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【登山道学勉強会】登山道に関する最新研究2023① #18

登山道に関する日本の最新研究を紹介

2023年も残りあと2ヶ月となりました。今年は珍しく登山道に関する研究が発表されましたので、そんな貴重な研究の一部をご紹介していきましょう。今回、紹介するのは白山で行われたササ刈りに関する実験です。

著者:赤穗雄磨、乾靖、敷田麻実


白山国立公園北部の山麓・樹林帯における登山道のササ刈りによる維持管理手法の実践

日本で登山道の研究というと、高山帯や湿原など脆弱な環境での研究が多く、登山道の問題でよく取り上げるのはそういったセンシティブな場所の荒廃や破壊です。ですが、日本の登山道の問題としてはもう一つ挙げられるのが、管理が行き届かずヤブに埋もれてしまったりと、その道が廃道となってしまうことです。

人手や予算が減っていく中で、効率的に登山道を維持していくためにはどうしたらよいのでしょうか?この実験ではその方法の一つが提案されています。内容の一部をかいつまんでご紹介しますので、ちゃんと内容を知りたい方は原文を読んで下さい。


ササの特性を考慮したササ刈り手法の仮説

実験と舞台となったのは白山北部の登山道です。白山は百名山でもあり人気の山ですが、北部の登山道はそのほとんどが樹林帯やササ帯。距離も長く利用者は比較的少ないため利用者のアンダーユースや予算が少ないといったこともあって、登山道の荒廃や消失が懸念されていました。登山道の管理はNPO法人環白山保護利用管理協会に委託されているのですが、驚くべきことに約60kmある白山北部の登山道はたった一名で管理しているそうです。なんとか維持管理の手間を削減することはできないでしょうか?

樹林ササ林床型の特性

まずはササの特性について押さえておきましょう。登山道に関していうと土壌の侵食がよく問題として取り上げられますが、ササはその根っこのおかげで、雨や流水による侵食は起きづらいことが分かっています。また、ササが障壁となるので登山道を踏み外すということも起こりません。

しかし、ササは放っておくと高さ2.7mくらいまで成長して登山道を覆ってしまいます。こうなると不快なだけでなく、登山道に陽の光が当たらないので他の植物も育つことが出来ませんし、ぬかるみも出来やすく、登山道が水路化しやすくなります。そうすると、ササがない登山道の部分は余計に侵食されやすくなるので下方侵食が進んでしまいます。


実証実験の結果

そこで考え出されたのが登山道の両脇に在来の他の植物を繁茂させるという方法です。そのために、登山道をよりも広い範囲(約1.5m幅)のササを刈って在来植物を成長を促します。春にササを刈ってもまた伸びてくるので、秋には伸びたササも刈ります。隠れた岩などもあり作業にはそれなりの練度が必要となります。こういった作業を継続した結果、下草となる在来の植物が成長した場所ではササ刈りをしなくても大丈夫な状態になりました。

登山道をデザインしていく

このようにササ刈りの方法によっては将来的に維持管理にかかるコストを削減することもできるということが示唆されました。ただし、今回の実験でも在来の植物を繁茂させることができた場所と、できなかった場所がありました。地域や場所などその環境によって適用できない場合もあるでしょう。また、短期的には作業の手間が増えるし、長い時間も必要とするため費用や人材の確保も必要となります。

また、日本では自然には極力手を付けないことを是とする風潮が根強いため、このようなササ刈り手法を実践する際には、関係者間である程度の合意を得ておくことも必要です。しかし、長い目で見た時にはこのように登山道をデザインするという視点も大事であるということを教えてくれる事例だったのではないでしょうか。



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