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スポーツ選手に対する鍼灸治療の有害事象について考える

みなさんこんにちは。
【考えながら臨床をすれば鍼灸治療は上手くなる】
スポーツ医科学と鍼灸を考えるF Lab です。

今日はスポーツ選手が受ける鍼治療の有害事象についてです。
有害事象と聞くとなんか嫌なイメージがありますが、リスクを知って施術することはとても重要だと思っています。
最近、私はこの有害事象について調査を行なっています。
その一部のデータを紹介したいと思います

まず、有害事象とは何でしょう?


有害事象(Adverse Event)
 医薬品の投与、放射線治療、または手術を受けた患者に生じた好ましくない医療上のあらゆる出来事であり、必ずしも当該治療との因果関係はがあるもののみを指すわけではない。
 つまり、有害事象とは医薬品の使用、放射線治療、または外科手術と時間的に関連のある、好ましくない、意図しないあらゆる徴候(例えば、臨床検査値の異常)、症状、または疾病のことであり、当該治療との因果関係の有無は問はない。

ちなみに、副作用は広義の意味として「主作用でない作用(主作用に関係のない薬理作用)」であり、好ましい作用ではありません。狭義には「好ましくない薬の作用」を意味し、主に有害反応(Advers drug reaction)とも呼ばれています。

因果関係があるかが重要なポイントかもしれません。

スポーツ選手に対する鍼治療の有害事象は、どの程度出現するのでしょう?
はたして、鍼治療は安全にスポーツ選手が取り入れる事ができるのでしょうか?

今回は、我々が行ったスポーツ選手に対して行った鍼灸治療の有害事象について調査した論文を紹介します。


対象はスポーツ選手1804名で、その中で鍼灸治療を経験していたのは841名でした。
アンケートを行い、鍼灸治療による有害事象の経験について調査しました。
その結果、鍼治療の有害事象を経験していたのは、47.6%でした。

その中で、
鍼を打たれた時の痛み: 17.0%
皮下出血: 10.1%
鍼を打たれ終わった後の痛み、違和感: 10.0% など
の順でした。いずれも一過性のもので重篤(医学的な処置が必要)なものではない症状でした。

数件ではありますが、
症状の悪化: 0.7%
神経損傷(痺れ): 0.5%
金属アレルギー: 0.1% などもみられていました。

自由記述では、刺激過多による違和感、運動時の動きにくさに関する記述が17件ありました。

注)このデータは鍼灸治療による有害事象の経験の有無を問うものであり、有害事象の出現頻度を問うものではない。

従来、鍼を行った時に感じる響き(得気)を感じることがあり、この感覚が運動時の動きに影響している可能性があります。しかし、これも一時的な感覚で多くの場合、1日程度で解消されます。あとは、鍼を打った後に軽くなる、関節が動かしやすくなるといった効果が普段の動きと異なる感覚が生じているのかもしれません。競技への影響を避けるには鍼治療を行うタイミングも重要です。

スポーツ選手に対する鍼灸治療の効果については近年の、報告されてきていますが、
有害事象についてはまだまだ報告が少ないのが現状です。
また、最近の報道で腰部の鍼治療による折鍼の報道がありました。
私の研究による調査で折鍼を経験していた選手がいませんでした。また、過去の文献で単回使用の鍼(使い捨ての鍼)を使って折鍼の報告はありません。
本当に稀なケースだと思います。原因の究明のためにも情報を集めたいですし、今後の安全性のために、なぜこのようなことが起こったのか知りたいです。

鍼治療のイメージとして、組織に傷をつけてしまうのではないか?といったイメージから用いるのを躊躇うこともあるのではないでしょうか。実は安全で有効な治療だと考えられます。

スポーツ選手に対する鍼灸治療の有害事象を正しく理解し、選手と施術者の両方が有効で安全に用いられると良いですね。

また、一緒に勉強しましょう。

参考文献
藤本英樹 他. スポーツ選手を対象とした鍼灸治療の有害事象調査. 全日本鍼灸学会雑誌. 2020; 70(1): 14-25.

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