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アウトオブボーダー

 街のはずれに、捨てられた倉庫街がある。
 元は東南アジア某港の埋立地に築かれたもので、20年前に全長3キロのシーサーペントに埋立地ごと飲まれたものだ。その後どういう経緯か、未消化だった四棟の大倉庫を含む一画がここに置かれた。
 その廃倉庫街に踏み込む一人の女がいた。
 目を引くのは、真冬でもないのに肩に羽織る厚手のロングコート。その中は、明らかに学校の制服だ。女は、コートの中で腕を組みながら悠然と歩き、やがて一棟の倉庫に入った。倉庫内にはコンテナが一つだけ鎮座し、その中には2mはある無貌の人形がぎっしりと積まれていた。女がそれを訝し気に覗き込んだ。その時。
 真上から黒い影が急襲し、長刀を女に振り下ろした。降ってきたのは黒いパーカーを被った、痩せた男だった。着地した男は驚愕の表情になる。
 男の刃はコートの袖から出る青い腕に受け止められていた。女自身の腕は、相変わらずコートの中で組んだままだ。
「……街庁の犬か?」
 男が慎重に距離を取りながら問う。
「ええ」
 女は素直に答える。
「その袖の中にいるのが相棒か?」
 この問いには女は嫌そうな顔になる。
「これはこういうアイテム」
「ふうん。まあ、一人なら逃げようはある」
 そう言うと、男の前に3体の、コンテナに積まれていた人形が立った。
「それゴーレム? ってなに脱いでんの」
 男が上半身裸になるや、その背から黒い翼膜が広がった。女は眉を寄せる。
「中に飼ってるのはそっちじゃん」
 一斉に襲い掛かるゴーレム。コートの腕が旋回すると、ゴーレムはたやすく砕け散った。
「あ、やば」
 砕けた人形は、女を巻き込んで爆発した。
 爆発の隙に逃げようと男は全力で羽ばたいた。だが倉庫の出口を目の前にして、何かに衝突した。
「ぎゃん!」
 床に転がった男はすぐに起き上がり、それを見上げた。
「は?」
 栗色の髪の、ニットワンピを着た少女がそこにいた。だだし、膝をついてもなお頭が天井につかえて身を屈めている程の。
【続く】

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