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スペイン社会労働党による『女性の現実を抹消する理論に対する反論』

2020 年 6 月 9 日、スペイン社会労働党(PSOE)の連邦執行委員会は、党内のすべての内部組織に向けて、「女性の現実を抹消する理論に対する反論」と題した声明を発表した。 声明は次のような導入で始まった。

“ 親愛なる同志の皆さん ”
「ご存知のように、セックス(Sex =身体的性別)やジェンダー(Gender =社会的性役割)などの基本的なフェミニストの概念の使用と混乱について、時には隠された意図を持って、 論争が過熱しています。学界や活動家の世界では、生物学的な性別(Sex)の存在を否定する幾つかの理論(具体的にはクィア理論)があり、それらは女性の物質的な現実をぼやけさせ、曖昧にしています。
身体的な性別(Sex)の存在を否定するならば、この生物学的事実に基づいて判断され、構築される不平等の存在を否定することになります。だからこそ私たちは、政党としての主張と立場を統合したこの文書を作成したのです。
どうか皆様のお役に立てますように。」

スペイン語を話すドミニカ人作家のラクエル・ロザリオ・サンチェス氏はこの文書の英訳を申し出て、この政治的トピックが近隣諸国の社会主義政党でどのような方向に進んでいるか、英語圏の視聴者に広く報道されるよう尽力した。

※編注:
・英語圏、スペイン語圏の双方に、定義が一致した共通のトランスジェンダリズム用語が無いと、記事元が但し書きをしている。

SEX(身体の性別)は生物学的事実であり、
GENDERは社会的構築物である

■ Sex(セックス)は生物学的事実である。Sexは生物学的、生理学的な身体的特徴を指し、人間を男性や女性として定義し、区別するものである。女性は生まれ付いた身体の性別によって、この世における境遇が決定される。そこから女たちが引き受ける領域と行動様式が構築され、境界が定められる。Sex(身体の性別)は、女性が持つ権利や市民権のレベルを決定し、最も極端な場合には、攻撃、嫌がらせ、殺害を被るか否かさえも決定する。

■ Gender(ジェンダー)は、 出生時の生物学的性別に付随した社会的構築物である。つまり、社会的・文化的な役割、課せられる仕事、ステレオタイプ......、 これらは男性と女性に別々の方法で割り当てられ、期待と機会を予め設定する。 Gender(社会的性役割の性別)は、性別役割分業(男性は生産、女性は生殖)と、領域(男性は公的、女性は私的)を固定し、女性よりも男性の優位性を前提としている。

■ ジェンダーは、今やある種の運動によって、正に生物学的性別の概念そのものと置き換えるために悪用される分析手段となった。
もし、セックスを排してジェンダーにすげ替えるならば、男性に対する女性の構造的不平等という境遇は曖昧になってしまう。ジェンダーは、男性に対する女性の被抑圧・不平等・服従を暗黙のうちに伴う分析的な区分である。だからこそ我々フェミニスト社会主義者は、女性の解放を達成するためにジェンダーの撤廃を求めているのだ。


女性は、 生物学的女性に生まれたことによって

■ 女性は、生物学的女性に生まれたことによって殺され、少女は性器を切除され、 生物学的女性として生まれたことに基づいて、ケア役の責務を社会から押し付けられる。 女性は、生物学的女性に生まれたが故に強制結婚の対象となり、 個人の自由意志を否定される。 女性は生物学的女性に生まれたが故に選挙権を否定され、リソースの利用が妨げられ、高確率で貧困と不安定な雇用に虐げられる。
差別、女性に対する男性の暴力、 そして女性と女児が市民権を持つ存在であることへの十分な認識の欠如は、 身体的性別と結びついたこの構造的不平等に基盤を持つ。

■ 身体の性別(Sex)を否定すれば、 この生物学的事実に基づいて判断され構築される不平等もまた否定されてしまう。

『Sexual と Gender Identity 』という語句への
注目すべき作為

■ とある個人が『自認する身体の性別』と 『実際の生物学的性別』が一致しない状態を『性転換症:Transsexual』という。

■『性自認:Gender Identity』はつい最近の用語で、生物学的性別にとっての周辺的なものであり、生物学的性別との不一致を意味するものではない。つまり、とある個人が『男性の体を持ったままの女性』のように心で感じることも可能であり、逆もまた然りだ。

■ これらの用語は、既に様々な法的枠組みの中で使われており、法律第3番(2007 年 3 月 15 日)では、国民の Sex(身体的性別)に関する記載の登録法改正法を定め、『性自認:gender identity』について言及している。

■ また、憲法裁判所の判決(2019 年 7 月 18 日の第 99 番、違憲性 1595-2016 の質問)では、「sexual identity:セクシャル・アイデンティティ」と「gender identity:ジェン ダー・アイデンティティ」について区別を付けることなく言及している。

・同様に、スペインの自治諸州における複数の法律では、均等待遇と差別の禁止に関連して、両方の用語を使用している。

・そして、EUではイスタンブール条約(第 4.3 条)に登場し、国連女性機関では、複数の文書にこれらの用語を含んでいる。

■『sexual identity』や『gender identity』の概念は厳密には同一ではないのだが、 国内、および国際レベルの法的文書やその他の文書で、区別されずに用いられてきた。 然るに、最近、注目すべき使用法が『クィア・アクティビズム』によって作出されており、 学界内部や特定の社会運動の周辺では、双方の専門用語の使用と共に新しい曖昧な概念の結合が着実に根付きつつあるのだ。これらの用語を混乱するよう操作した結果、正に『女性』という法的概念と政治的主題が危機に晒されている。

■ したがって、非差別であり自由な自己表現と個人の尊厳を保証するという条件内での用い方と、「women」という言葉に攻撃されたと感じたり、この言葉を消滅させようとしたり、女性の現実を否定しようとする、複数の特定グループによって持ちだされるこれらの概念の興味深い使用法の法的な範囲を、区別することが重要なのだ。

■ スペイン社会労働党が、トランスセクシャルを応援し、彼らの権利獲得を成就する闘いを 支援してきたことは、疑う余地のないものである。私たちは、市民権および差別を受けない権利を完全に取り戻したいという彼らの要求を、汲み上げるものである。

■ これは、個人が生物学的な性別や自分がそうでありたいと思う身体的な外見に関係なく、男性のように感じるか女性のように感じるかを問うものではない。感情とその表現がどのように法制度に移されるのか、特にそれが時間の経過とともに安定しない場合にはどのように法に移し換えるのか、そしてこれを法律に制定することの意味は何か、ということを問うているのだ。感情の正確な表現を、法的にどのように認定するのか。トランスの人々の個々の権利を尊重することは、確実性という法的原則の枠組みの中で考えなければならない。

■ 私たちは、感情、表現、および個人の意思表示に対し、自動的に完全な法的効力を与えなければならないかのように擁護する立場に、反対する。いわゆる「性別(gender)アイデンティティの自己決定権」や「性別の自己決定権」は、法的合理性に欠けている。

■ 国民の性別に関する陳述の登録修正を規制する3月15日の法律(3/2007)によって確立されたように、また、LGBTI集団の権利や平等な待遇と差別撤廃に関連する近年の自治諸州の法律がそうであるように、完全な法的効力を得るには、正式に認定されたものとして「性転換の安定した状況」が存在しなければならない。


女性の定義を変え、
その現実を否定する理論の実質的なリスク

■ これは統計データの収集にどのような影響を与えるだろうか?
我々は生物学的性別によって情報を集計しているが、これは問題(労働力と賃金の不平等、貧困の女性化、ガラスの天井、性差別的暴力...)を理解し、それらの問題に取り組むに必要な公共政策を決定するための基本である。

・性差に基づく暴力に関する法律への影響は?
 女性自認の男性が女性を虐待しても、罪に問うことはできるのか?

・平等政策による議員の男女比のバランスへの影響は?

・女性用の避難所や拘置所などの、公的リソースやサービスの利用への影響は?

・女子スポーツへの影響は?


女性とはアイデンティティではない

■ 女性はアイデンティティでも本質でもない。ましてや、共同体の一要素でもない。 人類の半分以上を占めているのは女性だ。
生まれる際の身体的な性別が女性であることによって、この世における地位が確定する。それによって、彼女たちが引き受ける領域と行動様式が構築され、定義される。身体の性別は女性が持つ権利と市民権のレベルを決定し、最も極端な場合には、殴られたり殺されたりすることなく生きていけるか否かさえも決定する。フェミニズムは、女性と男性の平等な権利、及び、女性の完全な市民権と女性の解放を求めて戦う。 フェミニズムの政治的主題は女性なのだ。

■ 差別との闘いと、インクルージョン(包摂性)の尊重は、民主的な社会の義務である。しかし、その使命を拷問の如く用い、男女平等の利益を損なう口実として悪用してはならない。社会主義者として私たちは、平等と多様性の尊重が、より良い民主主義を作っていけるのだと主張する。

■ クィア活動主義は、政治的、および法的主体としての女性を曖昧にし、女性の権利、男女平等の公共政策、そしてフェミニスト運動の成果を危険に晒している。

■ スペイン社会労働党からは、『Transsexual:身体性転換者』に対する我々の配慮と敬意、そして、彼らが必要とする支援と法的安定性の提供を表明する。

■ 私たちは社会主義者としてフェミニストの立場を擁護し、この国会審議期間中にこれらの見解を立法活動として展開する。


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