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観客騒然の三沢基地航空祭2023。思わず”雲め!”そしてトリは最後にやってきた。

2023年9月、三沢基地航空祭前日、午前中から土砂降りだった。雨男なのか、また雨に祟られた。空港近くに立つ航空科学館に向かうと、多くの航空ファンが、雨上がりの予行実施を待っていた。
 だが、雨こそ止んだものの雲がそんな期待を封じ込めてしまう。ブルーインパルスが滑走路に整列、離陸かと思いきや、5番機が天候調査で離陸、そのまま中止となってしまった。
 この日の予行は全てキャンセルされるのか?そう思っていると、外来機らしき機影が着陸してきた。期待は15時過ぎから予定されている米太平洋空軍F-16デモフライトチームの予行だ。

米太平洋空軍F-16デモフライトチームも三沢で活動する部隊がある。

飛んだ!一斉にみんなカメラを構え、大きなレンズが大空に向けられる。多少天候は回復したとはいえ、気象条件をあまり考慮していない、もしくは、飛行可能とする基準自体が違うのではないかと思うほどのフライトだった。
離陸した途端に低空で旋回、ハイレートクライムで一気に上昇したと思えば、すぐそばの木立の陰から突然飛び出してくる。地上ばかりではなく見えるところからスマホを掲げる人の姿も見受けられた。

これでもかと低空で凄まじい機動を披露するF-16デモチーム。ここはSRSだ。

 三沢基地航空祭当日はこのまま晴れていくのだろう。そう期待してはみたが、早朝からやはり雨になった。程なくして雨は止んだが雲が低く残る。”雲め!”。雨をまた降らせるかもしれなければ、ブルーインパルスのスモークが作る航跡を沈めてしまうかもしれない。

日米の戦闘機が次々とオープニングフライトをこなし展示飛行が始まった。

 心配をよそに、オープニングフライトに向けて様々な機体が上がっていく。航空自衛隊のE-2は部隊創設40周年の特別塗装で登場、会場を盛り上げた。まだオープニングとあってF-16もF-35も気持ち「穏やか」な航過飛行だ。

米海軍のC-17もローパスを披露した。

ここは日米で共同運用する基地だけあって、双方の展示飛行プログラムがてんこ盛り。そしてここ三沢で活動するPACAF F-16 デモフライトチームが機動飛行を披露した。他の航空祭でも観客の度肝を抜くと言っても過言ではないが、地元開催にさらに力が入っているようにも感じる展示飛行だ。

「モフモフ」は当たり前!

F-16ばかりではない。F-35も低空でこれでもかと、空中ドリフトよろしく急旋回を繰り返す。その機動は他の戦闘機との世代の違いを見せつけた。パイロットはGとどうやって戦っているのか、思わず心配になる。

強烈な機動飛行を見せる航空自衛隊のF-35

世代の違いは見れば納得。ステルス性能は評価する方法を持ち合わせていないが、大柄な機体でありながら旋回半径が小さく目の前で空気が割れんばかりの爆音を浴びせかける。好きで見ている分にはたまらない「音」だが、一般的な乗り物と違ってサイレンサーなどあるわけもなく、現状では「音」の問題には理解を求め続ける努力以外方法はなさそうだ。「なんとか出来るものならなんとかしたい」空自に限らず、航空ファンもマニアもそう思っているに違いない。目的は違えど、「飛んでこそ」なのだ。

航空自衛隊のF-35のベイパーコーン(?)か、姿を消す新手のステルスか?

そして観客もメディアも注目する航空自衛隊のブルーインパルスの展示飛行が始まった。恒例の音楽が雰囲気を、期待を盛り上げる。だが、雨こそ降らないが、「美味しい高さ」にぽこぽこと雲が広がる。ここより上を飛ぶとなると、かなり高いところを飛ぶことになる。「雲め」。ブルーインパルスは隊列を組んで滑走路へと向かったが、5番機1機だけが天候調査で離陸した。前日の「キャンセル」が脳裏をよぎる。

「雲め」

雲の下を飛ぶ5番機は目視でクリアに確認できる。このまま飛んでほしいが、高度としてはどうか?はっきり見える事で生まれる期待と、5番機の天候調査という不安が入り乱れて、変な諦めが生まれ始めたその時だった。
アナウンスに続いて次々と離陸を始めた。この雲をどう避けて演技をするのか?

こ、これは・・・。雲め!

不安的中、雲の上を航過飛行。飛んでくれただけでもありがたいが、ブルーインパルスが手の届かない遠いところに行ってしまった様な変なガッカリ感は否めなかった。この雲さえなければ。雲め!
だが、これでは終わらないのがブルーインパルス!

なんと!雲の下を航過飛行!会場は一気に盛り上がった!

ブルーインパルスが雲の下で展示飛行を始めた。高くては写真もままならず、見ても見た感じがしないと、がっかりムードだっただけに、会場は一気に盛り上がった。雄叫びのような歓声も上がった。報道陣もまさかと思ったか、カメラを構え直して撮影を始めていた。
滑走路左手から右手へ抜けていく航過飛行もさまざまな体形で披露し続ける、そんな時だった。会場正面奥からスモークを吐きながら真上をローパスしていった!

半ば思い残すことはない、と思ったくらい、手が届きそうだった。

最初の航過飛行のため息がフライトリーダーに聞こえたのか(そんなわけはないが)、会場の期待に応えるところがブルーインパルス展示飛行の真骨頂、それもあって、会場に集まった航空ファンは、ブルーインパルスに手が届く、思わずハイタッチでもしたかの様な一体感を得たのではないだろうか。
「雲め!なかなかやるじゃないか。」
報道陣も満足して、撮影を終えて撤収していった。そういえば航空祭は各基地で行われているのに、各基地のことは描写されることは稀で、「●●航空祭でブルーインパルスが飛行」と報じられることがほとんどだから、ブルーインパルスの展示飛行が終われば、取材は終わり、ということなのだろう。そこにブルーインパルスの映像の強さ、存在感があることは疑いの余地はないが、開催している基地からすると、「うちの基地についても見てほしいなあ」と痛し痒しといったところに違いない。航空自衛隊という大きな枠組みだけでなく、基地の在り方について理解を求めることこそ、日々の活動に直結するからだ。
しかし、三沢基地航空祭の「ドヨメキ」は、この後だった。基地の見せ場はここからだった。

散水展示するCH-47J

ブルーインパルスの興奮が冷めやらない中、CH-47Jが展示を開始した。というか、ホバリングを始めた。観客はすでにすっかり満足している風で、あまり目を向けていない様な雰囲気の中、水を汲み観客の正面で数秒で数トンを散水するという力技の展示を見せた。まるで正気に戻れと水をかけられた様なものだっただろうか。ここからがCH-47J、そして三沢基地航空祭の見せ場だった。8の字旋回に続いた機動飛行は観客の想像、予想を超えていた。

この姿勢のまま急旋回を始めた。動画でないのが残念。

機首を急角度で下げたまま、機首の延長線上を支点にグルグル回り始めた。これはマコトか、会場は静まり返った。一回二回では終わらず観客から「マジか」「えー」っと言った、信じられないものを見た様な声が聞こえてきた。まるでチヌークのデスロール、とでもいえば良いだろうか。そもそも輸送任務として目にすることが多いだけに、これだけの機動ができることも驚きだったし、そうした操縦を習得しているパイロットの存在にも、驚いた。
ブルーインパルスの展示飛行をもって会場を後にした場合は次回、三沢のトリが出てくるまで見学してはどうだろう。

RQ-4も三沢に配備。百里で廃止の偵察航空隊も三沢で復活。
A-10の地上展示も。ガラガラヘビペイントがみたいところ。
これも”展示”?

三沢基地航空祭2023は雲に一喜一憂、トリに驚愕、満足しても最後まで見るべし、そんな1日だった。

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