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登山道の”荒廃”に学ぶ、登山道荒廃メカニズム

○○に学ぶ、登山道荒廃メカニズム

ここまで「○○に学ぶ、登山道荒廃メカニズム」シリーズを続けてきました。ところで、そもそも登山道の”荒廃”とはいったいどのような現象を指すのでしょうか?

これまでの登山道荒廃メカニズムシリーズ
丹沢山地に学ぶ編
屋久島に学ぶ編
尾瀬至仏山に学ぶ編
飯豊連峰登山道保全講習会に学ぶ編
巻機山に学ぶ編
白山に学ぶ編


これまでの”荒廃”

丹沢での研究「登山道施設荒廃への影響分析」(塩野,2007)では登山道の荒廃の要因を、土壌侵食の「幅員」と「侵食深」状況を調べることから始めていたため、このシリーズではまず初めに次のようにしていました。

登山道の荒廃 =「幅員(横方向)」と「侵食深(下方向)」の土壌の侵食の程度

そして白山の事例から侵食の形態を、自然の働きによる「掘り込み・崩壊・ノッチ・その他」と、人の影響による「踏み分け道・拡大・踏み跡」と分類しました。

登山道の荒廃 =
 自然の働きによる土壌侵食「掘り込み・崩壊・ノッチ・その他」
 人の影響による土壌侵食「踏み分け道・拡大・踏み跡」
 土壌侵食の程度「幅員」と「侵食深」

これらはすべて”土壌の侵食”を分類して現しているのですが、これらの”土壌侵食”だけが登山道の”荒廃”ではないはずです。そこで今回は『自然公園シリーズ1 登山道の保全と管理』(渡辺悌二編著、古今書院)を参考にしながら、”荒廃”という言葉の定義をもうちょっと明確にしてみたいと思います。


第3章 登山道荒廃の現状とその原因

まずは「登山道荒廃の現状とその原因」(渡辺、2008)を参考します。この中で、

登山道の荒廃には、土壌侵食、複線化、拡幅化、植生破壊が含まれるが、
(中略)
ここでは下方への表層物質の消失を土壌侵食と呼び、側方への登山道の拡大を拡幅と呼ぶことにする。
(中略)
複線化は二本以上の登山道が平行に出現する状態をさす。以下に述べるように、登山道の荒廃は、土壌浸食、複線化、拡幅化、植生破壊のいずれか、あるいはこれらの組み合わせによって進行してゆく。
(以下略)

と出てきます。

渡辺の言う「土壌侵食」と「拡幅化」は、塩野の「幅員」と「侵食深」とほぼ同じと考えて良いとします。そこに「複線化」と「植生破壊」が加わりますが、「複線化」は登山道に並行して起こる「植生破壊」とも言えそうです。そこで、次のようにまとめてみます。

登山道の荒廃 = 「土壌侵食(下方・側方)」と「植生破壊(複線化を含む)」


第5章 広域における登山道の現況調査手法

しかし、昨今の登山道事情を見ていると他にも見過ごせない要素があります。第5章の「広域における登山道の現況調査手法:デジタルカメラを用いた調査手法」(山口、庄司)では冒頭で次のようにでてきます。

日本の山岳地域において登山道の管理が大きな問題として指摘されている。これらの問題は、大きく二つに整理することができる。一つは登山道の崩落や複線化にともなう植生の破壊、利用者にとっての危険箇所の存在といった物理的な登山道の荒廃である。もう一つは、利用者の求める水準と乖離した(ときには過小な)施設の存在や機能していない施設構造物の放置といった、登山道の付帯施設に関する問題である。

施設構造物とは例えば階段や木道のことで、それ以外に道標や看板を含めて付帯施設としています。実際に、壊れたまま放置されたり歩き辛くなった階段や木道が各地で問題となっています。また、道標に関しても、壊れて分かりづらくなっていたり、様々な個人や団体がそれぞれ違った道標を設置することによって混乱を招いている場合もあります(宮島, 橋本、2018)。

これらの”付帯施設の問題”は管理上の問題と言えますが、これらも登山道の”荒廃”の一つとして位置付けて良いのではないでしょうか。この研究は登山道の状況を調査する手法に関するものですが、その調査項目は次のようなものです。

登山道の侵食、崩壊、複線化、泥濘、笹やハイマツ被りの箇所
登山道に設置されたロープ、階段工、柵、木道
道標、ペンキおよび自然解説板
山頂や展望台休憩場
山小屋や野営指定地、トイレなどの状況

登山道の「侵食」「崩壊」「複線化」は先に揚げた項目と同等考えて良いと思います。”付帯施設の問題”としては「階段工」「柵」「木道」「道標」「ペンキ」「自然解説板」が調査項目として挙げられていいます。そこで、次のようにします。

登山道の荒廃 = 
①登山道の問題
 →「土壌侵食(下方、側方)」と「植生破壊(複線化を含む)」
②付帯施設の問題(危険、歩きにくい、分かりにくい等)
 →「階段工、柵、木道、道標の不備」


荒廃の予兆

また、この調査項目には更に注目すべきポイントがあります。それは「泥濘」「笹やハイマツ被り」です。

日本ではあまり問題視されていないように感じますが、アメリカのトレイルメンテナンスにおいては、泥濘化している時点で”問題のあるトレイル”とされています。地面が泥濘むことによって、強度が弱まったり、それを避けるために複線化が起きることが分かっているからです。

また、管理が行き届いていなかったり人手不足による、「笹やハイマツ被り」は登山道が不明瞭になり道迷いを引き起こす原因になります。そこから廃道となってしまった登山道も多くあります(個人的には適度なハイマツ漕ぎは日本の特有の登山文化として良い物だと思っていますが・・・)。

ということでこれらは登山道の荒廃を招く予兆として、付け加えてみたいと思います。

登山道の荒廃 = 
 ①登山道の問題
  →「土壌侵食(下方、側方)」と「植生破壊(複線化を含む)」
 ②付帯施設の問題(危険、歩きにくい、分かりにくい等)
  →「階段工、柵、木道、道標の不備」
 ③荒廃の予兆
  →「泥濘」と「笹ハイマツ被り」


参考




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