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たとえば、カートいっぱいの花。

 カラカラカラカラ
 渇いた音を立てて、小さな車輪が回る。
 ことごとくひしゃげ、焼け焦げ、死んだ車たちの間を、一台のショッピングカートが通っていく。その特大のカゴには、毛布にくるまれた荷が乗っている。
 カートを押しているのは、煤けたセーラー服の少女。彼女は時々荷物に目をやりながら、休むことなく黙々と押し続ける。
 この道は、かつて東名自動車道と呼ばれていたが、利用する人間は久しくいない。
 だから少女はこの道を選んだ。なるべく人の目は避けたかった。
 カートの進行方向に、不安定に揺れる人影が、3つ。
 これが、人が寄り付かなくなった理由だ。それが、少女の方にゆっくりと近づく。
 ここに生きている人間はいない。だが、無数の死者がいる。
 動き回る死者、いわゆるゾンビたちが。
 東名道にはそこで発生した数千の死者が封じられ、今なお彷徨い続けていた。
 だが少女は落ち着いた様子で、カートにストッパーをかけ、カゴから鞘袋を取る。その中身は、一見してただの木刀だった。
「お姉ちゃん、ちょっと待っててね」
 そう囁くと、彼女は駆けた。
 1体の眼前まで来るや、流れるように回り込んで背後を取り、木刀を振るった。盆の窪にヒットしたそれは、大したダメージを与えたようには見えない。
 しかし如何なる技か、当たった場所に黒いヒビが入り、左右に伸びて喉元で繋がった。その途端、ゾンビは動きを止めた。
 速やかに残りの2体にも同様の一撃を放つ。3体はゆっくりと膝を折り、まるで少女に跪くような姿で普通の死体となった。
「遅い人たちでよかった……わっ!?」
 少女の足を、車の下で這いずっていた上半身だけのゾンビが掴んでいた。
 掴まれただけだ。なのに少女は苦悶の声をあげてうずくまった。掴まれたところから、肌が赤黒く変色していく。
 少女はあるの種のゾンビアレルギーだった。触れただけで体は強い拒絶反応を起こしてしまう。
「おね……ちゃん」
 その時。カートがひとりでに倒れた。

【続く】

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