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ガオンガオン

「時間がない。手身近に説明する」
 男は言った。
 目の前では、高層ビル程の巨大不明機動兵器が起き上がり、最後のリミッターが外されようとしていた。
 人とも龍とも見える、その機械の背の塔の様なものは、超大型荷電粒子砲だという。あれが放たれれば、東京は消失する。
 数分前に、自衛隊の長距離誘導弾は全て二千超の戦闘ドローンに撃ち落された。20分前には航空部隊の攻撃も無効化されていた。
 もう時間も打てる手もない。何せ、東京湾上の埋立地に設置されたアトラクション用だと思われていた巨大ロボが、本当の兵器だと判明したのはほんの90分前だ。前例のない冗談みたいな事象にここまで即応できただけでも奇跡といえる。
 そんな絶望的な状況の中、兵器から2キロ離れたお台場の最前線対策拠点に、その男は現れた。
 埃っぽいフードを被った、怪しい男だった。困惑の視線を向けられて男は言った。「あれに対処する方法がある」と。
 皆その言葉をどう受け止めればいいのかわからなかった。しかし、この期に及んでこの男が単なる妄言者でも、これ以上最悪なことは起こらない。
 だから責任者と思しき人物――仮に名を田川とする――は「どうやって?」とだけ言った。
 男は先の言葉を発し、続けた。
「この世に“怪獣拳”と呼ばれるものは3種ある」
「は?」
「ひとつ。象形拳の究極形としての怪獣拳。ひとつ。怪獣自身が操る格闘術」
「いやあの」
「そして最後の、3つめの怪獣拳こそが――」
「ふざけるな!」
 田川はついに爆発した。
「こんな時に怪獣って何だ! あんた……」
 男が田川に手を向けた。それだけで、田川は気圧されて声を失った。
 男は巨大不明兵器に向き直り、天の何かを掴もうとするような構えをとる。
「それは、怪獣そのものをぶつける技」
 視線も上空へと向ける。
「超重量で圧殺し、怒り狂う暴乱で破壊する。見ろ、これが」
 田川も男につられて見上げ、息をのんだ。
「召喚武術……牙遠流怪獣拳」

【続く】

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