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飯豊連峰登山道保全講習会に学ぶ、登山道荒廃メカニズム

飯豊連峰登山道保全講習会

2015年に開催された(らしい)飯豊連峰登山道保全講習会の中から登山道荒廃のメカニズムを学んでいきたいと思います。この講習会では4名の講師の方々の講義がありました。

①「壊れていく山はほうって放っておいて良いか」
山形大学農学部 菊池俊一さん
②「飯豊連峰・朝日連峰における登山道の保全修復方法」
(株)ニュージェニック 川端郁子さん
③「昆虫からみた保全作業」
小国山岳会 草刈広一さん
④「飯豊朝日連峰における保全事業の経緯と特徴」
飯豊朝日を愛する会 井上邦彦さん

登山道荒廃要因モデル

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丹沢山地の登山道荒廃に関する研究で塩野さんは、過去の丹沢山地の研究から登山道荒廃の要因を「人為要因」と「環境要因」に分けられていました。これを仮に「塩野モデル」と呼びます。

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個人的にはこの「環境要因」から「気象要因」を取り出して「人為・環境・気象要因」の3つに分けると理解しやすいのでは、と考えています。これを仮に「塩野モデル+」と命名。

登山道荒廃の素因と誘因

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「壊れていく山はほうって放っておいて良いか」の中で菊池さんは別の切り口で荒廃要因を紹介されています。菊池さんは要因を「素因(factors)」と「誘因(triggers)」の二つに分けて説明せれています。これを仮に「菊池モデル」と呼ぶことにします。切り方が異なるだけで、塩野モデルと要素はほぼ同じと考えて良いでしょう。そして「誘因」の最大要因を「水、低温、人」の3つとされています。

これを踏まえた上で、荒廃を防ぐための作業としての到達点を「緑化」と仰っています。「緑化」とはつまり地面が植物(草や木や根っこ)で覆われていることで、「植生被覆」とも言われています。

緑化

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登山道の荒廃とは「素因」を「誘因」が”侵食”するわけですが、「緑化」がそれを防いでくれます。例えば、登山道を侵食する最も大きな存在は「水」です。その水も「緑化」で効果的に防ぐことができます。講義では太田さんの研究内容(おそらく、太田猛彦「森林と侵食 砂防学講座第2巻土砂の生成・水の流出と森林に影響」)が紹介されています。ここで、「緑化(植生被覆)」によってどのようの効果があるのか具体的に見てみます。

植生被覆があると表面侵食は?(太田,1993)
①雨滴侵食を防ぐ。
②孔隙の多い土壌を発達させるため透水性が良好に保たれ、表面流が発生しない。
③降雨の遮断蒸発により地表に達する雨水を減少させる。
④まれに発生する表面流による掃流作用を林床が緩和する。
⑤樹根がリル発達を防ぐ。
⑥冬季の凍結融解を防ぎ、表土の受食性の増大を防ぐ。

①雨滴侵食を防ぐ
単純に植生があると雨粒が地面に落ちる衝撃を防ぐことができます。また、登山道が侵食されてオーバーハングになったところでは、そこから滴が落ちてさらに侵食が進むということもあります。

透水性を保つ→表面流が発生しない
雨滴侵食によって土壌の目が詰まるを防ぐというのもあると思いますが、植生の根が土壌の間に空間を作ってくれるため水が浸透しやすくなります。浸透能が高いほど表面流が起きずらくなります。

③雨水を減少させる
植生があると雨水が植生に付きます。その水は下に落ちるものもありますが、落ちずに蒸発してしまうものも出てきます。結果、雨水が減少することになります。

④掃流作用を緩和する
土壌の浸透能を超えて水が溢れ、地面を流れても障害物があるため侵食されずらくなります。

⑤リル発達を防ぐ
元の文献を読んでいないのでメカニズムはよくわかりませんが、植物の根がリルを防いでくれるそうです(根が土壌を固定させる or 水が根を伝って流れることによって侵食されなくなる、みたいな感じでしょか?)。

⑥凍結融解を防ぐ
凍結融解(凍上融解とほぼ同じと考えていいと思います)で分かりやすいのが霜柱です。霜柱は地表面の土を持ち上げてしまいます。寒い時期、浸食が進んだ登山道脇に注目してみましょう。霜柱で持ち上げられた土がぼろぼろと落ちていることが分かります。植生があることで霜柱を防いでくれます。

登山道修復の考え方

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(株)ニュージェニックの川端さんからは具体的な登山道修復の手法の紹介がされています。川端さんは登山道修復の方法を大きく3つに分けて説明されています。それが「洗掘を防ぐ」「踏圧を防ぐ」「植生の回復」です。「誘引」の最大要因は「水、低温、人」ですが、水対策が「洗掘を防ぐ」、人対策が「踏圧を防ぐ」、それにプラスアルファで「植生の回復」ということです。

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洗掘を防ぐ
洗掘を防ぐためにはまず水の流れる勢いを弱めてやることが有効的です。そのための手法は大きく二つあります。一つは登山道を流れる水を分散させてやること、つまり登山道外に排水することです。様々な方法がありますが、なにかしらの導流工を作ることが多いです。
二つ目は、土留などをつくり流れを一旦止めてやることです。さらに土留には土砂を貯める役割も果たしくれる場合があります。これにも様々な方法があり、説明は省きますが「ステップアンドプール」というのもその一つでしょう。
これらの排水と土留は単独で使うこともありますが、複合的に使われる場合もあります。

踏圧を防ぐ
登山道が不明瞭だったり滑りやすかったりすると複線化の要因になるので、まず歩く場所を”固定”させます。”固定”とはロープなどで歩く場所を分かりやすく明示して誘導したり、歩行路が崩れたりしないように保護して、歩きやすくすることです。
また、登山道で段差が大きすぎると、人は自然と歩きやすい方へ進んでしまいます。それは大概、登山道外の植生の上だったりします。段差を解消して歩きやすいステップをつけてあげることで、それが解消されます。適切なステップの高さは人によって異なりますが、概ね20cm以下ではないでしょうか。

植生の回復
植生が回復するためにはまず土壌が安定すること。そして、そもそも種子がないと芽はでませんので、種子をそこに留めることが必要です。また、講義の中では触れられていませんが、巻機山の例を見ていると保水も重要なようです。
土壌を安定させる方法として「緑化ネット」(ジュートネットとも。ジュート=黄麻で作られたネット)で裸地を覆うという方法が効果的であることがわかっています。また緑化ネットは保水性があるというメリットもあります。
斜面の裸地では土留をつくって段々畑のようにして、植生基盤をつくってあげることも有効です。
また、「播種」つまりタネを人為的に撒くことも有効ではあります。近くで採取するか、他から持ってくる必要があり巻機山で行われ実績があります。ただし、播種に関しては大雪山のように自然環境保全や生物多様性の観点から推奨されていない地域もあります。

参考

2015 年飯豊連峰登山道保全講習会

LINK

環境省 磐梯朝日国立公園HP

飯豊朝日連峰の登山者情報


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