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るつぼ(舞台用脚本)~学生時代に書いた脚本の供養~

<まえがき>
以下に掲載しているのは、それはそれは昔、演劇部員だった私が書いた舞台用脚本です。
「Googleドライブのストレージがそろそろ満杯になります」という通知が来て、ファイルを整理している中で見つけました。久しぶりに読んでみたけど、拙いながらにまぁまぁ面白いんじゃない?と思えたからここに晒して供養します。(部内コンペで落ちているので、結局公演されずじまいでした。残念!)
執筆時はちょうど大学の授業で「人格障害」について学んでいて、「適切なケアのために分類は必要でしょうけど、人の性格に”障害”とか名づけるの個人的にマジ気に食わねぇっすね。」と思って作りました。直接的にそうした表現は出ていませんが、ちょっとだけ意識してキャラクター作成などしています。当時から根本的な趣味嗜好かわってなくて、個人的にちょっとだけウケました笑
長いですが、読んでくれたらうれしいです!


男四人/女四人/どちらでも二人 計十人
 
・田中優太 20
とにかくコツコツ真面目に波風立てずに優しく生きてきた。不器用。
まじめ系クズ。元大学生現大学生。しかし最近はやや引きこもりがち。林に一目ぼれ
・伊藤絵美 24
キャリアウーマン。デキる女オーラ、いい人オーラが出ている。
ストレスを溜め込みやすい性格。元OL現OL
・林素子 21
スクールカースト最下層。無趣味で無欲。流されて生きている。
元販売員現家事手伝い。戸崎の熱狂的なファン
・吉田里奈18
メンバー最年少。同性には距離をおかれがちなタイプ。元から情緒不安定。
元大学生現休学中。最近は顔をみせなくていいためネットにはまっている。
・汲川正治 25
現実主義。損得勘定や合理性を重視している。
優しさ等は弱い人間でなければあまり必要がないと思っている。原の高校の先輩
元ホテルマン現サラリーマン
戸崎恭介 24
飄々としすぎている。不安になると仕事に逃げる。友人や彼女は多い。
元バンドマン現バンドマン。あまり売れていない。
・原ちはる 24
地方のテレビ局で働くスタッフ。一応主人公
 
・アナウンサー
・博士
・原の彼氏
 

 
下手照明点灯。
アナウンサーを除いた舞台上にいる六人は、皆顔が乾き醜くなっている。
 
戸崎  みんな、今日は俺たちの歌を聴いてくれて…
六人  ありがとう!!!
伊藤   歌うのって、気持ちいいものね
田中   まだまだ、これからですよ!
吉田   えぇ?もう疲れた…
戸崎   残念ながら、俺たちが用意した曲はここまでだ…
田中   えっ!?
アナウンサー(以下アナ) えー…ありがとうございました。それでは次のコーナーに―
田中   次の曲!!作詞、オレ。作曲―…(戸崎に向かって)適当に頼みます。
戸崎   めちゃくちゃだな
田中   皆、ついてきてくださいよ!最後の曲…『かくかくしかじか』
    オレ達が今、どうしてニュース番組で歌っているのか…
    その理由を歌にしたんだ。聴いてくれ!!
 
戸崎がギターを弾き始める。(エアギターでかまわない)
BGMがC.I。入るとすぐにF.Oし始める。それと同時に、原の笑い声が響き渡る。
下手照明が消える。
BGMが消えきると、舞台上手点灯。
一台だけ台が置かれており、その上にはアナと博士が座っている。
舞台上は同じく番組の収録現場である。
 
アナ  続きましては、昨今二十歳前後の若者を中心として流行りはじめた奇病「カラカラ病」についての特集です。今回は専門家の江良井博士にお越しいただいています。江良井博士、カラカラ病とは一体どのような病なのでしょうか?
博士  簡単に言うと、皮膚病ですね。顔の表皮が乾燥するところから始まり、全身に広がっていきます。悪化すると乾燥した部位が動かせなくなり、最悪の場合心臓が乾き死に至ります
アナ  恐ろしい病気ですね…。
博士  そしてこの病気の最大の特徴は、肌の乾燥が心の乾燥に比例して現れる、という事です。
アナ  心の乾燥…ですか?
博士  はい、そうです。満たされない、という気持ちが膨らみ心が潤いを失くしすぎると、それが肌にもあらわれてくる…そんな摩訶不思議な病気が「カラカラ病」なのです。
アナ  予防法や治療法はありますか?
博士  おおらかな心を持つことが一番ですね。「満たされない」という基準は自らが決めるものですから。
アナ  なるほど…若年層の患者が多い事も納得できます。
博士  しかし、葛藤するのは若い人の特権です。一概に悪い事だとも言えないと思いますよ。
アナ  江良井博士、本日は貴重なお話どうもありがとうございました!
   この後、ニュース番組を挟んだ後もカラカラ病特集は続きます!
   カラカラ病に罹患してしまった六人の若者たちに直接スタジオに来ていただきますよ。みなさん、お楽しみにー!!
アナ・博士 バイバーイ!
 
消灯。
下手側の電気が付く。ここは番組控室である。
サングラスとマスクをした不審者のような格好で田中が控室の中へと入ってくる。
田中はそわそわしている。まだ誰もいない事にガッカリとしつつ、適当な椅子へと座る。
少しの間をあけて、そこに吉田が入ってくる。可愛らしい風貌をしているが、吉田もサングラスとマスクで顔を隠している。
田中、サングラスとマスクを外して挨拶をする。
 
田中  おはようございます!
 
吉田、田中を見て驚いた表情。
 
田中   俺の近くでカラカラ病にかかってる人誰もいなくて…お仲間に会えて本当に嬉しいです!
吉田   …やだ、ブサイク!
田中   はぁ!?
吉田   顔かくしなよ、恥ずかしくないの!!
田中    恥ずかしいって――だって、あなただって
 
田中、吉田のサングラスをとる。吉田の乾いた顔が現れる。
 
吉田  何す――
田中  ほら、あなただって仲間じゃないか!
 
吉田、急に泣き始める。うろたえる田中。
おずおずと林が入ってくる。林はパーカーを深く被り顔を隠している。
しばらく二人に気が付かれない林。存在感が薄い。
 
林   どうしたんですか?
吉田・田中 うわぁ!?
林   どうも、本日はよろしくおねがいします。
 
林、パーカーを下し一礼する。
田中は林に一目ぼれをする。
 
SE:心を射止められた音
 
田中  か、可愛い…
吉田  マスクくらいしなよね、女の子でしょ
林   ごめんなさい
田中  あの、はじめまして!お名前は?何歳ですか?何してる人ですか?あと…ご趣味は!?
林  林です。二十歳です。家事手伝いという体のいいニートです。睡眠とおっかけです。
田中  林さんっていうんだ…
 
汲川、伊藤が入ってくる。二人とも顔はマスクで隠している。汲川は左手が既に乾いていて使えない。
 
汲川 どうも、よろしくお願いします。
伊藤  始めまして、伊藤です。今日はよろしくお願いしますね。
田中  俺田中です、よろしくお願いします!同じ立場の人に会えてうれしいです!!
伊藤  喜んでもらえてよかった。テレビなんて始めてだから緊張しちゃって。
田中  普通初めてですよ。普段何されてるんですか
伊藤  私は南洋銀行に勤めています。
田中  わ、すごい!
伊藤  いえいえそんな――
 
伊藤、泣いている吉岡に気が付く。
 
伊藤   ちょっとあなた、どうしたの!?
吉田  その子にブスって言われました
田中  向こうが言ったんですよ!俺はブスとは言ってません
吉田  言ったようなものでしょ
伊藤   落ち着いて。カラカラ病なんかにかかっちゃって、きっと気持ちが荒れてるのよ。二人ともきれいな顔よ。
吉田   …何それ
 
原    みなさん、お待たせしましたー!!
 
スタッフの札をつけた原が入ってくる。
 
原    みなさん、番組「日本不思議発見」にお越しいただきありがとうございます。スタッフの原ですよろしくお願いします
伊藤   どうも、よろしくお願いします。
汲川   …原?もしかして、高校の時の部活の後輩の彼女の友達の…
原    はい、原ちはるです。お久しぶりです、お元気そうで何よりです!
汲川   イヤミか
原    それでは出席を確認しますねー、田中さん、伊藤さん、吉田さん、林さん、先輩、戸崎さん…
 
一人一人返事をしていく。しかし、戸崎はまだ来ていない。
 
原    戸崎さんは遅刻のようですね…。
林    戸崎さん…!
原    時間ですので、説明してしまいましょう。
皆様には番組内でインタビューに答えていただき、この病の悲惨さを伝えていただきます。進行はスタッフに任せて、皆様はただ聞かれたことに答えていればよいのです。
今回の番組を通し、カラカラ病治療のための寄付も募る流れとなっておりますので、積極的なご協力をお願いします。
伊藤   もちろんです
原    では、マスクやサングラスを回収させていただきます。
吉田   え、なんでですか
原    本番中は顔をみてお話ししたいので…。モザイク処理はかけますので、ご安心くださいね。
 
原、一人一人のマスクをあずかる。
その途中で、戸崎が現れる。戸崎は何も顔を隠していない
林は戸崎の姿をみて感動している。
 
戸崎  おつかれーっす。
原   遅刻ですよ
 
林   あの!!
 
林、戸崎にむけて手を差し出す
 
林   大ファンなんです、どうか握手してください!!
戸崎   どうも。
  
戸崎、林の手を軽く握る。面白くない田中
 
田中   あなた、有名人なんですか?
林    知らないんですか!?インディーズバンド「空」のボーカルで、私の中では超ド級の有名人ですよ!戸崎さんもカラカラ病だから、今日会えるかなって…あぁ、来てよかった!大好きです戸崎さん!!
戸崎   今日何したらいいの?
原    それは――
吉田   カワイソーなお話をしてお茶の間の同情をひけばいいのよ。乞食みたいに同情してくれー金をくれーってやればいいの
原    そういう事じゃありませんよ
吉田   そういう事でしょ!?わかってるんだから!!
汲川   じゃあ出なければいいだろ…
吉田   えっ
汲川   金貰ってる以上文句言うなよ。
原    庇っていただき助かります。
伊藤   吉田さん、気持ちはわかるわよ。でも落ち着いて…ね?
原    子どもの相手は疲れますね
 
吉田、原に近寄る。
 
吉田   なんなのよあんた
伊藤   吉田さん、落ち着いて
 
戸崎、原の背後にまわる。
 
戸崎   でもまぁ…感じ悪いのは確かだわな
吉田   そうよね!
 
戸崎と吉田で原を追い詰める形になる。
 
田中   ちょっと、二人ともやめてください!何やってるんですか!!
原    あっ
 
追い詰められる中で、原の抱えていた資料が落ちてしまう
その中の一枚を林が拾い、読み上げる。
 
林   企画・カラカラ病特集。提案者:原。鬱憤がたまる今日この頃…自分よりも可哀そうな奴らを嗤い見下し楽しみたい!日々のストレスを解消したい!!そんな需要に応えます。チャリティーぶっておけば倫理的にも問題なし!人生の落伍者をみんなで楽しく嘲笑おう!! 企画の詳細は次ページから…。
 
間。
 
原    …えへっ?
林以外全員 てめえええええええええええええええ
 
五人が原に掴みかかる。林は一人オロオロとしている。
暗転
SE:頭が強く地面に打ち付けられる音
 
上手側の照明がつく。そこには、休憩中のアナと博士がいる。
 
アナ   おいしい!奥さんの手作りですか?
博士   いや、愛人十八号だ。
アナ    こんなに料理上手なのに十八号なんですね。博士ったらゲスー
博士    はっはっは。
アナ    しかし、番組の後半楽しみですね!博士以上のゲスがきっと見れますよ!
博士    まさか六人も協力してくれるとはねぇ…世の中にはバカが沢山いるもんだ!
アナ    さっきの博士のコメント笑えましたね。《葛藤するのは若い人の特権です。一概に悪い事だとも言えないと思いますよ。》って!マジメか!
博士    ファンを増やしとかないとね。特に若い子の
アナ    あ、そういえばうちの原ちゃん狙ってるんでしたっけ?
博士    知ってるなら呼んどいてくれよ。
アナ    ザンネン。彼女は罹患者のお相手で忙しいんです
博士    バカの相手は大変そうだなぁ…。
アナ    変な人や狂暴な人なんでしょーね、怖い
博士    勢いあまって、原ちゃん殺されちゃったりして
アナ    まっさかー
 
アナ、博士、笑いあう。上手照明消灯。
 
下手照明点灯。そこには、倒れて動かなくなった原がいる。
汲川が原の手首を触っている。
 
汲川   脈、ないぞ。
 
間。
 
吉田   …これ、誰のせい?
 
空気が凍りつく。汲川が林を指さす。
 
汲川   彼女のせいだ
林    え…私?
伊藤   何言ってるの?彼女見てただけじゃない
汲川   とめなかったんだから共犯さ。あんたも人殺しだ
林    私が…人殺し…
汲川   そうだ、だから警察に出頭しなくちゃいけない、わかるな?
林    (涙ぐみながら)…はい…
 
伊藤が林と汲川の間に割り込む。
 
伊藤   貴方、恥を知りなさいよ、恥を!林さん、あなたは何も悪くないのよ、落ち着いて。
汲川   上手くいきそうだったのに
伊藤   私も原因の一端を担っていますから、今すぐにでも自首します。
事故みたいなものじゃないですか、きっとわかってくれますよ。
吉田   じゃあ、あなた一人のせいということで、お願いします。
伊藤   えっ
吉田   あたし達は関係ないんで、一人で償ってください。
伊藤   それは…
吉田   いいじゃないですか!だってわかってくれるんでしょ!?
 
吉田、話しながらだんだん泣きそうになっていく。
 
伊藤   吉田さん。落ち着いて…
吉田   落ち着け落ち着けうるさい!!…そもそもなんであなたみたいなのがカラカラ病にかかってんの?マスクもしないで馬鹿じゃないの!?
伊藤   なんでっていわれても…
吉田   もうやだ・・・おうち帰る・・・
 
吉田泣き始める。戸崎が吉田に近づき、その頭をなでると吉田が激怒する。
 
吉田   触んないでよ!同情するなら警察行け!!あんたも気持ち悪いのよ!!!
 
気が付くと吉田の背後に林が立っている。
林がピコピコハンマーで吉田の頭を強く叩く。すると吉田が悶絶する。
 
戸崎   ・・・何してんの?
林    戸崎さんの事悪く言うなんて許せません。戸崎さんが警察に行くくらいだったら、私が行きます。
汲川   …きめぇ…。
田中   何もしてない林さんが自首するなんておかしいですよ!戸崎さんと吉田さんがやり始めたんだから、責任を負うべきは戸崎さんですよ!戸崎さんが警察に行けばいいんですよ!!
戸崎   あー、そうしようかな
田中   ほら戸崎さんもこういって・・・
田中・伊藤・及川・林  え?
戸崎   仕事しすぎで体調崩しちゃったようなもんだし。刑務所に入れば嫌でも休めるだろうし…
林    だめです!!
戸崎   はい?
林    戸崎さんが仕事してくれないと・・・私、困ります。私、戸崎さんだけが生きがいなんです!戸崎さん、仕事休むだなんて言わないでください!!!
戸崎   いや、あのさ…。
林    カラカラ病になる前だっておうちと職場の往復で、私、戸崎さんの歌が無いとほんとに困るんです、だから・・・
戸崎   あのさ、何でそんなんでヘラヘラしてられるの?
林    えっ
戸崎   そんなつまんない生活、恥ずかしくないの?
伊藤   何言ってるのよ
戸崎   俺、質問してるだけよ。ねぇ林さん、それで楽しいの?
田中   謝ってくださ――
戸崎   なんかしてないといたたまれないんだよ、俺。だからあんたみたいな人すごく不思議っていうか――
田中   だから謝ってくださ――
戸崎   バンドとかだって、やりたくてやってるのか最近はよくわかんなくなってきて、何かをやらなくちゃいけないからやってる感じするっていうか――――
田中   林さん、こんなヤツの言葉で傷つく事ないですからね!?
林    私、もっと聞いていたいです。
 
田中、ショックを受ける。
以降、田中、話しながらだんだん泣きそうになっていく。
 
戸崎   刑務所の中にはいる…それもいいと思ったけど、でもやっぱなんか違うのかな。俺は――
田中   結局自首するんですか、しないんですか!
戸崎   しない。
田中   じゃあどうするんですか!うだうだしてたら誰かきちゃうかもしれないんですよ!!
伊藤   もしみつかったら…
汲川   確実に番組の趣旨かわるな…。
伊藤   特集!ゆとり世代のキレやすい若者の心の闇!とかになるわね
汲川   あれ、あんたゆとり?
田中   関係のない話はやめてください!!
吉田   あたしいいこと思いついた!
田中   何ですか!?
吉田   死体埋めよう!!
田中   嫌です恐ろしい!!どうせ下手な事してもばれるんです、おとなしく全員で自首しましょうよ
吉田   嫌よ、あたし犯罪者になんかなりたくない
林    既に犯罪者なんですけどね。
田中   じゃあどうしろっていうんですか
 
戸崎   じゃあ、テレビ局をジャックしよう
 
田中・伊藤・汲川 は?
戸崎   このままでもどうせ捕まるし病気のせいでどうせ死ぬしどうせだから派手な事しよう。俺、コケにされたままはやっぱ嫌だわ。
吉田   なにそれ
田中   何する気ですか
戸崎   後から考える!とにかく、色々考えてたらなんか腹立ってきたんだ。どうせ人殺してるんだ、怖い事なんかなんもないよ。一発ド派手にかましてやろう
吉田   あのさ、ジャックとか物騒なのやめようよ
田中   吉田さん!
吉田   もっとうまくやろうよ。ファンがつきそうな感じで
田中   吉田さん!?
吉田   あたしとにかくテレビに映ってみたかったのよ。でも今回の内容聞けば聞くほど嫌になってきちゃって…。だから自分の好きなようにかえるの!ワクワクしてきた!!
戸崎   アンタ!
吉田   何よ!
戸崎   いいやつだな
吉田   でしょ
田中   おれは絶対に嫌ですよそんなの!
吉田   あ、別にいいよ来なくて
田中   え
伊藤   いいんじゃない、あれで気が治まるなら…。
田中   なんですかそれ!伊藤さん、貴方が頼りだったんですよ!?
伊藤   ごめんね…疲れちゃって。少し休ませて
 
田中が混乱している中、吉田・戸崎はハイジャックの話で盛り上がり、伊藤・汲川はとりとめもない話をしている。田中は涙ぐんでいる。
 
田中   もうやだ…なんなんですかこの状況、僕は…僕は平和にやっていきたいのに
 
田中、ぼーっとしている林を見つける。すがる様に近づく
 
田中   林さん、僕と一緒に自首しましょう?
林    戸崎さんについていきます。
田中   林さん
林    私は戸崎さんみたいになりたいんです。
田中   なんでですか
林    私ずっとずっとなんとなく過ごしてたんです。でも戸崎さんを知って戸崎さんみたいになりたいって思うようになって、そしたらカラカラ病になったんです。だから、私戸崎さんみたいになれたらこの病気なおるはずなんです
田中   意味わかんないですよ…
 
戸崎と吉田は話が纏まった様子。
 
戸崎   あんた、一緒に来るの?
 
田中、急に戸崎に食って掛かる。
 
田中   なんであんたが正しいみたいになってるんだよ!おかしいだろ!!
戸崎   なんだそりゃ。俺はただじっとしてられないだけだ。
田中   子どもか!
戸崎   わかってくれよ。俺、動いてないとやってらんないんだ。
田中   はぁ?
戸崎   お前は平和に生きられるんだから、そうやってそのまま暮らしていたらいい。
田中   はあぁ!?
戸崎   うらやましい。
 
林、うっとりとした瞳で戸崎を見つめている。
 
戸崎   死ぬまでそうしていたらいいよ、うらやましい
田中   バカにすんな!!!
 
田中、おいおいと泣き始める。
SE:乾く音。
田中の左手が干からびている。
 
田中  えっ…?えっ?えっ?手が…手が、うごかない…。
 
突如、部屋中にベル音が鳴り響く。
皆が動揺していると、むくりと原が起き上がる。
 
原    はい!それでは皆さん、お時間ですので会場に行く準備を始めてくださーい!!
 
間。
 
田中   …えっ?
原    あ、ごめんなさい驚かせちゃいました?はい、このとおり!
 
原、服の中から「ドッキリ大成功」の垂れ幕を取り出す。
 
原    本当は、突然倒れるだけの予定だったんですよ。それが皆さん勝手に攻撃してくるもんだから、調子にのって死んでみてしまいました!
私、息とめてるの得意なんですよねー、この特技始めて役にたちました!芸は身を助けるって本当ですね
 
誰もしゃべらない。
 
原    あ、もちろんビデオカメラもしこんでありました。無許可で大変失礼いたしました、ごめんなさい
汲川   …消せよ
原    えっ?
汲川   ビデオ消せよ
原    いいですよ
汲川   は?
原    これ、別に局の指示じゃないですから。私が趣味でやってる事なんです。
田中   なんで…
原    私、ゲストの控え室にいるの好きなんです!特殊な方々ばかりだから、とっても面白くって。今日は先輩がいるから色々張り切っちゃいましたけど…あなた方、格別に面白かったです。さすがカラカラ病なんてかかっちゃうだけありますね!!
 
誰もしゃべらない。
 
原    私…人間って、低俗であればあるほど面白いと思うんです。
 
汲川、物凄い勢いで原に殴りかかろうとする。
あわててそれをとめる田中。
 
田中   伊藤さん、一緒にとめてください!!
伊藤   ほんと、嫌になるわ。
田中   へ?
 
伊藤   なんで、あんたみたいのがヘラヘラしていて、この私がカラカラ病なんかに罹ってるのよ。私は…私はちゃんと、立派にやってきたのに
 
原    そんなの簡単ですよ。カラカラ病は、焦りや飢餓感がそのままお肌に出るんでしょ?私は、なーんにも焦ってないですから。超元気です!カラカラ病になんてかかる理由がありません!
原    確かに伊藤さんちゃんとした人風なのに、なんでこんな事になってるんでしょうねー、そっちは全然わからないです。かわいそー
 
伊藤、原を睨む。
 
汲川   おまえ、性格悪くなったな
 
下手袖中から、他のスタッフの声が聞こえる。
 
スタッフ そろそろ時間ですよー、皆さんスタジオ入りしてください!!
戸崎   帰るか。
汲川   結局それかよ。ロックはどうした
戸崎   いいなりに出演してたまるかよ。
原    私契約社員ですしテレビ局の味方じゃないですよ?テレビよりみなさんの方が面白いので、どちらかというとみなさんの味方です。出演してくださいよ
戸崎   知らん。したら俺帰るわ、おつかれさまでしたー
林    私、テレビ出たいです。
 
林に注目が集まる。
 
林    私、さっき戸崎さんにいわれた《楽しいの?》ってセリフにずっとショックうけていました。
田中   そんなの気にしなくていいのに
林    私、楽しくなるように頑張ります!楽しくします!だから、出ましょう!!
戸崎   意味わかんないから。
林    皆さん、このまま帰るんですか?
 
伊藤   私は出るわ。
 
伊藤   お金貰ってる以上、出ないわけにはいかないでしょ。ねぇ?
汲川   え?あぁ
伊藤   TV局もこの子も問題あるけど、だからって私達が勝手していいことにはならないわ。
戸崎   殺してないってわかった途端に強気だな。
伊藤   大人として当たり前の行動をしましょうね、戸崎さん。
戸崎   は?
伊藤   あなた、今いくつ?
戸崎   24だけど
伊藤   同い年ね。年相応の行動をとってほしい、って言っているんです。
戸崎   てめぇ…
 
戸崎、立ち上がろうとする。SE:乾く音。
立ち上がろうとすると転んでしまう。
急いで右足を見ると、右足が乾いている。
 
林    戸崎さん!
原    病気、進行しちゃいましたね。
伊藤   …その治療をするためにも、出演した方がいいと思いますよ。スッポカシなんかしたら、余計悪く扱われるだけですから。
戸崎   そんなもん知るかよ
伊藤   少なくとも、私は出ます。私まで同じ扱いをされたくはないので。
戸崎   何言ってんだよ、同類が
伊藤   私は、低俗なんかじゃありませんから。
 
伊藤、身の回りを片付け準備をし始める。
 
吉田   アンタ、モテないでしょ?
伊藤   は?
吉田   見てればわかるよ。モテないでしょ
伊藤   …何いきなり
吉田   林さん、私もやっぱり出るわ。この女に任せておけない。
汲川   俺も出る
林    ほんとですか!
吉田   あんたもこの女と同じ立場でしょ。来なくていいよ
汲川   俺は出演しないと困るんだ
吉田   何で?そもそもなんであんたみたいなカタブツがテレビなんかに――
汲川   いいから、俺も行くぞ
 
汲川が立ち上がると、汲川のポケットから写真が落ちる。それを拾い上げる林
 
林    これは…女の人?
汲川   返せ!!
吉田   …あんたまさか!!
汲川   えっ
吉田   病気の奥さんか妹さんがいるのね!!だからテレビのギャラの大金が必要で…そっか、なるほど、そういうことね!なんて王道!ベタ!古典的!!ねぇあんた、そうなのね!?
 
原    これ、順子アナのプロマイドですよ
 
吉田   順子アナ?
原    知らないんですか?当番組のメインアナウンサーです、今清純派女子アナとして大ブレイク中なんですよ!先輩、高校の時からファンでしたもんね!
 
間。
 
吉田   …へぇ。
汲川   俺は出演しないと困るんだ
林    戸崎さん、みんなでるって言ってくれてますよ!さっきのテレビジャックの計画、改めて話してください!
伊藤   ちょっと待ってよ。勝手な事しないで。私はまじめに出演するわよ、そんなくだらない事――
吉田   ほんと、窮屈なオバハン。
伊藤   うるさいわね!!
 
SE:乾く音。
伊藤、異変を感じ右手袖をめくり上げる。右手が乾いている。動かせない。
 
伊藤   いや…いや、いやあぁぁぁ!!
原    こうやって進行していくんですね、面白い。
伊藤   黙ってよ!!
吉田   …これ、私のせい?
 
SE:乾く音。吉田の左足が乾く。動かせない。
 
吉田   えっ…。…やだ、やだやだやだ…
伊藤   …。
吉田   顔だけでも十分つらいのに…これ以上汚くなっちゃったら、あたしもう生きていけない…
伊藤   …甘えたこと言わないでよ
吉田   ご立派な人にはわかんないわよ…あたしはあんたとは違うんだよ!!
伊藤   当たり前よわかりたくもない!!大体ね――
 
林    …あの、テレビジャックの話すすめませんか…?
 
伊藤   なんで今そんな事言うのかしら
林    テレビでたら、病気よくなると思うんです…
吉田   足動かなくなったのよ!?適当な事言わないでよ!!
林    適当じゃないんです!だって…
吉田   だって何よ
林    戸崎さんが
吉田   あんた馬鹿じゃないの、気持ち悪いよ
林    知ってます!!…私、気持ち悪いです。でも、貴方達だって十分気持ち悪いです
伊藤   は?
林    私達、きっと何か足りてないんだと思います。だからこんな病気になってるんです!それなのに必死に取り繕って、私もあなたも戸崎さんも皆気持ち悪いんです!自分で自分の事、気持ち悪いって思ってるんです!!
だから、らしくない事してみないと、きっと病気なおらないんです!!!
気持ち悪くなくならないといけないんです!!
伊藤   何それ
林    オレはオレを気持ち悪い人間だと思っている。だから気持ち悪くない人間が羨ましくて仕方ない。オレはオレに欠けているものを埋めたくて音楽をやっている。オレは、気持ち悪くない人間になるまで音楽を作ることをやめられない。
戸崎   あんた、それ
林    ロッゲンオンジャパン7月号の戸崎さんのインタビュー回答です!!
戸崎   よく覚えてるな
林    出てくれますか?
 
戸崎、あきれたようにうなずく。
 
伊藤   …宗教じみてる。
林   戸崎さんは私の神様ですから。私、神様に似合う私になりたいんです。
戸崎  気持ちわりぃ…
林   わかってますってば!でも、とにかくこれで全員…

林、言いかけて田中の存在に気が付く。
皆の視線が田中に集まる。
田中、視線が集まっている事に気が付き動揺する
 
田中   あの、僕も気持ち悪いですか?
林    え?
田中   林さん、あなたからみて、僕、気持ち悪いですか?
林    えっと…。
田中   僕、そんなバンドマンくずれよりよっぽど真面目で善良な人間ですよ。 それでも僕も、そいつと同じに気持ち悪いんですか?
林    気持ち悪いかどうかはわからないですけど…
田中  けど?
林   かっこよくはないです。
田中  …
吉田  どんまい
田中   …出ますよ。でてやりますよ!僕だって、このまま終わりたくはありません!!
 
林、とまどいがちに笑う。
 
戸崎   やれやれ。じゃ、さっきの計画のおさらいだが――
 
原    ごめんなさい、そろそろ収録場所に移動していただいてもいいですか?
吉田  いいわけないでしょ!これからなんだから!
 
原    収録袖にみなさんだけで待機して頂くので、打ち合わせの時間はタップリありますよ。
戸崎   …仕方ない。移動しながら話すぞ
吉田   了解!行こ、何が何でもアッと言わせてやるんだから
伊藤  待って、私もやることになってる…?ちょっと、待ちなさいよ!
 
皆、移動していく。皆が出た後、原が片付けをしていると、そこに汲川が戻ってくる。
 
原    あら、忘れ物ですか?
汲川   …プロマイドを返してくれ
原    あぁ、はい。
 
原、汲川にプロマイドを手渡す。
 
原    先輩。高校の時の私たち、性格似てたと思いません?
汲川   …高校のときはな。
原    先輩、本当にあんなのに参加するんですか?笑われて終わりですよ。そんなに順子アナに会いたいですか?
汲川   会いたいな。
原    理解しかねますね。
汲川   …こんな病気になっちゃってな、オレも色々思うところがあるんだよ。
原    順子アナ、性格悪いですよ。
汲川   お前よりはマシだろ、人でなし。
原    かわいい後輩が死んでもケロッとしてた人に言われたくありません。
汲川   たいして話したこともなかっただろ。じゃあな。
 
汲川、左手で原に手を振る。
 
原    あれ、左手…。…病気、よくなっちゃった?
 
下手消灯。
上手点灯。アナと六人がいる。徐々に光はF.Oしていく。
 
アナ   カラカラ病とは本当におそろしい病気なんですね…。それでは、ゲストのみなさんに登場していただきましょう!
(拍手の音)
アナ   今回来ていただいたのは、カラカラ病にかかってしまい、病に苦しみながらも何とか日々を過ごしている、そんな悲哀に満ちた六人の若者たちの――
田中    田中優太、たなたなです!
林     林素子、はやりんです!
戸崎    戸崎恭介、とざっちです!
吉田    吉田里奈、よしっぴーです!
汲川    汲川正治、くみっきーです!
伊藤       い…伊藤絵美、いとやんです!
田中     六人そろって――
全員     今をときめく流行病、カラカラーズのメンバーでーす!!
 
六人、自給自足で拍手や歓声。
 
アナ     …皆さんお元気で何よりですね。それにしてもみなさんお顔乾いていますねー、やはり苦しい思いもたくさんたれていると思いますが――
 
田中     そう、僕たちは苦しんでいます
吉田     吉田里奈18歳、今が女の旬なのに!どうしてこんなに苦しめられねばならないの?
林      いったいどうして私たちが?
伊藤     同情されねばならないの!!
汲川     そんな想いをこめて、歌をつくりました…
戸崎     聴いてください、『I made ​​in five minutes』
 
曲のイントロが流れ始める。下手照明徐々にF.I。
下手では原と原の彼氏(以下彼氏)がテレビを見ている。原はテレビを指さし笑い転げている。
 
原     ほんとにやっちゃうんだもん、もう最高!
彼氏    それ、そんなに面白いか?
原     面白いよ、陸ちゃんもちゃんとみなよ!私もかかわった仕事だよ
彼氏    仕事って…派遣の雑用だろ。
原     仕事は仕事じゃない。
彼氏    おまえ、今回は続きそうなの?
原     うーん…楽しかったけど、もう飽きちゃった。そろそろ転職しようかな
彼氏    …そろそろちゃんとしろよ。
原     そのうちね。ねぇ、いいからちゃんと見てよ。
彼氏    わかったわかった。ちょっと待って
 
彼氏の携帯に着信がはいる。
 
彼氏    悪い、ちょっと
原     はーい。
 
原、テレビをみながら笑いつづけている。下袖から彼氏の声が漏れ聞こえてくる。
 
彼氏   もしもし。いや、ちょっと今はまずいって…。彼女の家来てるんだ。俺だってほんとは真里子のとこいたいけどさ…。うん、ごめんな。またあとで。愛してるよ。
 
彼氏、部屋の中に戻ってくる。
 
彼氏    悪い悪い
原     陸君、うちら何か月だっけ?
彼氏    え、なんだよ急に。そろそろ半年だろ
原     半年かー…。うーん、長い方だな。
彼氏    何?どうしたの
原     ごめん陸君、私明日の朝に仕事入っちゃったの。今日はもう帰って。
彼氏    なんだよそれ
原     ごめんね、今度また埋め合わせするから
彼氏    絶対な
原     うん。
彼氏    好きだよちはる
原     私もだよ、愛してる
 
彼氏、出ていく。ちはる、鍵をかけると携帯を取り出しメールを送信する。
 
原        ごめんなさい、他に好きな人ができました。もう陸君とは付き合えません…今までありがとう。…送信、っと。
 
原、少し考えた後、またメールを打ち始める。
 
原     岡本さんへ。実は前から岡本さんの事が気になっていました。もしよろしければ、今度お食事につれていっていただけませんか。…送信。
 
原は携帯を置き、再びテレビを見始める。
 
原     おもしろーい…。あはは。
 
原、客席を見つめる。
 
原     最高に面白いです。彼らが苦しむ姿を見ることが、私にはとてもとても楽しく思えて仕方がないのです。私は、あんなにものたうちまわることなどありません。私には何も望む事などありません。私はきっと、彼らのことが、ほんの少しだけ――羨ましいのです。
 
SE:乾く音。
原の両頬が乾いている。
 
原     …乾いた…?
 
幕。


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