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沈黙のスパ

『ガーディアン』紙は女性が口を閉じていることを望んでいる

ロサンゼルスの韓国式スパでおきた事件はどのようなものであり、アメリカでどのような報道のされ方をしてきたのか。同様の入浴施設を持つ日本でも、今後身近でおこるかもしれない事件として考えなくてはなりません。
なお、原題に使われているWheesht(ウィーシュト)は、他人を黙らせるときに使われるスコットランド語です。だからトランスジェンダリズムが著しく女性の権利を奪っているスコットランドでは、女性たちが #WomenWontWheesht (女性たちは黙らない/黙らされたりなんかしない)のタグで抗議しています。

ジョセフィン・バートッシュ
『ザ・クリティック』2021年9月6日

 SNSにおいて「CubanaAngel」として知られている女性は、間違った種類の公民権運動家であるとされている。主流派の左派は彼女が口を閉じていることを望んでいる。彼らから見れば、カリフォルニアの黒人女性であるCubanaAngelは、間違った意見を持ち、流行らない神を崇拝し、おそらく初対面の人に会うときには自分の代名詞も言わないだろうからだ〔最近のリベラル派は、初対面の人と会うと自分の代名詞がhe なのかsheなのかtheyなのか言う習慣があり、それが「政治的に正しい」と信じている〕。
 彼らの思うような政治的純潔度テストに合格していないにもかかわらず、CubanaAngelは自分には不正だと思うことに対して声を上げる権利があると信じていた。しかし、彼女がそうしたところ、「無力な人々の声を届ける」と謳っている『ガーディアン』紙の米国版は、彼女が「根拠のない主張」を行ない、それが極右の暴力的な過激主義を煽ったと報じた。

 事の発端は、6月23日、CubanaAngelがロサンゼルスのWi Spaにある女性専用のジャグジーでリラックスしようとした時のことだ。そのスパで彼女は、女性や少女に自分の姿をさらしている裸の男を目にした。CubanaAngelがスタッフに苦情を言うと、州法に基づいてできることは何もないと言われ、その男性は実はトランスジェンダー女性かもしれないと言われた。彼女はその時の様子を3分25秒のビデオに収め、それはただちにインターネットで広まった。その映像の中で、彼女は受付にこう問いただしている。

「つまり、男性が幼い女の子にペニスを見せてもいいってこと? Wi Spa はそれを認めているってこと。そう言っているの?」

 このビデオをきっかけに抗議活動が始まり、7月3日には一般の人々が集まり、カリフォルニア州の女性たちが男女別の空間を利用する権利がなくなったことへの怒りを表明した。その抗議活動には、「同性愛は罪である」と書かれた看板を持ったクリスチャンもいれば、トランスジェンダリズムが生物学的性別にもとづく権利(sex-based rights)に及ぼす打撃を心配するフェミニストやLGBの人々もいた。

 フェミニストの活動家で「LGB Fightback」の共同設立者であるベリッサ・コーエンは、「声を上げた女性をサポートすることが重要だと思ったから」という理由で抗議活動に参加した。しかし、会場に着いてみると、抗議活動への反対者たちが約200人いた。その中には、自称「反ファシスト」グループであるアンティファのメンバーもいた。彼らは、Wi Spaの「トランス・インクルーシブ」ポリシーを支持するために一斉に集まったのだ。

 レズビアン雑誌『After Ellen』のオーナーであるゲイ・チャップマンは、「何人かの女性と会って、状況を確認するために行った」と語っている。しかし、「This witch doesn't burn(この魔女は燃えない)」と書かれたフェミニストのTシャツを着ていたチャップマンは、アンティファの活動家に野次を飛ばされもみくちゃにされて、退去を余儀なくされた。

 米国では報道が極端に二極化しているように見えたが、これに続いて起きたことは、『ガーディアン』紙が墓穴を掘って誠実さを投げ入れ、さらにそこに小便をしたに等しい。『ガーディアン』紙の米国版は2つの記事を掲載し、事件全体がおそらくデマであり、男性が自分の性器を露出することに反対する人々は、白人至上主義者と提携した心の狭い差別者であることを強く示唆した。
 『ガーディアン』紙のスタッフ、ロイス・ベケットとサム・レビンは、匿名の「専門家」がこの抗議活動について次のように主張していると報じた。
「これは、誤った情報がどのように暴力につながるかのケーススタディであり、反トランス派と極右運動のつながりを示す明確な証拠となった」。

 英国のジャーナリスト、オーウェン・ジョーンズは、この記事を「嘘のキャンペーンに関する素晴らしい@USGuardianのレポート」と絶賛した。しかし、スパでのCubanaAngelの映像は残っていた。

 しばらくの間、これは「シュレーディンガーの陰茎〔量子力学に関する「シュレーディンガーの猫」のもじり〕」の問題のように思われた。つまり、それが露出狂についていたペニスであるとする報道と、無害なトランス女性の陰部からぶら下がっている無性の付属物であるとする報道の両方があった。あの有名な猫のように、誰が観察するかによって何が起こったかが違ってくるというわけだ。

 この夏、Wi Spaで他に同じような事件が起こっていたことが報道されるようになった。ある母親は女性専用の湯船で6歳の娘と一緒に浸かっているとき、裸の男が入ってきたと説明した。彼女は『デイリー・メイル』紙にこう語っている。

「彼の姿は夕方五時ごろの影がかかっていましたが、彼のペニスと陰嚢がぶら下がっていました。……私が見たその人は活動家のようでした。……周りのほとんどの人が不快になるのを楽しんでいるようでした」。

 この事件が政治的目的のために捏造されたものであることをほのめかす『ガーディアン』紙の2回目の記事から5週間後の9月2日、ダーレン・エイジ・メラガーという人物がWi Spaでの公然わいせつ容疑で告発されたというニュースが流れた。メラガーは登録済みの性犯罪者であり、過去に多くの犯罪歴があることが判明した。ロサンゼルス市警は、5人の被害者・目撃者が名乗り出たことを確認し、「被害者と目撃者への聞き取り調査、証拠の検証を行ない、最終的に公然わいせつの申し立てを裏づけることができた」としている。

 このニュースを受けて、『ガーディアン』紙は、しぶしぶその告発の事実を認めながらも、代名詞を巧みに避け、改めてデモ参加者を危険な極右過激派として中傷する記事を書いた。同記事は、CubanaAngelのキリスト教信仰に言及し、あたかもそれが彼女の経験を無効にするかのようにそうしたのである。

 『ガーディアン』紙のWi Spaに関する最新の記事で注目すべきは、メラガーが逃げ場のない女性たちと一緒に投獄されるだろうという事実について触れられていないことだ。カリフォルニア州では、Transgender Respect, Agency and Dignity Actにより、「トランスジェンダー、ノンバイナリー、インターセックス」と認識されている囚人は、「収監されている個々人のジェンダー・アイデンティティと一致する」形で収容され取り扱われることが認められている。『ガーディアン』紙が本気で底辺の人々のために立ち上がる気があるなら、メラガーのような性犯罪者と同房を余儀なくされている女性たちに話を聞くべきだろう。

 『ガーディアン』紙は「#metoo」について心を痛めているようだが、メラガーの犯罪を訴えた女性たちを信じることが問題になると、「力なき者に声を与える」どころか、被害者など存在しないことにしている。CubanaAngelのような女性は、イデオロギー的に不都合な存在なのだ。結局のところ、「ペニスがあれば男である」という発言は、右翼の犬笛でもなければ、何らかの政治的主張でもなく、単なる事実の表明である。


翻訳:TB
原文: https://thecritic.co.uk/wheesht-spa/