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【登山道学勉強会】登山道に関する最新研究2023② #19

登山道に関する日本の最新研究を紹介 その2

日本の貴重な登山道に関する研究の一部をご紹介していきましょう。今回紹介するのは、最近各地で行われているボランティアなどによる協働型の登山道整備に係る研究で、「Evaluation of the Effectiveness of Trail Repair Works Based on Three-Dimensional Monitoring around Mount Kurodake, Daisetsuzan National Park, Japan」です。今回も、一部をかいつまんで紹介しますので、きちんと内容を知りたい方は原文を読んで下さい。

著者:Yusuke Kobayashi、Teiji Watanabe


大雪山国立公園黒岳周辺の三次元モニタリングに基づく登山道補修工事の評価

現在、各地で登山者など利用者を募集しての登山道の整備や補修が行われています。その手法がどれだけ効果的なのかといった、補修後の評価はほとんど行われていません。そこで、補修した箇所を6年間に渡ってモニリングが行われました。


モニリングの舞台

今回の舞台となるのは、北海道大雪山黒岳の近くの雲ノ平です。ここは火山性の地質の上に薄い有機土壌があり、また地下には凍土もあるというとてもセンシティブなエリアです。登山道の土壌が削られるという問題と、流された土砂が植物を埋めてしまうという問題も起こっています。そこで、流れた土砂をヤシ繊維でできた土嚢袋に入れて登山道の法面を保護したり、治山ダムのような土砂を溜める部分を作る、といった作業が数年に渡って行われていました。


どうやって調べるの?

では、何をどのように調べるのでしょうか?古くから、登山道を調べる手法として、その断面図から幅と最大深を計測するというやり方が行われてきましたが、雲ノ平でも以前よりこの方法で登山道のモニタリングが行われていました。断面図の計測の方法にはいろいろありますが、今回はいわゆるフォトグラメトリという手法が取られました。これは複数の写真の視差から3次元の形状を作り出すというものです(他にもLiDARやAIを使うといった方法もあります)。その3次元データから数値標高モデル(DEM)や断面図を抽出して比較する事で、補修前と補修後で登山道がどのように変化しているのかを知ることができます。


モニタリングの結果わかったこと

このヤシ繊維を使った補修によって登山道の法面が削れたり土砂が流されるのをある程度防げていることがわかりました。ただ、3年もすると土砂が溜まりきってしまい、そうすると土砂が流出してしまっていました。そのため、定期的に継続して補修してく必要もあることが分かりました。また、土壌の侵食速度は増えていることもわかり、ここ数年は加速度的に増えているようでした。土壌が侵食される要因にはいろいろあるため、その原因を突き止めるためにはこまめにモニタリングが必要ですし、それに応じて補修してく仕組みも必要です。とはいえ、人や予算に制限がある状況下では登山者などの利用者の協力が今後も必要不可欠です。また、その成果や効果というのも客観的に評価して広めていくことも大切です。



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