国語力を上げるための「大学数学」

国語力,大雑把に言うなら母国語を読解する力のこと.

どうせ「日本人なんだからできて当然」とか常識を妄信してしまっている人もいるだろうが,結論から言ってしまうとそういうやつのほとんどは言葉をフワフワ扱ってしまっていて吹けば飛んでくぐらい論理が弱い.

国語は一番難しいと思うし,僕も胸を張ってできると主張できるとは思っていない.でもそこらへんの有象無象よりはできる.

(少し話がずれるが,国語教師をやりたいのであれば他の科目ができたうえでやるべきだと常々思っている.ちなみに僕は社会系の学問が壊滅的にできないため,適任ではない.)

ではなぜ僕が国語力を鍛えるために大学数学を勧めるのか,具体的に何をするべきなのかを書いていきたいと思う.


大学数学を学ぶメリット

抽象概念を理解する訓練になる

大学数学は高校数学よりもさらに抽象度が増す.

高校数学は基本的には答えがあるという前提でさまざまな「道具」を使い問題を解くことをする.それに比べて大学数学はどちらかというと概念の理解を求められ,これまでの「道具」を自ら作ることを要請され,場合によってはこれまでの常識や発想の転換(破壊?)を強いられる.

これによってさまざまな概念の解釈や思考の枠組みなどが整理され使えるようになり,また複雑なものの分解や定義を受け入れる準備をすることができるようになる.

ゆくゆくは概念の「気持ち」と呼ばれるものも理解できるようになってくる.なぜこの概念を考えたのか,どう変形できるのか,どういう使い道があるのかなどなど……

論理をきちんと追う練習になる

数学は論理に厳しい.もっと言えば例外をほぼ許さず,もし例外がある場合は排除するか明記する必要がある.

そのため,議論に漏れがないか徹底的に議論しなければならない.そもそも前提が間違っている場合もあるため,ありえないかどうかも考える必要がある.それを繰り返した結果,受け取った話を一度整理し,穴がある場合はそれを埋める能力が向上する.

わからないものにぶつかる勇気をもらえる

大学数学は基本的に抽象的すぎてわからない.わかったと思っても単にちょっと論理に慣れただけだったり定義が書き写せた程度で,意外と本質がわかってなかったり演習問題もほぼ解けない.いわばわからないことが基本であり,それでもなおぶち当たるため根性は間違いなく鍛えられる.

そして何より,わかったときの快感は忘れられない.その衝撃こそ,挑戦する気力と意味を自分に教えてくれる.

具体的なアドバイス

読み方

ここからは具体的な読み方に入る.おすすめの本はかなり拡充させているため,ぜひ目を通してほしい.

まず,「線形代数」とか「微分積分」とか「集合・位相」とか書いてある本を一冊でいいので購入する.基本的にそういう系の本は全く何も知らずに読んでもわかるように書いてある(もちろん数学的素養がある方がいいに越したことはないが,大学数学から数学をやり始めた人も一定数存在する.).

さらに僕のおすすめなのは理工系向けではないものを買うこと.理工系のものは定理を使うことがメインであり,概念の理解という観点では少しずれてる.
まぁ,正直この辺は好みでもあるためよさげのものがあったらその限りではない.ビジュの良さとかで決めてもまぁいいかもしれない.

書店によく行くなら適当にパラパラしていけそうなものでもいいし,あとはAmazonなんかで評価の良いものを選べばいい.もしわからなかったらこのあとの僕が使った参考書紹介コーナーのものを使ってほしい.

もし仲間がいるなら一緒に読み進めてみるのもいいと思うし,仲間の存在はモチベーションと強制力につながる.みんなで参考書を持ち合い,各章ごとに分担して説明していくような集会を「輪読」とか言ったりする.なんならみんなで議論し合ってこれはなんなのかと一緒に話し合う会でもいいかもしれない.仲間がいなくても最近はTwitter(現X)なんかがあるから頑張ればそこで見つかるかも.

最初のうちは基本的に「ここに世界の真理が書いてある! 知りたい!」ぐらいの勢いで読んでほしい.言葉を一文ずつ解釈して,わからなくてもわかるまでずっと考え,それでもわからなかったら泣く泣く進むぐらいの感じでいい.何度も気になるところに戻って,進んでを繰り返す.

大事なのは筆者の主張を完全に理解することと,頭の中にわからない概念を飼うこと.筆者の主張の真偽はともかく読み違えずに理解しなければ批評もできない.わからない概念は頭の中で飼っておけば,ひょんなときにいずれはっとする瞬間がくる.

手を動かすのもかなり大切で,紙の上で具体的に数字をあてはめたりして実験したり,定義や定理や証明を写経することで閃きや理解があったり,練習問題は頭の中だけではできなかったりする.手元にはノートとペンを常に用意しておこう.

数学書

前までAmazonアソシエイトに入っていたが,ボケっとしてたら資格をはく奪されてしまったので,今回は何もそういうのを仕込まずにリンクを張ることにする.なおこの文章はアソシエイトに切り替えたら消滅する.

僕の鉄板ネタに「基礎化学科に入ったが,最初に買った本は松坂先生の『集合・位相入門』で,これで国語ができるようになった」「同じページを読むのに2週間以上かかったこともある」「いい意味で人生狂った」というのがあるが,その本を紹介したい.

なお,初めに買った理由は「1と書いてあったから」


松坂先生の本は基本的にかなり砕けた口調で書かれており,ほかの数学書に比べて気持ちの部分も多いため比較的読みやすい.さらにおすすめの『線形代数入門』『解析入門 上』を紹介する.この数学入門シリーズは1~6まである.基本的に2か4のどちらかから始めるのがおすすめ.正直どっちからでもいい.


また,数学に慣れてなさ過ぎて拒否反応が出るという人向けに『数学読本』というシリーズもある.これも松坂先生が書いている.小中学生で見たことあるものも多いと思うので,そちらから慣れるのもおすすめ.なお,これも1~6に分かれている.


『数学書の読みかた』というタイトルそのままの本もおすすめ.論理をきちんと教えてくれるありがたい本.ついでに練習として写像の説明をしてくれるので,本当の基礎はここですべて揃う.


少し物語チックがいい人は,数学ガールをおすすめしたい.高校範囲からそろっているため,小説を読むようにすらすら読める.難しい数学書を読むための助走だと思ってほしい.気持ちを理解する練習にはピカイチ.登場人物の心情も書かれているため,国語的には素晴らしい題材な気がする.

数学ガールはいっぱいシリーズがあるため集めてみてもいいかも.


最近は「手を動かして学ぶシリーズ」もある.詳細な証明は避けているが,どの書籍のどこを読めば証明が書いてあるか明記されている.さらに言えば,このシリーズはとにかく手を動かすことをベースに置かれているため,俯瞰して学びながら概念を理解することに特化している.

このシリーズだけでも様々な発展的な事柄を学習できるため,これはかなりおすすめ.(ちなみに余談だがε-δ論法は解析学で最初の難関と言われている)

集合・位相に限るのであれば,僕の周りの数学科が輪読によく使っている本があるのでそれも提示しておく.

特に位相に関していいとよく聞くが,僕は読んだことがないので今度普通に買う.


ここまで読んでくれた人に深く感謝したい.

最後に僕が塾の生徒によく言っている言葉を共有したい.
「わからないことを恥じるべきはなく,わかろうとせずに行動もしないことを恥じた方がいい」
これはあらゆるものを学ぶ上で大切な考え方なので,みんなに共有しておく.

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