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サヤとチャーミー

「うちのバカが本当に申し訳ありませんでした」
羽が生えたちっちゃなおじさんが体に見合わないサイズの菓子折りを差し出しながら,私に頭を下げている。
「……えーと……あなたは?」
「大変失礼いたしました。私チャーミーと申しあげます。先日、奇妙な動きをしながら、奇妙な手紙を差し上げた者の……保護者みたいなものです」
「あー……あの……」それは覚えている。「ヒッ」と普段出さない声を出してしまったし、怖過ぎて連絡なんて取れるわけもなし。

彼はトラウマのようになっていないか心配になったらしく……魔法が使えるようで、それでケア的なものができればとのことだった。
忘れたい記憶であれば忘れさせる事もできると。

「なるほど……魔法が使えるんですね?」
「ええ。お望みとあれば大抵のことは叶えて差し上げれると存じます。亡くなられた方を生き返らせるとか、現代医療で治せない病気への治癒は……歴史を変えてしまう恐れもあるのでダメなどの制約はありますが」
「それじゃあ、再度、輝かしい世界に戻りたいです」
「輝かしい世界?」
私はチャーミーさんに身の上話をはじめた。
ありふれた話だった。

私は自分で言うのもなんだけど、よく可愛いと言われていた。
顔が良い。それだけでも私の人生はスムーズだったと思う。
いわゆる、スクールカーストでは上の方だったし、男子からはチヤホヤされ、ちょっと優しくするだけで私の株は上がるし、トラブルがあってもちょっと涙を見せれば他の人がかばってくれる。
周りの女の子も美意識の高い女の子に囲まれていた。
アイドルグループの一員にもスカウトされたことがある。私単体で仕事をしたCMもある。
チョコミン党と張り切ったスーツの女性が可愛く舌を出しアイスを舐めるだけのCM。
それで業界のとある人に「更に上にあがるなら……」と言う話もあったりして、私は天狗になっていたと思う。

プライベートでしてしまった喫煙がフォーカスされてしまったことから、滑り落ちるように私の業界での立場は変わっていった。周りは手のひらを返し、そんな姿を見た学校の子らも白い目で見るようになった。
そんなよくある挫折話に私はひどく落ち込んでいた。

そこで会ってしまったのがリコピン教。下心はあったのだろうが、暖かくもてなしてくれる人たちに悪い気はしない……それどころか傷ついた私の自尊心はいつしか教団のためにと活動に専念するようになった。
誰かに必要とされる欲が満たされて気持ちは前向きになっていく。それでもネットに残る私のCMに胸が痛いし、チョコミントではなくタバコを美味しそうに舐める動画に加工され苦しくなる。

「なるほど。つまり、アイドルだった頃に戻りたいと……」チャーミーさんは私が見せたチョコミン党のCMを見ている。
一番輝いていたと思う時のCM。
「それは大丈夫なのですが……御信仰されている団体の方は大丈夫なのですか?」
これを機に縁を切れたらと思っている旨を返した。理由は2つある。
1つは私の容姿で布教活動をするよう指示されるが好奇の目などが辛いのだ。特に異性の。
2つ目は私の中でそんかリコピン教への不信感が芽生えていること。
「そのことは個人的にはサヤ様に対して思うところがありましたので、こちらとしても願ったり叶ったりです。もちろん、団体とは手を切れるよう配慮いたします」
チャーミーさんは言葉を続ける。
「お詫びでここに来たのです。お望みであれば、更に上の舞台へあげることもやぶさかではありません」と。

私の願いはチョコミントのCMのイメージを吹き飛ばし、リンゴが砕ける音と共に叶えられた。


2024年 文披31題 day12 チョコミント

後書き
最後の行、サヤちゃんの結末はday13さやかなにて。ネタバレしてしまうと「サヤかな?」っていうこの時の為にサヤちゃんと言う名前にしたという……。

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