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精神科医が考察する NeverEnding Nightmares① ~キリスト教との関係~
#1 はじめに
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こんにちは。譲葉エミルです。
今日はNeverEnding nightmaresをプレイしていこうと思いますが、大先輩の名越康文先生が解説しておられるので、正直緊張しています。
もやもやしていることがあります。
— 譲葉エミル🥼🔱@精神医学vTuber準備中 (@YuzurihaEmil) September 6, 2022
譲葉がゲーム実況するとしたらどれが見たいですか?
Twitterで実施したアンケートでは少なくない票が入る知名度のあるゲームです。気合い入れてやっていきたいと思います。
発売から日が経っていることもあり、いきなりネタバレありでいきます。
未プレイのみなさんはお気を付けください。
今回はキリスト教との関係性について、ゲーム中にちりばめられた要素を集約し、考察をしていこうと思います。
今回の考察は精神分析的な立場(つまりジークムント・フロイトの説に)よるものではないので、廊下に置いてある壺が女性器の暗喩であるとするとか、「目を潰す」というのが「見てはいけないものを見てしまった」ことであり、ひいては血のつながった兄との近親相姦を予期させるとか、そういうことは一旦脇においておきます。
あくまで、キリスト教に基づいたモチーフによる考察です。
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壺や花瓶はフロイトの説によると女性の暗示であるという。
#2 聖書との関係性
このゲームはアメリカのゲームです、キリスト教の国のゲームです。
つまり、キリスト教的な予備知識を仕入れておく必要があるといえます。
最初の断片がコレです。
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ゲーム開始して間もなく登場するこの本は、ラテン語の旧約聖書です。「Psalmus」というのは、「詩篇」といわれる神への賛美を記したもののことです。上の書見台では21章の引用に見えますが、実際は詩篇22章の第1節から第14節を引いたものです。
第2節の「Deus, Deus meus, respice in me: quare me dereliquisti? longe a salute mea verba delictrorum meorum」の冒頭はゲーム中に度々登場する「My god, why have you forsaken me?」そのものです。
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もともとキリストが磔刑にかけられたときに発した言葉である。
この言葉は、磔刑にかけられたときにイエス・キリストが発した言葉として有名です。「Eli, Eli lamma sabachtani?」です。これはヘブライ語で「神よ、なぜお見捨てになるのですか」という意味です。この言葉は、ゲーム後半でマタイによる福音書第27章の一部を引用する形で登場します。
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マタイ27章46節がそれである。
このようにゲーム中では「我が神よ、どうして私を見捨てられたのですか」が繰り返し登場します。
主人公、トーマス・スミスは自分をイエス・キリストに見立てているのか、それとも一人の信者として救済を待っているのかは分かりません。
しかし、強迫性障害とうつ病を患った経験のある作者が、自分の治療体験の一部としてこのゲームを開発した経緯があるため、どのように解釈するかは受け手に委ねられるべきだと思います。
#3 ガブリエルとは何なのか
ガブリエル(ガビィ)という女性は、このゲームの謎のうちの一つです。というのも、ガブリエルと呼ばれる複数の女性が登場するからです。この女性はそれぞれのシーンで異なった役割が与えられており、混乱を招きます。
たとえば、ゲーム開始直後は「妹」として登場しますが、そのあと、病院に入院している、と告げられるシーンでは「精神科医」として登場しますが、他のシーンでは妻だったりと、名前は共通でも役割が一定しません。
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次の断片はガブリエルです。このたびたび登場する女性の名前は「大天使ガブリエル」に因んでいると考えられます。
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トーマスが寝ている椅子は精神分析療法に用いられる象徴的なもので、推しポイントのひとつ。
大天使ガブリエルは神の伝令役です。例えば、マリアのもとに現れ、処女受胎を告げたのは大天使ガブリエルでした。これを受胎告知といい、様々な絵画の題材にになっています。人間の世界の外から、全能の神の御言葉を伝える役割を持っています。(ムハンマドが啓示を受けたのもガブリエルだと言われています。イスラム教ではジブリールといいます)
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このゲームでは、主人公トーマス・スミス自身が、自分を導く存在として期待を持っている女性を「ガブリエル」と呼んでいるように思います。
精神科入院中であれば、主治医が自分を導く存在(つまり治療される者と治療する者)になります。同じような依存関係が、夫婦、兄妹の関係性の間に成立していたと考えられます。
様々な夢の中で複数のガブリエルが存在するのは、トーマスの中には、弱い自分を導いてほしい、導く存在としてのガブリエルの役割を人生で登場する人々に負わせていたのだろうと推察します。
#4 しつこく刺される脇腹
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note運営から叱られねばよいのだが。
なにも残虐なゲームの表現に付き合いたいのではありません。
右の脇腹を刺す、というのはキリスト教の表現で重要なことだからです。
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右脇腹に赤いガラスが取り付けられ、血痕を表現している。
磔刑にかけられたイエス・キリストの表現では、右の脇腹に傷がみられます。手と足の傷をあわせて5つの傷になるというのが重要です。
これを聖痕といいます。
新約聖書によれば、右の脇腹の傷は、イエスの死を確認するために兵士が脇腹を刺したためにできた傷だということになっています(ヨハネによる福音書19章34節)
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脇腹を刺された主人公の遺体を見下ろす主人公。
#5 不信心のモチーフ
Neverending Nightmaresでは度々首吊りのモチーフが登場します。
たとえば、洋館の中に掲げられている絵画や、「気ままな夢見る者」のルートにみられる人形です。
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縊首による自殺の暗示である。
新約聖書によれば、ユダは報酬目当てにイエスを祭司長たちに売り、その報酬として銀貨を受け取りました。
結局彼はその銀貨を神殿に投げ込み、自殺します。
その自殺の方法は、首吊りです。
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「イスカリオテのユダ」というと平野耕太の「HELLSING」で引き合いに出されたこともあり、ちょっと有名ですが、ユダ以外のイエスの使徒達の不信心を示すエピソードは他にもあります。
イエスが磔刑にかけられたあと、復活をするわけですが、12人いた弟子の一人、トマスは「わたしは、その手の釘のあとと脇腹に手を差し入れてみなければ信じない」と言います(ヨハネの福音書20章24-29節)。
主人公の名前もトーマス・スミスであり、共通点を見いださずには居られません。
#6 聖体の秘蹟
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左側の祭壇には聖体拝領に用いられる薄いパンと葡萄酒を入れる杯がある。
左の壁についているのは、おそらく聖体(薄いパン)を入れる聖櫃。
示したスクリーンショットは「気ままな夢見る者」ルートで入ることができる部屋のものです。中央のステンドグラスに目が行きますが、まず画面左の祭壇に置かれた皿と杯に注目しましょう。
キリストがユダに裏切られ、引き渡される前に行われたのが「最後の晩餐」です。レオナルド・ダ・ビンチの絵画としても有名ですが、このくだりはキリスト教の儀式になっています。キリストの血となったとされる葡萄酒と、身体となったとされるパンを食べる儀式です。
宗派により異なりますが、これを聖餐式とか、聖体の秘蹟とかいいます。
この儀式に必要な葡萄酒を注ぐのが画面左の祭壇に置かれた杯で、皿の上に乗っている薄い煎餅みたいなパンです。
暗にこの部屋はイエス・キリストの刑死と復活を予期させています。そして、あまり馴染みのないキリスト教の儀式を見せているのです。
#7 おわりに
NeverEnding Nightmaresは強迫性障害とうつ病の体験が開発の動機の1つになっており、精神分析的な立場で解釈するべきだという考えもあります。
しかし、キリスト教圏であるアメリカで開発されており、キリスト教のモチーフが多用されている以上、ジークムント・フロイトが唱えた精神分析的な立場から論ずるより前に、キリスト教のモチーフについておさらいしておく必要があると考えました。
第一回目は、精神科医らしくないことをしましたが、次は精神科医らしいことをします。それは、現代日本の精神医学という視点から、このゲームを見下ろしてみたいと思います。どうかお楽しみに!
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