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男女の友情(喜多明里の場合)

野呂亮くんの友だちでいらっしゃる女の子。
喜多明里さん……うん。なんか縁日に行きたくなる名前だな……とは言わないでおこう。
サイドポニーをフリフリ、大きな目をくりくりさせて、色々と質問や話題をコロコロ変える彼女に犬っぽさを感じさせる。
その子と2人きりになった。向こうが話すことが多いが、合間合間でこちらの様子を見るし、反応を待つ。どこかのんびりした口調に居心地の悪さは感じなかった。

「……それで君たちは高校の頃からの関係なんだ?」
「はい。そうですよー。1年の頃に同じクラスになって、なんとなく馬があったって言うんですかね? それから3人で遊びに行ったりすることもあって今に至るって訳です」
「ほー。年頃の男女がよく過ごしてさ……その異性として意識することってないの?」
気になった質問を喜田さんにすると、キョトンとした顔をして小首を傾げている。
「……まぁ、なんていうの?……年頃の仲のいい男と女が同じ時間を過ごすうちに……なんてよくある話じゃない?」それは男と女、それを超えて人間の本能とも思うのだ。
俺はそんな男女を見てきたし、そう言うのが好きって向きも理解はしているつもりだ。
「男として意識したことはないし、女として意識されたことはない……彼らの本当の気持ちは分からないけど、私はそう感じています」
「まぁ、そういう男女もいるだろうけどさ……」少ししかやり取りしていないけれど、そんなに魅力がないって訳でもないぞ?この子。
俺の姿を見て引いていないんだぞ?
自分を受け入れてもらいたい。そんな弱い気持ちをもつのも男だってことは……俺がそうだから「男はそう言うものだ」ということにしておく。
年頃のやりたい盛りから見たら、1人や2人言い寄るだろ?
そんなゲスい考えが浮かんでいると
「……納得されている様子でもないですよね?」ジト目で見てくる。
「まぁね。ほら、喜多さん可愛いし」おどけた言い方で。
「ハハッ、ありがとうございます」軽く笑って、受け止めて「一度、3人で話したことがあるんです」
「何を?」
「私たちの世代にありがちな話題です。『男女の友情はあるのか?』って話題です。チャーミーさんはあると思います?」
「んー……どうなんだろ……もう、そんなこと考える年でもないから分からないな」
相手がどっちの立場か分からないしな。
「私は『あると思いたい』です。のろっちは『ある』と答えて、羊くんは『ない』と答えました」
「全員バラバラだね」
「そうですね。のろっちは……まぁ、そのまんまの意味で私たちの関係を指していると思います」
「それだと、羊くんの『ない』って言うのは、どうなるんだろう?」
「……そうですね。私は彼の弱い部分が口に出たのだと思っています」
「……って言うと?」
「私たちの関係の否定のように一見聞こえますが、彼は現在に至るまで私に対しても、のろっちに対してもフラットに接してくれています」
「じゃあ、良いんじゃない?」
「はい。でも、壊れてしまう関係もたくさんあるでしょう? それはチャーミーさんの質問に意図されることだとも思っていますが」とちらりと伺うような視線。
「ですので『ない』と信じないことで、壊れた際の自分へのダメージを守る意味でも、私やのろっちがそういった感情を持ったとしても……その感情までも責めることは誰もできないことですしね」
他者への気持ちに寄り添おうとして失敗してしまう不器用な青年像と羊くんが重なる。
「遠回し過ぎる配慮故に『ない』と?」
「私はそう理解しています。ですので、私は『ある』と答える、のろっちのままで、いてほしい。」言葉を区切る。
「羊くんにも『ない』なんて本当は言ってほしくない」まっすぐチャーミーの目を見る。
「この友達関係を守るためには2人の特別にはなろうともしないし、私もどちらかを特別視しない。それが2人を守ることで。一方を傷つけず、皆んなが居心地良く過ごせることに繋がると思います。私は今の3人の関係性が好きです。
だから『あると思いたい』です」
真面目かよ……。正直びっくりした。
「特別視とは?」
「恋愛の気持ちは……人間の本能的な、普遍的なものだと思います。誰かの特別になりたい。特別を求め合うのは普遍的な感情だと思います。そして、特別になりあった感情は……お互いに相手に不適切な形で甘えて、相手に理想を求め過ぎてしまうこともありす」
おおう? ずいぶんとさめてるな。この子。
「感情であるが故に、自身でも制御しきれない危うさがあって……それをこの関係に持ち込んだら……一方はそれで傷ついて、私も、その時の相手もそれは望んでいないはずのものです」
「だから、気を遣い合うんだと?」
「はい。誰も言い出していないのに、それからずっと変わらず居心地がいい関係が保てているのは、3人の誰もがそれぞれの形で、それぞれの気遣いをしあって保てているのだと思っています」
話す前は、ふわふわした印象の子だったけど、色々考えているんだなぁと。
お互いが気を遣いあって、お互いに居心地のいい環境を保っていく。
人は繊細に気遣いをしながら、その関係性を保っていっている。一方が好き勝手して良い訳ではない。それがお互いに言葉にしないで自然にできている関係……3人なりのやさしい関係性なのだろう。
言動に表れているわけではなかったけど、それぞれを友達として大事に思っている喜多さんに心の中で拍手を送った。
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2024年 文披31題 day9 パチパチ

後書き

あくまでも、チャーミー目線の話。
喜多さん目線だと続きがあります。

……という考え方もあるようですよ?
チャーミーさん。

そもそも、友情とか恋愛の定義、その境界が曖昧で。性別を抜きにして、個々の人間には免れられない断絶があります。

私は他人の超えられたくない壁を越えようとなんてしませんが、他人のそれも許しません。
まぁ、彼らのことは肩肘張らなくてすむ相手としては好きですよ?
それで充分でしょう?

……と続きます。
喜多さんのイメージは変わりましたか?
後書き前は「目に見えない関係性を信じる子」
後書きでは「人間不信」を表現したつもりです。

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