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0319:(GaWatch書評編005)『世界の危険思想~悪いやつらの頭の中~』

『世界の危険思想~悪いやつらの頭の中~』
著:丸山ゴンザレス
発行:光文社(光文社新書)

 これまでのGaWatch書評編とは毛色の違った書籍だ。

 連載中の小説『やくみん! お役所民族誌』はまだ序盤で、優しい人々の穏やかな世界が続く。しかし第一話半ばから、消費生活センターの「敵」となる悪質業者が登場し、作品全体の中でその世界をある程度深掘りして書く必要がある。そのためには、そうした反社会的勢力の実態やそこに属する人たちの心性を知っておかなくてはならない。その資料として集めたアンダーグラウンド系書籍の一冊が、本書だ。

 著者丸山ゴンザレスは、他のアンダーグラウンド系表現者と共に活動しているのをSNS記事などで幾度か見掛けたことがあったが、著作としては本書が初読だ。Amazonの著者紹介には「考古学者崩れの犯罪ジャーナリスト・編集者」とある。本文中では考古学の修士号を持っていることに触れられていて、考古学と犯罪ジャーナリズムというふたつの世界の距離の遠さと逆説的な近さ──それこそ文化人類学視点による民族誌のような──について、しばし考えさせられた。著者がそうした視点を意識化していることは、ボランティアが被災者に対して一方的なイメージを投影する「NPOフィルター」を引き合いに、スラムという町に一般市民が投影する幻影を指摘している点にも顕れている。

 上の著者ページから著作を一覧してすぐに気付くのが、著者のフィールドが世界を股にかけている点だ。本書でもニューヨーク、ロス、アテネ、ジャマイカ、ベナレス、マニラなど、洋の東西を問わず世界のスラムを取材している。扱われる犯罪も殺人、麻薬、売春とディープなものばかり。

 本書の視点は表題の「悪いやつらの頭の中」という点に、一応、置かれている。著者が世界中で出会った犯罪者が「なぜ犯罪を犯すのか」、その主観的理由を多々書き留めており、私が本書を手に取った理由もそこにあった。『やくみん!』で犯罪者を描く上で、その思考の論理を押さえなければ、物語は動かない。それを知りたかったのだ。しかし、犯罪行為はともかくそこに至る思考過程についてはそれほど(私にとって)想像を絶するようなものはなく、その点ではいささか残念だったことは否めない(この段落冒頭で「一応」と書いた所以だ)。だが、例えばギャング構成員に「縄張りから出ないの?」と取材する中で彼らの微妙な心の襞に分け入る下りなど、鋭い視点は幾度か目を引いた。また、犯罪組織やその行動のディテールは間違いなく「私の知らない世界」で、その点で参考になるところは少なからずあった。

 私たちの日常は、善意に囲まれている。重大な犯罪を直接目にする機会は、少なくとも私には、皆無に等しい。けれども、それは私の属する社会、私に見えている世界でしかない。薄皮一枚隔てたすぐ隣には、違う現実がある。違う思考、違う行動様式の人たちがいる。犯罪も間違いなく私たちの社会の中にある。「犯罪者にも普通の暮らしがある」という著者の指摘は、その裏表なのだと感じた。

 本書を読み終えた時、以前消費者庁幹部の講演で聞いた話を思い出した。消費者庁の中で特殊詐欺業者を取り締まる部署は取引対策課になる。その幹部は取引対策課職員に対して「君たちの相手はこういう人や組織だということがよく分かるから読んでおきなさい」と『闇金ウシジマくん』を勧めている、とのことだった。私は元々コミックファンとして読んでいたので、心の中で頷きながら聴いていた。

--------(以下noteの平常日記要素)

■【累積41h38m】本日の司法書士試験勉強ラーニングログ
実績180分、動画を見終えてストップウォッチ止めたらジャスト3時間。動画を計5本視聴、

■本日摂取したオタク成分(オタキングログ)
『探偵はもう、死んでいる』第6話、BGV。『はめフラ』第6話、これも話半分だったけどガールズトークが楽しげ。『ドラゴン、家を買う』7~9軒目、ピーちゃんってO次郎だよね、バ!(昭和脳) 『デカダンス』第1話、本放送を楽しんだ割に話の細部を終えてないので再度視聴開始。『精霊幻想記』第5話、話半分。『白い砂のアクアトープ』第4話、P.A.WORKSの作品は実写ドラマにでも馴染むものが多い気がする。『かげきしょうじょ!!』第5話、こういう演劇界の話は秀作が多いが、これもいいねえ。かわぐちかいじ『アクター』を思い出した。(昭和脳ふたたび)

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