた。国と自治体は機構が違う。国は国会の首班指名により総理大臣が決まる。つまり国民は国会議員を選挙で選び、議員の中から総理が選出される。一方自治体は、議会議員選挙と首長選挙は別々に行われる。住民が直接首長を選ぶわけだ。この違いが、行政の長と立法府の関係を分ける。そのひとつが解散権で、首長は議会から不信任決議をされた時に限って解散権を発動することができる(地方自治法178条1項)。対して内閣はいつでも解散権を発動できる(憲法7条3項)。内閣の長は総理大臣であり、反対する閣僚は罷免できるため、結局のところは総理の意思ひとつということになる。

 ひとつには、解散はないと自ら言っていたことが、菅総理の自由を奪ったのかも知れない。与党内で政権交代を望む者にとっては、解散権を行使しない総理であれば党内の信頼を損なう一手こそ効果的だったのだろう。表面上の政治制度だけでは捉えきれない権力関係の機微が、今夜の番組から窺え、とても興味深かった。

--------(以下noteの平常日記要素)

■本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
【累積69h40m/合格目安3,000時間まであと2,931時間】
実績57分、演習回をやるつもりがエクセルの整理をしただけで時間切れ。

■本日摂取したオタク成分(オタキングログ)
『ピーチボーイリバーサイド』第10話、今回もあまり観てなかった。なんだろう、つまらないわけじゃないけど、意識がついていってない。『迷宮ブラックカンパニー』第9話、突然の鷹の爪コラボにわろた。『サクラダリセット』第13話、第二クールに入って世界の本質に迫る展開。捨て回がないなあ。『転スラ』第42~44話、なんだろう、むっちゃ面白くて3話連ちゃんで観てしまった。ここまで築いてきたキャラクター群で、筋立てのど真ん中をぐいぐい押し開く感じ。『クローズアップ現代 菅首相退任の衝撃』上述のとおり。

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