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俺はよ、この土地でずっとラーメン作ってきたんだよ

他にはよ、何も出来なくてよ、ガキの時分、繊維工場の日雇いの帰りに毎日咳き込みながら屋台のラーメン屋ジロジロ見てよ、見様見真似でよ、最初は始めたわけ。そりゃ最初は全然だよ、犬も食わねえッてヤツ。俺もたまげたね、こんなに上手くいかねえのかって。

場所もよ、今でこそよ、なんだスマホってのか、アレでよ、店の宣伝するだろうが、俺の頃は足で客呼ぶしかなくてよ。行きたくもねえ、気に食わねえジジイの店にも顔出して頭下げて店知ってもらってよ、どのジジイって、ホラ、あのジジイだよ、今も角のとこ住んでるよ、震災の時に朝鮮人が井戸に毒入れたって騒いで、ホントは自分がゴミ捨ててたのをドサクサに隠そうとしてた、性根の腐ったあのジジイだよ。まあ今では、若えのから見たらよ、俺がその気に食わねえジジイなのかもしれねんだけどな。けど俺はあのジジイみてえに若えのに無理やり酒飲ませたりはしねえよ。あの時期だ肝臓壊したのは。

でよ、場所はよ、道路がまだアスファルトとか俺の店の前は無くてよ、毎朝ホウキで灰色の落ち葉を掃除してよ、それでも戸を開けたら砂が舞って汚ねえとか言われてよ、最悪な場所だったんだよ。インチキな不動産屋に言われるがままだったからよ、あの時は右も左も分からねえから。でよ、最初は全然儲からないわけ。や、今も全然儲かってねえよ。カツカツだよ。税金納めるためにお上から金借りてんだ。滅茶苦茶だよ。まあ、俺ンとこはよ、親が決めたお見合いだったけんども、運良くカカァも来てくれてよ、ガキも一人だけ出来てよ、家庭ってヤツも持てた。けどよ、ガキ一人養うには二人で働いてもずっとカツカツだよ。

そン中でもよ、俺の心を支えてたのはよ、その、俺にはもったいねえ、ケツのでけえカカァでもなくてよ、誰にも話さねえけど、カカァにも話さねえけど、俺はよ、俺がよ、自分で自分のラーメンは最高だって、俺一人が最高だって思ってるからここまで続けてこれてンだよ。これしかねえって。うん。それだけに人生の、人生の大ォきな、長い時間掛けても後悔してねえって、そうだよ。そういうことだよ。
だからよ。

だから、


返してくれねえか。


大切な一人娘なんだ。


カカァが40の時に産んだ大事な娘なんだ。


頼む。


この、ラーメンしか取り柄のねえジジイのよ。







最後の頼みだ。







____________(銃声)

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