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精神科医が「分析」する NeverEnding Nightmares③ 

#1 はじめに


こんにちは。譲葉エミルです。
今日はNeverEnding nightmaresをプレイしていこうと思いますが、大先輩の名越康文先生が解説しておられるので、正直緊張しています。

 Twitterで実施したアンケートでは少なくない票が入る知名度のあるゲームです。気合い入れてやっていきたいと思います。

発売から日が経っていることもあり、いきなりネタバレありでいきます。
未プレイのみなさんはお気を付けください。また、血糊がとぶような描写もありますので、苦手な方は先に進まないようにしてください。

 今日はみんな大好きジークムント・フロイト先生の見方を交えながらゲームを考察してきます。

#2 くちばし、角、そして杖。先の尖ったあらゆるもの。

NeverEnding Nightmaresを通して見られる男性のモチーフです。トーマス・スミスは、筋肉質で背が高い、自信にあふれた社交的な男性としては描かれず、やや痩せ型で、細長く、ひ弱で内向的な男性として描写されています。

 ゲーム中、そこかしこに「マッチョな男性」の存在を感じます。

すべてはファルス(男根)の暗喩。
左上の絵はゲーム序盤でみられ、強い線で描かれていることから鮮烈な印象を残す。

 なかやまきんに君のようなジョークが言いたいわけではありません。
 このゲーム中には、フロイトの言うファルス(男根)だけでなく、直接的な「強い男性」のモチーフがたくさんあるのです。
 劇中の洋館に飾られている絵には、もっと直接的に、男らしい男が描かれているものがいくつもあります。

劇中に飾られる「男らしい男」の絵。
トーマス・スミスとはとても似つかない、自信に満ちあふれ、力をもった男たちだ。

 ストーリー全体がが夢の中の出来事だとすれば、「強い男性として人生を遂げよ」という強い抑圧を感じます。父親の権威が強い家で育ち、父親の影響を受けつつも、母の影響下にいなかったような生育歴が想像できます。
 #3でも解説していますが、ガブリエルより年上の女性の絵はほとんどありませんし、あってもそれはグラマラスで魅力的に描かれているか、硬い表情です。

値踏みをするように女性がこちらを睥睨している。
「あなたなんか男性のウチに数えないのよ」といわんばかりに。

このゲーム中では保護的な女性は一切登場しません。痕跡もありません。
ガブリエルにすがろうとも、彼女はトーマスの行き先を導くだけなのです。
「崩れた夢」を例外として、トーマスとともにいることはありません。

#3 壺、花瓶、そして家そのもの。全てはLeibespforten.

 Leibespfortenとは、ドイツ語で「肉体の入り口」という意味です。壺にも花瓶にも、容れ物の上に穴が空いています。
 家には人を迎え入れるドアがついています。

全ては何かを迎え入れる入り口です。

画面手前に壺。机の上の花瓶。妹は「朝食を外で待っている」という。


 これらをフロイトは女性を示すものだとしました。
 しかし、このゲームを通じて、女性的なもの――とくに年上の女性を見いだすことはほとんどありません。

年上の女性らしい絵のひとつ。「崩れた夢」の病院の壁にかかっている。

 名越先生がゲーム散歩で指摘されているとおり、妹がそれに成り代わっており、母親の不在、ひいては母への思いを妹にぶつけるという構図なのだろうと思います。
名越先生はここから妹への近親相姦について言及されていますが、すこし補足しておきます。
母親は男性の子供にとって最も近しい異性です。ですから、彼女の気を引き、愛情を得ようとします。やがて性愛感情となり、母親をすでに寝取っている父親に嫉妬を抱くようになります。当然、父親にはかなわないので、母親に対する感情は抑圧されることになります
 この一連の流れを「エディプス・コンプレックス」と呼びます。
 父親という抑止が働かない妹が性愛の対象となった場合、より近親相姦の色彩が増す、と考えてよいでしょう。

#4 目から血を流す妹の幻影、目を潰された人形たち

雷鳴の直後、一瞬だけ見える目から血を流すガブリエル。
ほんの一瞬のことであるが、振り返っても彼女の姿はない。

このゲーム中では妹のモチーフと思われる人形や、妹そのものの姿が登場します。たとえば、ゲームの途中では、妻の役割のガブリエルに「ミルクを飲んできたら」と勧められ、台所に行き、帰る途中の階段には人形が鎮座しています。

この人形は黒髪の人形で、階段に置かれているめずらしいもの。
明らかに「ここからおかしなコトが起きてくる」と知らせる不吉な存在である。

あるいは、ゲーム進行中にウェディングドレスを着て、花を持った人形をチェックすることができます。他の人形と違い、花の色がついていることから容易に区別できます。

画面中央の赤い花をもった人形は調べることができる。
このゲームではエドワード・ゴーリイを彷彿とさせるタッチとモノトーンが印象に残るが、
その中にカラーを混ぜることでプレイヤーを誘導する。
笑う顔、驚く顔、破壊された顔、そして黒髪・色素の薄い髪。
無秩序に並んでいる人形にもそれぞれ個性がある。
特筆すべきはみぎの顔を破壊された人形であろう。

「目を潰されている」のが「見てはいけないモノを見てしまった」というふうに解釈するのは合理的です。前段で指摘した近親相姦の色彩をそのままに書けば、妹と性的関係を持ちたい、あるいは自分はそう思っているんじゃないかという恐怖心とがあり、知らぬうちに「妹を犯した兄」だと責め立てる彼女の目を潰してなくしてしまおう、と考えることができます。
 妹が性の対象であり、近親相姦は禁忌ですから、目を潰すという行為から、殺害という行為まであらゆる害意は排除できません。

#7 おわりに

 今回はNeverending Nightmaresを精神分析的な立場から考察してみました。譲葉の世代は精神分析が下火になった世代なので、復習をしながらとりかかりました。

 次回は、総まとめです。1~3回を振り返りながら、総まとめをしていきたいと思います。どうかお楽しみに!

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