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喜多明里の本心

喫茶店『南風』
野呂亮君のバイトの日ではないことは確認している。私はチャーミーさんを待っている。

彼にチャーミーさんをお借りしたい旨をLINEで送っている。
「いいけど、なんで?」
「お願いしたいことがあるんだ。あんまり人に話しづらいことなんだけど……」
「分かったよ。伝えとく。チャーミーは暇だからいつでもいいと思うよ。喜多の都合だけ教えてくれる?」
「ありがとー」
特に深掘りされることないので助かった。

約束の時間になると、カランカランとドアベルが来客を告げる。チャーミーさんだった。
「お待たせしましたー。どうもどうも」
「今日はありがとうございます。暑い中すみません。とりあえず、何かお飲みになりますか?」
彼にメニューを差し出す。アイスコーヒーだけ注文して、彼は単刀直入に切り出す。
「それで本日お呼びいただいたご用件はなんでしょ?」
「んー。そうですね。正直、口に出すのが憚(はばか)れるんですよね。魔法とかで私の思っていることって理解できます?」
出来なかったら口に出すつもりだけど魔法を見ておきたい。
「あー。お話ししづらい事情がおありなんでしょうか?ご本人がそうおっしゃるなら失礼させていただきますよ?」と断りを入れてから、
ゴツゴウシューギ。ラミパスラミパス。ドートデモナーレ。読心術ー。この雰囲気にそぐわない呪文が聞こえた気がした。
しばらく、目を閉じてうつむくチャーミーさん。
以前2人で話した時もこうして本心を悟ることは出来たはずだけど、チャーミーさんはしなかった。彼の中で肉声は聞いても、心の声を聞いてしまうことは何かしらのブレーキが働くのだろう。
そのブレーキの存在を良心といったり、お天道様といったり、神様と呼ぶかは人それぞれではあるけれど。

氷が半分くらい溶けてから顔をあげる。一通りの読心が終わったのだろう。私の黒い復讐心。それを果たす機会に恵まれた期待心。魔法という便利な力に対してなりふり構っていられない気持ちなどが彼に注ぎ込まれたはず。
「…………喜多さん?」すぐに言葉が出なかったのだろう。
「お読みになった通りです。私は父が亡くなる一因である団体がトマトの帽子をかぶって能天気に振る舞っている様を見ると……」言葉を止める。言葉にしなくても通じるほどの怒りはあったはずだ。
窓越しに映る自分の顔を確認する。周囲に気取られる程には歪んでいなかったはずだと思いたい。

「返事は一旦預からせてください。その前にリコ……その団体が、どういう団体が詳しく調べてから報告がてらお返事させていただければと思います」
団体名を言い淀んだのは、できるだけ名前も出したくない感情を嗅ぎ取ってのことだろう。
私はできれば、その結果は見届けたい…‥手を下したい。私の手は、私が汚すべきだ。
「それが喜多さんのお望みを『安全に』運べることにもなるでしょうし。俺自身その宗教のことは詳しく分かりません。だからこそ、どういった結論がそこの信者の人々、喜多さんにとって正解か分からないのです。個人的には宗教は誰かの『救い』になるべきだとは思いますので」
妖精という生き物は初めて見るから分からないけれど、こういった倫理観の持ち主ばかりなのだろうか?チャーミーさんの特性なのだろうか?
ずいぶんと人間寄りなのだなと思った。
「分かりました。いい返事をお待ちしています。調査が終わり次第のろっちを経由して都合を合わせましょう」と話が終わった。

窓の外を見る。今年は格別に暑くなりそうだった。

2024年 文披31題 day16 窓越しの

後書き
リコピン教……テキトーに作っただけの団体がここまで絡んでくると思わなかったし、喜多さんがずいぶん業の深い人物になると思っていませんでした。
31日って長いんだなと思いました。
リコピン教云々については、後日にトマトってお題があるので、それで書こうかな?と。
当初はその予定もなく,ただただ野呂亮くんとチャーミーのくだらないかけ合いで終わると思っていたんですけどね。

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