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1. 全力疾走・・ Champion 860 ('64)

こんにちは。
おやじの左手(略してFLH)です。
趣味のひとつとして、1960年代の国産手巻き実用腕時計を集めてはこつこつと修理をしています。
記事の趣旨は、「自己紹介」をお読みください。

はじめての記事投稿になります、拙い文章ですが、どうぞよろしくお願いします。


①SEIKO Champion 860

型番:86898  Cal:860  17石  5振動(毎時18,000振動)
ケース径:36.5mm(リューズ含まず) ラグ幅:19mm   
1964年8月製造(S/Nより推測)

国産実用腕時計も1962年くらいから各々に防水仕様が出始め、ベゼル、ラグともに細身だったケースが堅牢なものに変わり始めました。
チャンピオンもその流れにもれず、860シリーズも防水ケースは今の時計に近いデザインになりました。

チャンピオン860 
セイコー亀戸工場で生産、亀戸式自動巻き腕時計の基になるという技術面の存在価値が大きい製品という言葉がトンボ本にありました。
860は、1963年発売から1966年生産終了、思いのほか短い時計人生でした。
1965年(S40)頃の販売価格は5,000円くらい。
S40の大学卒初任給が19,600円とありますので、月々頑張って倹約して購入された方も多かったかもしれないですね。
買ったときは、がぜん仕事を張り切られたと思います。
その想いに十分応えることができた実用腕時計ではないでしょうか。

②正面

筆記体のロゴに当時の雰囲気が出ててレトロっぽさを感じます。
文字盤はリダンされるほどの高級時計ではないので、当時の状態かと。
粘土クリーナーで表面の油と埃を取りエアブローして綺麗になりました。

細かい話になりますが、このケースだと「Champion calendar 860」のロゴのはずなのですが、この時計には「calendar」の文字がありません。
同じ860でも「Campion calendar 860」と「Champion 860」とではケースも文字盤の大きさも異なるのですが。
こういうのも発売されていたんだなとひとり納得しています。

風防は、状態が悪かったのでデッドストック品と交換しました。

③左右側面


細かいキズは多々ありますが、腐食は見られません。
こういう状態を見ると、毎晩家に帰ったらすぐに拭くなどして、とても大事に使われていたんだなあと、笑顔になります。

日常使いでキズがつくのは当たり前ですが、腐食は汗など異物が残らないよう、適時拭き上げれば防ぐことができます。
時計への気持ちの入れようで綺麗さが保てるので、持ち主の人となりがわかる気がします。

④背面

※S/Nの一部をマスクしています

かすかにタツノオトシゴの刻印が見えます。
この年代のチャンピオンやスカイライナーの裏蓋は柔らかい素材を使っているようなのですが、ステンレスがそう簡単に擦り減ることはなく、長い間、毎日毎日使われて擦り減ったのでしょう。

自分が持っているチャンピオン860は、このような裏蓋が多いです。
やはり裏蓋刻印ばっちりの時計を入手したく思いますが、擦り減ってほとんど刻印が見えない時計も気に入っています。
身体が削られるほど働いた証拠であり、それだけ信頼され愛された証だと思っています。

この時計、仕入れ時は、裏蓋やベゼルとケースの隙間に砂埃みたいな細かい粒子がびっしり固着、洗剤と歯ブラシで洗っても取れない状態でした。
埃の混入具合から、少しずつ汗や雨の湿気とともに砂埃が隙間を埋めていったような感じ、外での着用が多かったように思います。

ケースに大きなキズは無いので、力仕事ではなさそう。
持ち主だったおやじさん、外回りの営業職だったんじゃなかろうか?

尖った工具で固着部分を擦り落とし、超音波洗浄機し、ペースト研磨剤で磨きクリーニング完了です。

⑤ムーブメント

記録している修理ノートを読み返すと、仕入れ時はゼンマイに巻き止まり無しとありました。
リューズを巻いても空ら回るだけでゼンマイが巻けない状態、香箱不良に間違いありません。

予備の香箱と交換、テンプも動きが少し弱かったのでCal 7622のテンプと交換、他部品洗浄、注油で復活しました。

⑥全力疾走

このチャンピオン860、
毎日毎日、ゼンマイをフルに巻かれ、裏蓋が擦り減りゼンマイが切れるまで全力疾走だったんじゃないかな?

昼は炎天下、うちわを持った左手で腕の汗を浴びながら、ブンブン振り回され。
夜は夜で、雑多な飲み屋で左手のタバコの煙にモクモクまみれ。
時には、急な雨にビショビショに打たれたかもしれません。

けど、家に帰ったら労われ、丁寧に拭き上げてもらえたんだね。

その想いに応えるように、頑張って頑張って、最後の最後に「もうだめ、ごめんなさい。。」とゼンマイがプッツンいったのかも。

実用腕時計としての自分の役割りを忠実に守り、持ち主さんと一緒に走り続けたんだな、と思いたいです。
「ご苦労様でした」と言いながら治したことを憶えています。

さて、今週は久しぶりの外回りです。
朝、ゼンマイをフルに巻いて、少し走って汗かいて、このチャンピオン860に、全力疾走していた頃を思い出してもらおうと思います。


*****

記事にする時計たち、これからも左手で活躍して欲しく、骨董市やマルシェで出品しようと思っています。
出店など決まりましたら、この場を持って案内をいたします。
その時は、お声がけなどいただけるとうれしいです。

「バースディウォッチ」という言葉をご存じですか?
お生まれ年に作られた時計を時計好き界隈で「バースディウォッチ」と呼んでいます。
自分が過ごした歳月を感じられる腕時計と、ともに過ごすなんて素敵かも。
1965年(S40)生まれの私、懸命に針を動かしている同世代の腕時計たちにいつも励まされています(笑)。

⑦1964年(S39)の出来事、流行(ネットより抜粋)

・東京オリンピック開催(日本の金メダル16個)
・東海道新幹線開通(ひかり:東京→大阪 4h 2,480円)
・日本武道館開館
・流行歌
明日があるさ、幸せなら手をたたこう(坂本九)、愛と死をみつめて(香山和子)
・映画
マイフェアレディ、007ゴールドフィンガー、クレオパトラ
・芸能
オバケのQ太郎連載開始、ひょっこりひょうたん島放送開始、子供電話相談室放送開始
・ヒット商品
カッパエビセン、ワンカップ大関、みゆき族、アイビーブーム
・おおよその大学卒初任給  17,100円
・物価
映画:300円、ラーメン:60円、週刊誌:50円、牛乳:18円、かけそば:50円

FLH                                                                                                       
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