31日の向こう側

「今日は8月32日よ」彼女はそう言った。
「そんな、だって…… 今日は9月1日のはずで」
「違うわ、キョウヤくん。今日は『32日』なの。」
念を押すように彼女は言った。

昨日の8月31日で夏休みが終わり、今日、9月1日に新学期が始まる。が、賑わうはずの学校には人気がなく、校門すら閉じられていた。
何も出来ず、家に帰る途中の公園で、彼女と出会ったのであった。

何かおかしいと、思い当たる節はいくつもあった。誰もいない商店街。無人の学校。グチャグチャになった家のカレンダーの日付。
信じたくなくて、目を逸らしていたのだが。

そして、彼女──アスカは。「去年の8月に、8月31日に君は」その先は言えなかった。彼女は何も言わずクスクス笑っていた。

未だ夏であると、蝉は鳴いている。
いつもの公園で、いつもの様に。彼女は遊具の上にいて。まるで僕を歓迎するかのように手を広げた。

「ようこそキョウヤくん!31日の向こう側へ!」

【続く】

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