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【登山道学勉強会】持続可能な登山道モデルの構築に向けて #14

求められる持続可能な登山道

持続可能な登山道

第14回目となる登山道学勉強会です。今回は「持続可能な登山道」についてもう少し深掘りして考えて行きたいと思います。前回まで勾配シリーズとして4回に渡って登山道(トレイル)の勾配と持続可能性の関係を探ってきました。まだ確かなことは言えませんが、樹林帯では登山道の勾配から持続可能性を図ることができそうな雰囲気でしたが、高山帯においては勾配を絶対的な指標にはできなさそうということが分かってきました。

英語圏ではトレイルの勾配が持続可能性と関係があることが明らかにされているように「サステナブルトレイル(Sustainable Trails)」つまり「持続可能なトレイル」という考えや仕組みが普及しています。日本でも日本の登山道に合わせた「持続可能な登山道」を作るための指標や仕組みを作ることはできないでしょうか?

持続可能とは

そもそも「持続可能」とは何を指すのでしょうか?いろいろな考え方や表現の仕方があるとは思いますが、ここではシンプルに”持続可能性≒ランニングコスト(維持管理コスト)が少ない”として考えていきたいと思います。ここで言うコストはお金以外にも手間や労力も含みます。登山道の維持管理に係るコストつまりランニングコストが少ないにこしたことはありません。

例えば登山道を作る過程について言えば、「計画」→「設計」→「造成」→「維持・管理」といった流れになりす。「計画」「設計」「造成」はイニシャルコスト「維持・管理」ランニングコストにあたります。イニシャルコストとランニングコストの関係を考えると基本的には三角形と逆三角形の構図が成り立ちます。最初の計画や設計をケチれば、あとから維持管理のコストが高くつきます。逆に、最初にきちんと将来のことを考えて計画や設計をすれば、維持管理のコストを安く抑えることができます。

日本の登山道は自然派生的に生まれたものが多く、持続可能性を考えて作られていることは少ないです。例えば、泥炭地層のところに登山道を作って、植生が失われてから木道を設置する、なんていうのは逆三角形の好例(悪い例)です。

登山道の問題

登山道の問題として識者の方から様々なことが取り上げられています、例えば登山道を規定する法的根拠がない(登山道法の必要性※1)、本来行政が担うべき維持管理を山小屋や山岳会が負担している(社会インフラ問題※2)、入山料の問題(利用者負担の問題※3)、日本には自然保護に対する世論つまり予算が少ない(世論形成問題※2)、などなどいろいろあります。

これらの問題にさらに拍車をかけているのがランニングコストの負担ではないでしょうか。現在の日本の登山道の多くはイニシャルコストが低かった代わりにランニングコスト、つまり登山道荒廃や自然再生に多くのリソースを割く結果になっています。

例えばカナダのトレイルも当初は逆三角形だったようですが、これを三角形(=持続可能なトレイル)に変える取り組みが行われました(※4)。コロナうんぬんでアウトドアが注目されるのなか、日本でも今後はこのような取り組みに変えていく必要があるのではないでしょうか。

(※1)登山道法構想の背景(森孝順)
(※2)山と僕たちをめぐる話(伊藤二朗)
(※3)”入山料を問う”にあたり(寺崎竜雄)
(※4)Taking Trails From Good to Great(Parks Canada)


持続可能な登山道モデル(案)

「持続可能な登山道」を実現するためには何が必要になるでしょうか?そのためのモデルを考えてみました。持続可能な登山道にはいろいろな要素が必要になると思います。それを大きく3つの階層に分けてみました。まず一つに狭義として「持続可能な登山道デザイン」、次に広義として「持続可能な登山道システム」、最後に本当の意味での「持続可能な登山道モデル」です。それぞれのレベルで持続可能性を実現しないと、本当に持続可能性な登山道は実現できないのではと思います。

その1 (狭義) 持続可能な登山道デザイン

これは登山道のルートや勾配をどのように設計(デザイン)して、どのように造成するのかといった、物理的・工学的なものです。簡単に言うと、ランニングコストの低い登山道を作るためのメソッドのことです。前回までやっていた勾配に関する内容もここに含まれます。

その2(広義) 持続可能な登山道システム

持続可能な登山道デザインも含めて、それをどのように実行して維持管理していくための仕組みやシステムを指します。例えば、メンテナンスは誰がいつやるのか、作業の履歴はどうやって記録するのかといったものです。つまり、ランニングコストの低い登山道を維持していく仕組みを指します。

その3(真の) 持続可能な登山道モデル

持続可能な登山道を考える上ではおそらくここが一番重要であり、今一番課題となっている部分だと思います。それは、持続可能な登山道システムを実行するために必要となるお金や人、組織などの土台となる部分をどうやって作るのかという問題です。お金をどうやって工面するのか?自治体の予算なのか、助成金なのか、それおも入山料を導入するのか。それらを誰が管理するのか。行政がやるのか、それとも地元の山岳会なのか?それを実現する人材や、技術や知識を次世代に引き継ぐことも必要となります。


求められるのは総合力

持続可能な登山道モデルを実現するには様々要素が必要です。持続可能な登山道デザインを作り上げるにはまだまだ調査や研究、実験や検証が必要になります。仕組みやシステムを作るには手続きや手法のマニュアル化も必要となります。また、GISやドローン、フォトグラメトリなどの新しい技術を導入することも考えていくべきでしょう。お金や人材の確保はさらに複雑で、入山料の導入や山岳会などの関連団体の高齢化など一筋縄ではいきません。登山道法を制定するにはロビー活動も必要です。

これらは特定の人物や団体だけで実現することはできません。求められるのは総合力です。それぞれがやれることを積み上げていくことが必要です。そんな状況の中、この登山道学研究会では主に「持続可能な登山道デザイン」の実現を目指しているわけですね。


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