ヒロイック・ファンタジー小説「兄弟と凍土」
第一幕 開扉
摂政バーキャルクは、宰相ハンバルクと相対している。
二人がいる遊牧民式の冬営用天幕の内部は殺風景で、文官というより武人の居室だ。
壁沿いに物入れがいくつか、あとは机一つと椅子が二つだけだ。
机上には筆記具のほか、何もない。
もう夜で、天窓は閉じてある。外は静かだ。
「誰を身辺に置こうと、俺の勝手だろう」
先ほどからずっと、バーキャルクは、愛刀の柄に指を打ち付けている。
大振りな新月刀で、処刑人の道具といっても信じられるほどだ。
木製の鞘は艶消しの