読書メモ「愛するということ」

エーリッヒ・フロムの「愛するということ」を読んだ。

本について

 いわゆる古典的名著だ。原題は「The Art of Loving」で、適切に直訳するならたぶん「愛するという技術について」となる。いろんな本で引用されていて以前から目はつけていたが敷居が高かった。最近の出来事が重なって機が熟したと感じ、ようやく読むに至った。

注:暗に前提とされているが、人に対する愛の話をしている。

愛とは何か

 愛とは、「実存の問題に対する答え」であるという。僕には難しくてあまり理解できていないが、実存の問題というのは自分の存在を自分単体で肯定(というより評定)することが根源的に不可能らしいというパラドックスのようなもの。すごくざっくりいうと、人はみな孤独でさみしいということ。その結果、人は他者や環境とのつながりを欲する。その形の一つが愛だという。
 さみしさを和らげる(合一する)方法は様々なものがある。皆で踊る古代の祭儀のような興奮による合一体験や、習慣や信仰などの同調による合一体験、あるいは創造的活動による対象との合一体験などだ。これらは文明の発展とともに進化してきたし、その様子は人の発達段階においても垣間見ることが出来る。そして愛とは、この問題に対する答えの一つであり、完全な答えとしては唯一のものであるという。

愛がどうあるべきか

 愛には成熟度がある。未熟な愛は、その対象にアイデンティティ(意訳)をゆだねてしまう。極端なものを挙げれば支配や服従だ。それに対して成熟した愛は、アイデンティティを保ったまま行われる能動的な行為だという。そしてその能動的な性質を挙げると、配慮、責任、尊重、知である。最も簡単なイメージとしては、母親が子に向ける愛を考えると分かりやすい。他者として尊重しつつ自らのこととして気にかけることだ。そして、この種の愛に達するということは、つまりは自らが発達して成熟することにより実存の問題への成熟した答えにたどり着くということだ。(現代の実際の母子間では必ずしもそうとは限らないとは思う。後述)
 他にも、成熟した愛の要件はいくつかある。1つには、愛とは「落ちる」ような受動的な行為ではなく、自ら「入っていく」能動的な行為だということだ。そして、自分の価値を最も発揮できるように何かを人に与える行為であるということ。このあたりは他の本でも似たメッセージを見たことがある。
 詳細は長くなるので書けないが、他にも母性愛と父性愛といった軸や宗教や東洋/西洋間差、経済学的な視点からなどさまざまな分析がなされており、どれも納得できる。本筋から逸れるが、平等と同一の違いの議論から男女の両極性の消失を指摘しているのは、厳密に理解できているわけではないが慧眼だと思う。

愛は技術であって現象ではない

 こういった成熟した愛は能動的かつ自律的な行為だ。資本主義的価値観や各個人の未熟さによって外的な刺激や誘惑を愛と勘違いした結果、世間一般では愛は現象だと思われている。しかし、成熟した愛は主体の内部から生じるので、それは外部から舞い込む現象ではなく、主体の能力の表出なのだ。それで、この本では愛することを技術と言っているのだ。(意訳しているが本筋は間違っていないと思う。)(この部分は本の第一章で述べられるが、説明の都合上ここで書いている。)

その技術を習得するには?

  主張を粗くまとめてしまうと2つのポイントがある。謙虚さと客観性と理性を育てることによりナルシシズムを克服することと、根拠あるビジョンに基づいて自他を「信じる」ことの修練を積むことだ。
 しかし、僕が見出したのはどちらかというと、「愛されること」についての発達の大切さと、絶望である。結局、この「愛するという技術を習得するには」という命題は、「(行為としての)成熟した愛を可能とする人格にまで自己が成熟するには」と同じだ。この本の愛ついての洞察の中で、「自らが発達して成熟することにより実存の問題への成熟した答えにたどり着く」ためには、母性愛→父性愛、そしてそれらを内部に取り込み、自分自身が自らの父でもあり母でもある、つまり自分で自分を適切かつ十分に愛せるようになるという境地へと発達する(意訳)必要があるということを述べている。そして同時に、成熟した愛の姿は資本主義的価値観に従う通常の生活とは両立しえないとも指摘している。そう考えると、愛は世代を経るごとに減少してきたのだ。我々世代の父母が生まれた頃には資本主義のブレーキはとうに効かなくなっていたのだから、我々世代では愛はもうほとんど消えかけているということなのだろう。実感に論理が与えられたような感覚がある。
 この本も実際に、愛と現実との矛盾の指摘と、社会へのあいまいな提言で終わる。

感想

 新しい視点を多く得られたいい本だった。これらをもって僕が希望と絶望のどちらを見出すかは今の所分からない。


本の内容を書くのはやってみると面白かったので、定期的にやりたいと思う。


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