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種苗法について


そもそも種苗法とは?
種子法との違いとは?
また、今回の種苗法改正の内容と目的等について説明します



〈目次〉
1.種苗法とは 
2.種苗法と種子法の違い
3.種苗法改正が実施された背景
4.種苗法の改正内容
5.種苗法改正に反対の意見があるのはなぜか
6.おわりに


1.種苗法とは
種苗法とは、農作物の品種を育成者の許可なく栽培・増殖させないための法律である。

特定の品種を健全な形で栽培・流通させて、農業全体を発展させることを目的としている。

育成者とは特定の農作物を開発した人を示す。農林水産省に品種登録を出願し、承認された場合、育成者権を得ることができ、品種登録された農作物の栽培・増殖をする権利を専有できる。

つまり、品種登録された農作物は、育成者権を持つ人の許可なく栽培・増殖・流通できない。なお、育成者権の効力がある期間は25年または30年である。

2.種苗法と種子法の違い
種苗法とは、農作物の品種を登録して権利を守るための法律である。

一方、1952年5月に制定された種子法は、戦後の食糧不足解決のためにできた法律であり、米・麦・大豆などの主要作物を安定生産することを目的として制定された。

種子法は、農作物の原種(種子の親種)・原原種(原種の親種)などの生産を全ての都道府県に義務付け、品質の良い種子の生産や普及を目的とした。その結果、各都道府県では高品質なブランド米の開発・提供が積極的に行われてきたのである。

しかし、法制定から60年以上経過した現代では、種子の生産技術や品質は向上し、米の供給不足も解消されている。また、中食や外食などの需要が伸びている現代では、高価格なブランド米よりも低コスト品種が求められるなど、多様化するニーズに対応できなくなってきた。

このような中、時代のニーズに応えるために、種子生産を義務づける種子法は、2018年4月に廃止された。その結果、現在では、都道府県だけでなく民間企業も種子生産に参入しやすいように環境が整えられている。

3.種苗法改正が実施された背景
種苗法は一部改正されて、2020年12月に成立・交付された。その後、主な条文が2021年4月および2022年4月に施行された。この種苗法が改正された背景について説明する。

(1)国内の優良品種が海外に流出
種苗法改正に至った大きな背景の一つに、国内の優良品種が海外流出したことがあげられる。

長い年月と多額のコストを費やして開発した優良品種が海外流出してしまうと、日本の農業市場の発展に大きな支障が生じる。具体的には、新たな市場の獲得が失われれ、さらに第三国での市場獲得も失われてしまう。

このような育成者権の侵害を立証するには、品種登録した時点の種苗と比較して栽培をする必要がある。そのため、育成者権の効力が発揮されづらい事態が生じてきた。

育成者権の効力が発揮されないと、国内の品種開発を促進することや、新品種にかかわる権利を保護することに困難になってきた。

これらを背景として、育成者権の効力が適切に発揮され、海外流出を防ぐためにも種苗法の改正が実施されたのである。

(2)国内の優良品種の海外への流出の事例
国内の優良品種の代表的な海外への流出の事例には次のようなものがある。

事例① シャインマスカット
シャインマスカットの苗木が流失して中国・韓国で産地化された。さらにタイ・香港・マレーシア・ベトナム市場で中国産・韓国産として販売される。

事例② 紅秀峰
サクランボ品種の「紅秀峰」がオーストラリアに流出して産地化された。山形県内農業者が紅秀峰を増殖させ、育成者権者に無断で種苗をオーストラリア人に譲渡した。

このような育成者権の侵害を防ぐとともに、新品種の開発投資が健全に農業者へ還元されるためにも種苗法の改正が必要となった。

4.種苗法の改正内容 
種苗法の主な改正内容について説明する。

(1)海外への種苗の持ち出しが制限された
2021年4月1日から海外への種苗の持ち出しが制限できるようになった。これにより、日本の優良品種の流出を防ぐことが法的に可能となった。種苗を海外へ持ち出す予定があることを知りながら、特定の人に譲渡した場合は刑事罰や損害賠償の対象となる。

(2)国内の栽培地域が指定された
2021年4月1日から登録された品種は、国内で栽培できる地域を指定できるようになった。育成者は品種登録時に栽培できる地域の届出を行い、指定した地域以外での栽培を制限されるようになった。

(3)登録品種の自家増殖は許諾が必要になった2022年4月から登録品種を自家増殖する場合、育成者権を持つ人の許諾が必要となった。自家増殖とは、農業者が収穫した農作物の一部を種苗として利用することを示す。

ただし、育成者権を持つ人が増殖の許諾を求めない場合、その旨を公表していれば他の農業者は許諾の手続きを実施せずに増殖が可能である。

(4)登録品種の表示が義務化された
種苗業者は登録品種の種苗を譲渡する際に、その種苗が品種登録されているとわかるように表示することが義務づけられた。種苗本体またはその包装に表示する必要がある。

「指定地域外での栽培制限がある」「海外への持ち出しに制限がある」など、利用条件も合わせて表示することが義務づけられた。加えて、「登録品種」「品種登録および品種登録番号」「PVPマーク(登録品種または出願中を示すマーク)」のいずれかを記載する必要がある。

5.種苗法改正に反対の意見があるのはなぜか 
種苗法の改正にあたり、許諾料により経済的な負担が増えたり、事務手続きが煩雑になったりするのではないかという懸念点があり、反対する意見があがっている。

●経営が圧迫されるのではないか?
種苗法の改正により育成者権が守られ、産地のブランド向上につながるという期待の声がある。しかし、一方で、許諾料の支払いや手続きの複雑化により、農家経営が圧迫されるのではないかという不安の声があがっている。

この懸念点に関する農林水産省の回答は次の通りである。

①農業者がこれまで栽培してきた一般品種(在来種や登録期間の切れた品種)は、今後も許諾の申請や許諾料は発生しない。

②自家増殖の許諾が必要になるのは、国や自治体が開発し、登録された登録品種のみである。

③登録品種の許諾の手続きは、農業者の事務負担を増やさないために農業団体が一括して実施することが可能である。
※なお、許諾料は同省のガイドラインに定められている。

6.おわりに
種苗法の改正は、開発者が種苗費で収益を上げるためではなく、新品種を保護することを通して農業の発展を推進することが目的とされている。

但し、この法改正を行ったことで、今後、なんらかの問題が発生することはありえる。法改正後の日本の農業について、継続して注視していきたい。


以上


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