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精神科医が考える MMOで疲弊しないコツ③ 怒りの制御と付き合い方

#1 はじめに

 こんばんは。譲葉エミルです。
 今回は読み原稿の改稿ではなく、ほとんど書き下ろしです。

 譲葉は医学生時代はガチMMO勢(昔風に言えば「ネトゲ廃人」でしょうか)でした。ICD-11が発効していたらゲーム障害と診断されていたかもしれません。しかし、思い出補正を抜いても、譲葉がガチ勢だった1990年代後半~2010年代前半と比べて、MMOの世界は生きにくくなりつつあるように感じます。

画像はイメージにきまっています。
研修医になって以降、こうはなれなくなってしまったのです。

 MMOの世界は、かつてはサークルの部室のような空気がありましたが、現代のMMOは公共空間のようになってしまいました。現代のMMOでは現実の世界と同じ作法が求められる一方で、現実に繋がる情報を秘匿することがまだ求められています。このジレンマがトラブルを招いていることもあると考え、これから何回かに分けて、MMOで疲れないコツをお話ししていきたいと思います。

 可能な限り一般論を述べるように注意しましたが、記事内容が譲葉がプレイしていたMMOの影響を受けている可能性があります。そのあたりは事情を承知した上でお読みください。

#2 規律を守れないことに対する反応

 前回の記事で「規律」の話をしました。高難度コンテンツをクリアする上では規律と敬意が必要です。
 規律が何故必要かというと、「ストレスなく最小限の資源でクリアする」ために必要だからです。1人の失敗はワイプを産みます。これはコンテンツの仕切り直しを意味します。

規律の代名詞と言えば軍組織ですが、MMORPGではゆるい上下関係もなく、
対等であると考えてよいでしょう。

 ワイプをすることで、参加者の時間や消費アイテムが失われます。要するに、イラ立ちを産むのです。一方、レベリングが最高のコンテンツだと信じられていた例目気のMMOでは、そうは考えられていませんでした。経験値とドロップの分配こそMMOで得られる戦果でした。


 むかしのMMOでイライラするときは、デスペナルティが発生したときでくらいです。譲葉がかつて遊んでいたゲームではデスペナ1回が1時間のロスといわれていました。必要なアイテムや装備をケチるとこの1時間のロスは、1時間半にも、2時間にもなったのです。ですから、アイテムや狩り場の調査・選定というのは重要だったわけです。

 現代のMMOでも、見た目の良い装備品はもちろん、強い装備が高い価値を持つのはいうまでもないことです。RMT対策から、通貨の価値は下がったかも知れませんが、高難易度コンテンツでの報酬の分配は、現在でもトラブルの火種になるのです。

ゲームといえども、他者と関わる以上、仕事と同じようなところがあります。

 報酬に希少性がある場合、参加者の間でルールを決めることがあります。そのルールに反する行動を取るのは、規律を守ることとはいえませんし、参加者の間でもっとも「燃えやすい」トラブルと言えるでしょう。

 この他の規律を守らない行為に、遅刻や無断欠席があります。
 スケジュール調整は厄介な問題で、ゲーム内でツールが用意されていない場合、クラウド上のスプレッドシートや専用のアプリが用いられます。前回の記事で紹介したとおり、参加者は緩やかな上下関係しかもっていませんから、それを強いリーダーシップで補強するのは正しいとは言えません。各々が自分を律しながらパーティに対して貢献していかねばならないのです。

 なにも冷徹であれとか、ポーカーフェイスを気取れと言っているのではありません。怒りは感情表現の一つであり、表出を間違えなければ人間の感情の営みとしては正常なものです。しかし、社会性を持った動物である我々は、怒りを他者の前で表出すると不利益をこうむるのです。したがって、人前で怒りを表出するのは間違っています。

#3 怒りによって他人を支配しようとしない

 怒りは相手を不機嫌にさせるとか、暴言を言われた相手のパフォーマンスが落ちるとかいろいろ研究が発表されていますが、今は脇に置いておきましょう。

これからする話には怒りが周囲にあたえる影響は関係がないのです

「あなたが暴言を言われた」のなら不機嫌にもなるでしょうし、その後のトライでは全体のパフォーマンスも落ちるかも知れません。
 しかし、この記事は怒りに身を任せようとしたことのあるあなたのために書かれているのです。あなたが何故、規律を守らず、チームに貢献しない怠け者に怒りを覚え、その感情を表に出そうとしているのか、ということについて話をしようとしているのです。

怒りによって他者の行動を変えようとしてはいけません。
そもそも、他者をコントロールすること自体が困難なのです。

 理由はシンプルです。あなたはそいつのことをろくでなしだと思っていて、自分のミスを理解していない。ゆえにこれからの攻略に支障があるのでメンバーを入れ替えたい、だがそれができないので、「彼に変化を求めている」のです。
 この推測は言い過ぎかも知れません。しかし、そういうメンバーがもし心を入れ替えてくれたら、もっとマシなチャレンジになるかもしれないと思って、つい余計な一言が口に出てしまうのです。

 怒りがモチベーションになるのはいうまでもありません
 これは心理学でいう防衛機制のうちの「昇華」にあたります。たとえば、受験に失敗した自分のふがいなさに絶望して勉学に励むとかです。
 そういうのには憧れますが、それは感情が自分に対して向いているのです。他者には向いていません。

 他者に怒りを向けたところで、他者の行動は殆ど変わりませんし、ましてや暴言を吐いても行動が変わることは絶望的な確率でないといえます
 そもそも、我々医師は長らく、「病気を治すために薬を飲ませる」とか「リハビリをして機能を回復させる」ということに執念をもって臨んできたわけですが、治療や退院後の生活が楽になるという人参をぶら下げて病気について教え、いろいろな実技を交えた指導をしても、挑戦しない人は挑戦しないのです。自分の今後の生活をエサにした圧力があってもそうなのです。
理詰めで語ってもそんなところです。

 決して他人をコントロールしようとしてはいけません。
 ストレスがたまるだけです。自分のワザに磨きをかけましょう。

 
理詰めで語ったところで、通じないことがあります。「コンテンツに挑戦したい」と「コンテンツをクリアしたい」と「クリアに必要なことを理解する」というのはそれぞれ別のことなのです。どれか一つ欠けてもうまくいきませんし、それらをバランス良く保つのが高難度コンテンツをストレスなくクリアするコツです。

#4 おわりに

 きょうはMMORPGでのアンガーマネージメントについて考えてきました。
 他人を遠隔操作しようとしてもうまくいきませんし、ストレスを感じることが多いです。しかし、コンテンツの攻略中にはミスに気づいていない相手にミスを指摘しなければいけない場合があります。次回は、そういう場面について考察していきたいと思います。

 最後までごらんいただきありがとうございました。


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