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HHKB『雪』を購入した回

 みなさんこんにちは(挨拶)。

 ◇

 去年の7月12日に、清水の舞台から飛び降りるような覚悟でHHKBを手に入れ、それ以降ずっとストレスなく使っていたんですが……実際ストレスもないし、不満もなかったんですが……もう1個、HHKBを買ってしまいました。しかも機能的にまったく同じものを。
 こちらになります。

 なんで買ったかって……なんで買ったかって! 真っ白だからだよ!
 いや別にですね、昨今流行りの「ミニマリスト的」なユーザーみたいに「道具は白に染めろ」という意識を持っているわけではないし、高度経済成長期みたいに「家電は白物よね〜」みたいな意識を持っているわけではないんですけれども……なんて言うんでしょうか、その……HHKBにですね、ストレスも不満もなかったんですが、僕自身がひとつだけ欠点を持っていて。
 否、欠点というほどではない。どちらかと言えば「あとひとつここが良くなれば、もっと没入出来るのにな」みたいな、期待みたいなものを持っていたのだ。
 それは何か。
 従来のHHKBにあった、ロゴマークである。

HHKB Professional HYBRID

 販売サイトから画像を拝借しているが、主にここの部分である。
 このキーボードを買ったとき、「無刻印キーボードであり、US配列であるという、僕にとって至高とも言えるキーボードがようやく手に入った! これでもうキーボードについて考える必要はない! 僕は一生これを使えば良いんだ!」……と、去年の時点では思っていたのだけれど、使い込めば使い込むほど、「ああ、どうしてここに文字があるんだろう……」という謎のストレスみたいなものに蝕まれ始めたのだ。
 別に良いのだ。文字があろうとなかろうと。従来の、それこそ10年以上使い続けてきた、東プレのREALFORCE 86Uに比べたら、
・ケーブルレス
・特殊キーレス
・無刻印
 というだけで、僕にとって十分すぎる、もはや奇跡のキーボードと言えた。
 だけど人間の欲望とは限りないもので、半年ほどHHKBを使っているうちに、どうしてもこのロゴマークとシリーズ名が気になるようになってしまった。「これさえなければ……」という、中途半端な完璧主義精神の末路と言える。
 分かりづらいので従来のキーボードをここでは「初代」と呼ぶが、初代は本当に良いキーボードだった。だから文句の付けようがない。操作性、打鍵感、静音性能のどれを取ってみても一級品で、本当にこれ以上自分に合ったキーボードはないな、と思えるほどだった。僕のキーボードの使い方から言って、これ以上に自分に適した道具はない。だから、性能面については何の不満もなかったし、もちろん見た目に関しても、ほとんど不満はなかった。濃淡のグレーで構成されたキー配置は視覚的にも分かりやすいし、僕はこの「工業感」のある色合いが好きなので、「道具」的なイメージのある濃淡グレーも、好きだった。

 ◇

 が!
 しかしだ!
 人間の欲望には限りがないのに加えて、僕は「別に気にならなければゴミ山にも住めるのに、一度気になると高層マンションの窓の汚れが一生頭から離れない」という病気を持っているので、キーボードを操作しながらふと視線を手元に向ける度に「これさえなければ……」という想いに駆られていたのである。
 病気である。
 病気は治療せねばならない。
 しかしながら、この手の病は通院したところで改善する見込みはないだろう。精神病棟に隔離されて「落ち着いてください福岡さーん」「ここにHHKBのロゴが書いてあるだろう! お前には見えないのか!」「その壁には文字なんて書いてませんよー」という対応をされるのがオチだ。
 しかし、幸いなことにこの手の病は金銭によって解決することが出来る。
 というわけで、買ったのだ。

 なんと36,850円もする。
 お前はこのキーボードを買って何をする気なんだ。別に大してキーボードを叩く生活を送っているわけでもないだろうに……という感じもするのだけれども、もう人生を折り返し始めた僕の年齢からすると、「ギター」と「キーボード」という、自分の人生のアイデンティティに関しては少々理性が弾け飛ぶ。

 こうして真上から見てみると、「若干、ちゃちい」という印象を受けなくもない。正直な感想を言えば、ぱっと見、モックみたいというか、作り込まれていないCG処理によるキーボード、という風にも見えなくない。
 が、逆にこれは「高品質なデザインが多くの製品に流用されている」という現象によるものだろう。ギター界隈にもよくあることだが、初心者用ギターとして売り出される価格の安いギターは、大抵が往年の一流機種のコピーモデルである。だが、触れば違いは一目瞭然——ならぬ、一触瞭然なのだ。このキーボードに関してみても、一見すれば「ただ白い、使いづらそうなキーボード」なのだけれど、打ち心地に関しては初代と全く遜色ない(同じモデルなので当然)。いよいよもって、キーボードの最終形に落ち着いたのではないか、と思える。

 ◇

 初代と今回購入した『雪』モデルを比較してみるとこんな感じだ。どちらも良いし、やはり「工業感」のある初代には僕にとっての「キーボード感」が詰まっているのだけれど、左側の「ロゴマーク」も、右側の「TypeS」というモデル名も書かれていない『雪』モデルには、なんとも言えない無機質さと、「道具として特化した結果、芸術性を伴ってしまった」というような洗練された美しさを感じ取れる。
 少し話が逸れるが、僕はピアノという楽器が好きだ。弾くのも観るのも聴くのも好きだ。なんでかって、それは「道具としての合理性を突き詰めたら、あんなに美しくなっちゃった」という、偶発的な機能美に溢れているからだ。ギターは割と意匠に対する想いや願いが多く反映されている、足し算による美しさが映える楽器だが、ピアノの美しさは引き算による美学に思える。今回のキーボードに関しても、引き算の美学の極地という印象だ。

 ◇

 話が脱線したついでにめちゃくちゃ例えばな話をするが、以下のようなピアノがあったとして、

ミキハウス おんがくえほん ピアノ 17-1332-357

 これは「ピアノという楽器に触る切っ掛け」としては十分に機能するし、素晴らしい試みだと思う。が、既にピアノを熟知している人間にとって、「ドと書いてある鍵盤がCの音であり、C♯の位置に①という記号がある」という情報はノイズでしかない。そもそも、この鍵盤は「ド」でも「C」でもないとして演奏する解釈も有り得る。解釈というか、もはや、視認してから解釈して判断をして操作する、という一連の流れを全てすっ飛ばして、「脳の電波によって無意識に打鍵している」という状態になってから、始めて道具選びというものは行われるように思う。何が言いたいかって言うと、要は僕にとってのキーボードは、もはや手足の一部のようなもので、区別のための情報を必要としていないということなのだ。
 そう考えると、キーボード(ここでは文字入力機のこと)に文字情報なんていらないし、色分けという要素も、ましてや商品名などというものも、不要になってくる。まあ、あって悪いわけじゃあないんだけれど、「自分はどこのメーカーのどんな商品で打鍵している」という意識をすっ飛ばして、ただの道具として、言語を意識の外側に飛ばした上で、打鍵という行為に勤しみたいのだ。

 ◇

 話戻って、そんな感じでHHKBを買ってしまったので、試運転兼ねて打鍵をしてみた。
 色が少し変わったことと、文字情報がなくなっただけで、僕の視界に映る『キーボード』のイメージは変わらない。洗練されたデザインと、ミニマルなサイズの機体がそこにある、という感じだ。だけど、ふと手元に視線を落とした瞬間に僕に何も訴えかけてこない道具は、作業に没頭させてくれる。
 今後考えられる課題として、「埃が付きやすい」とか「将来的に黄ばみが発生するのではないか」という問題が考えられるが、まあ……その時はまた、キートップを買い換えるとか、もう1台買うとか、そういう選択肢を選ぶことになるだろうと思う。少なくとも、HHKBが僕の理想を越える製品を出さない限りは、僕がこのキーボードから新しく乗り換えることはないのではないかと思う。唯一考えられるのは、「小説を書く時にファンクションキーは使わないから、Fnキーを排除する」とか、そういった特殊仕様だが、まあ小説を書く以外でもキーボードは使うので、そのような製品が出る可能性は少ないだろう。

 ◇

 最後に作業場近影を貼って今回の日記は終了となる。
 美しい絵と、謎の鏡が壁に飾られ、左手には電子ピアノ。すぐ手の届く場所にギターがあり、机の縁にはLogicoolの「コンパス」がある。録音用マイクを吊し上げるための道具だ。ヘッドフォンは置き場を決めかねてコンパスに掛けてしまっているが、今のところ不満はない。本当は机の裏に配置したいところだが、決めかねている。
 卓上にはYAMAHA HS5が2発と、UniversalAudioのオーディオインターフェースの「ARROW」が鎮座しており、あとはトラックパッドとiMacに、今回購入した『雪』モデルとなった。ニンテンドーSwitchは配置しているが、最近はあまり触らなくなってしまった(映画ばかり観ているため)。だがまあ、この環境ひとつで「ピアノ」「ギター」「ゲーム」「映画」「打鍵」「音楽制作」という僕のアイデンティティがこなせるし、作業の合間にふっと壁を見ては美しい絵に触れられるというこの環境は、なんとも人生の集大成という感じがしてくる。
 せっかくキーボードを新調したので、小説執筆にもそろそろ腰を入れたいところだが、相変わらず平日は忙しなく働いていて、休日はやりたいことが多すぎるのでなかなか時間が取れない現状だ。が、そろそろ暖かくなり始める頃合いなので、呑気に小説を書く生活も始めたいところだ。

 ◇

 そんなわけで久々の日記だった。実に2023年初である!
 SNSを見なくなった分、アナログな活動が多めになっているので、そのうちアナログな生活についての日記も見て見てしてもらえるような体制を整えたいところだ。
 次何か買うとしたら、椅子かな……忙しくてあんまりお金を使えていないので、労働の意味を見出すためにも、環境構築に勤しみたいところである。
 そんなこんなで、HHKB『雪』モデルを買ったよ! の回でした。
 また来年。さようなら。

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