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ありがたや、冬の王三部作が完結 読書感想文

14世紀のルーシが舞台で、けなげな魔女やきえかけの精霊たちの歴史ファンタジーを読みました。

冬の炉端で活字に触れるというイメージに胸を打たれ、ヘッダー画像をお借りしました。この場を借りて御礼申し上げます。

この作品を読みました

冬の王三部作は『熊と小夜啼鳥』『塔の少女』『魔女の冬』からなる小説です。

原著はそれぞれ2017,2018, 2019年に出版されていて、翻訳は一作目が2022年、二、三作目は2023年に出版されました。著者はキャサリン・アーデンという方で、訳者は金原瑞人野沢佳織のお二人です。

翻訳の刊行ペースは約1年間で3冊と早く、三部作ものは一気読みしたい私にはありがたい限りです。登場人物リスト(愛称も記載)とロシア語の人名についての解説にも助けられました。

なお、『魔女の冬』巻末にある家系図には、ネタバレといえるものがあります。三冊まとめ買いしたかたはご注意くださいませ。家系図を見なくても一冊目から楽しめると思います。

ここから下には、冬の王シリーズのネタバレがあります。ご了承ください。

あらすじ

舞台は14世紀のルーシ。主人公ワーシャが生まれるより前、キリスト教が広がってるとはいえまだ旧来の信仰もある村で、乳母がペチカのそばで「冬の王」の話を語ってきかせている情景から始まります。

やがて、精霊を見ることができる主人公ワーシャが、母の命と引換えに生まれます。ワーシャのやんちゃぶりといったら、乳母だけでは荷が重いから継母が必要だと兄サーシャが父に進言するほどなのです。

ところが、やってきた継母は「見る力」ゆえに苦しんでキリスト教信仰に救いを求めていて、そのうえ村には今をときめく(がゆえに左遷させられた)神父までやってきました。

この二人とワーシャは到底仲良くなれそうにないのですが、それでも、ワーシャは継母の子どもにやさしくしたり、神父を殺そうとする水の精を止めたりしてます。だからといって継母と神父の態度が変わるわけでもなく、そのうえ頼んでもいない縁談がワーシャのもとにやってきて、さらには「熊」が悪巧みを始め…。

と、第一巻は主に一つの村の中で事件が起きていき、敵だらけの主人公には逃げ場がありません(広大な大地に対する主人公の移動手段は徒歩ですし、女の人が独り歩きできるような治安でもないです)。

第二巻で舞台は広がり、故郷を離れた主人公ワーシャは、相棒たるソロヴェイ(馬)とともに人さらいの盗賊相手に一計を案じてみせたり、男装して大公とともに盗賊征伐に加わったりします(ナジェージダ・ドゥーロワ――ナポレオン戦争に参加した女性。『女騎兵の手記』という自伝あり――みたいな冒険だなあと思いました)

スケールの大きさは第三巻で最高潮に達し、ウィッチャーシリーズのシリさながら、ワーシャは古今東西をかけめぐります。

感想

いろいろ思いつくことから一つ取り上げるなら、主人公ワーシャの愛情の多くが馬にそそがれてることです。人間はおのれの愛情を必ず人間に向けよ、なんて決まりはないでしょう。

いちおうロマンスもあり、たとえば「冬の王」ことマロースカは主人公ワーシャの窮地を何度もすくってくれます。が、即座にロマンスが花開くわけでもなく…。

こうしたお約束外しにも、私は納得がいきました。当時の(一定の身分がある)女性は満足に外出もできないというくだりや、主人公がお産に立ち会う場面を読むと納得です。

ロシアつながりで靴ずれ戦線が好きな人にも刺さると思うのでぜひ〜。


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