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読書感想文 #2

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岡田麿里『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』

人気の脚本家、岡田麿里さんの自伝です。私、アニメーション映画が好きでよく観るのですが、岡田麿里さんの自伝はとても良いとの話を聞き、いまさらながら読んでみました。

岡田麿里さんは、「花咲くいろは」(2011)、「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」(2011)、「心が叫びたがってるんだ。」(2015)と有名な作品の脚本を多く手掛けておられます。原作付が当たり前のアニメの世界で、オリジナルの脚本でヒット作品を連発している今をときめく人気脚本家ということです。というのは、私アニメは好きですが、いまいち声優が誰とか、スタッフが誰というところまで興味がいかず、「あの花」も「ここさけ」も監督が長井龍雪さんという認識ぐらいしかありませんでした。

これほどヒットを連発されている脚本家なのですから、さぞかし才能あふれる自信家で、キラキラした人生を歩んでこられたのだろうと思いましたら、全然違いました。タイトルにあるとおり、岡田さんは元「登校拒否児」。現在これだけ成功をされている方ですから、過去のそんな話はあまり語りたくないのではと思うのですが、これでもかというくらい赤裸々に過去について書かれています。なぜ学校へ行けなくなったかや、家族との関係、友人との関係、先生とのやりとり。たった一つの「言葉」から相手の気持ちや心の動きを読み取り、そして動けなくなってしまう。私なぞは鈍感で、なかなか他人の気持ちに気づけなかったりするのですが、ほんと繊細なんですね。そんな学校にいけない状況のなかでも、なんとか学校を卒業し上京をされる。そして、アニメの脚本という夢中になれる仕事と出会う。

「心が叫びたがってるんだ。」は大好きな作品ですが、なんでこんなにもこの作品は登場人物の心の動きが、繊細に、そして美しく描かれているのだろうと思っていました。これはまさに脚本家の岡田さんの実際の体験から来ていたのですね。岡田さんと私同年代ですので、当時の子どもがやたら多く派閥ができてギスギスしがちな学校の雰囲気もよくわかりますし、私も運動神経が悪くかなづちでほとんど泳げずに水泳の授業など苦労しましたので、バカにされた時の嫌な気持ちもわかります。でも高校の先生が課題のやり取りを通じて大きな学びを与えてくれたり、厳しい祖父が実はとてもあたたかく自分を見守ってくれたり。すさんでいるとそういうことに気づけなかったり、また気づいても感謝できなかったりしますが、しっかり受け止め、また感謝できるところが岡田さんの素晴らしいところで、その心が作品に漂うなんとも言えない「やさしさ」に繋がっているのかなと思います。

「心が叫びたがってるんだ。」は岡田さんが決めたタイトルなんだそうです。長井監督に反対されてもこれだけは譲らなかったと。

『叫びたいんだ。』にしてしまえば、叫びたい何かがもともと存在することになるから。順と同年代だった頃の私には、それがなかった。誰かに、どこかに、叫んでぶつけたいことがある訳じゃない。ただ、ひたすら叫びたいという欲求だけはある。胃の中に沈殿する、もやついた名前のない塊のようなもの。それを吐き出したい。

このような情熱的な思いがある、岡田麿里さん。今後もどのような素晴らしい脚本を産み出されるのか楽しみです。




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